欧州中央銀行(ECB)は、ユーロにおけるリテール型中央銀行デジタル通貨(CBDC)について検討している。イブ・メルシュ(Yves Mersch)専務理事が11日に開催した米CoinDeskのバーチャルカンファレンス「Consensus: Distributed」で語った。
リテール型中央銀行デジタル通貨
欧州中央銀行(ECB)は2020年初めにタスクフォースを立ち上げ、中央銀行デジタル通貨(CBDC)について検討しており、今後数週間のうちに予備報告書を発表する予定と同行のイブ・メルシュ専務理事は語った。
同氏は5月11日に開催した米CoinDeskのバーチャルカンファレンス「Consensus: Distributed」で、デジタル通貨に対する中央銀行の取り組みについて語った。
「限られた金融機関を対象としたホールセール型CBDCは、ほとんどがこれまでのような業務になるだろう」とメルシュ氏は述べた。
「しかし、誰もがアクセス可能なリテール型CBDCはゲームチェンジャーとなる。そのため、今はリテール型CBDCが我々の主な焦点になっている」
リテール型CBDCは「非中央集権型」で流通するデジタルトークンをベースにしたものになる可能性があるとメルシュ氏は述べた。だが「ブロックチェーン」や「分散型台帳」という用語を使うことは避けた。
同氏は、デジタル取引のトレーサビリティ(追跡可能性)は、紙幣で支払うことに慣れている多くの人々の間にプライバシーへの懸念を引き起こすことを認めた。
「トークンベースのデジタル通貨は完全な匿名性を保証しないかもしれないという意見もある。仮にそれが事実であることが証明されると、社会的、政治的、法的な問題が必然的に浮かびあがることになる」と同氏は述べた。
「我々は現在、CBDCの流通を促進するために仲介者を使用すること、およびCBDCで取引を処理することによって生じる法的問題について検討している」
これらの法的問題の一部には、ECBは公的業務を民間の事業体に委託できるかどうかや、そうした事業体にどのような監督が必要となるかなどが含まれている。
キャッシュレス経済
CBDC開発にあたって考慮すべき点の1つは、現金利用が減少し始めているかどうかとメルシュ氏は述べた。仮に減少しているとしても、ユーロ圏では小規模なものであり、メルシュ氏が最新データを入手した3月には、紙幣の流通量は190億ユーロ近くに達していた。
「複数の国では電子決済がすでに現金利用を上回っているが、そうした国の通貨がユーロに及ぼす影響は小さく、ユーロ圏では現金利用が低下する傾向は見られない。ユーロ圏の全取引の約76%が現金で行われており、全決済額の半分以上を占めている」
ECBはデジタルユーロを検討しているが、CBDCの利用が銀行預金や他の金融機関を圧迫しないかどうかなど軽減しなければならないマイナス面も多い。
そうでなければ、金融危機の影響を増幅することになりかねない。
「仮に家計が銀行預金を1対1の割合でCBDCに交換できるようになると、銀行預金よりも、リスクのないCBDCを保有することははるかに魅力的なことになる可能性がある。銀行システムの危機の際に、これは前例のないスピードと規模の取り付け騒ぎを引き起こし、危機の影響を拡大させる可能性がある」
2012年からECBに在籍しているメルシュ氏は、以前から暗号資産(仮想通貨)について発言し、2014年にはビットコインはリスクの高い代替的な決済システムに過ぎないと述べた。また、同氏はリブラ(Libra)にも言及しており、ユーロの価値を損なう可能性があると警告している。
翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸
写真:CoinDesk
原文:‘Game-Changer’ Retail Digital Currency Now European Central Bank’s Focus, Board Member Says
協力:Nathan DiCamillo