アメリカの金融市場で証券の中央管理を担うDTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)が、証券処理の高速化で分散型台帳技術(DLT)の導入の検討を本格化する。
DTCCは買い手と売り手に代わって証券の交換を行い、中央証券保管所としての機能を持ち、いわばマーケットの心臓部にあたる。DTCCは5月18日、分散型台帳技術を導入することを目的とした2つのプロジェクトを発表した。
1つ目のプロジェクトは「イオン(Ion)」と名づけられた、代替可能な決済サービスの概念実証(POC)で、もう1つが未公開株の発行・取引にセキュリティトークンを利用するプロジェクトの「ホイットニー(Whitney)」。
オルタナティブ決済サービス「イオン」
DTCCは毎年、アメリカの証券市場の全体に相当する2000兆ドルもの有価証券を迅速に清算・決済するが、イオンはこれを劇的に変化させる未来を想定しているという。
デジタル化された資産は分散型台帳技術によって、よりスムーズに処理できる可能性があると、DTCCはプロジェクト概要書で述べる。決済サイクルが改善されれば、市場参加者にも波及効果があると主張している。
しかし、DTCCによると、現時点で分散型台帳技術が最適なものかどうかは明らかではない。また、同技術が大規模運用に耐えられるかは証明できていないが、イオンはそれを証明するための概念実証に位置づけられる。
「提案されたビジネスコンセプトを効果的に伝えるために、スケーラブルな設計よりもUI/UXが優先された」と概要書には記載された。イオンにおける「適切な技術の積み上げ」は今後検討が必要だと記された。
セキュリティトークンプラットフォーム「ホイットニー」
ホイットニーは実装にはほど遠いものだが、プロトタイプのレベルに近づきつつあるという。このプロジェクトは、セキュリティトークンを使って未公開株市場にアプローチしようというもの。
「未公開株式市場は、自動化レベルを向上させる時期を迎えている。数十年にわたって公開市場を支えてきたインフラの多くが不足している」とDTCCのビジネスイノベーション担当マネージングディレクター、ジェニファー・ピーブ(Jennifer Peve)氏は言う。
「ホイットニープロジェクトは、新しい技術を活用して、新しいソリューションをゼロから開発するエキサイティングな機会となるだろう」
しかし、「包括的なセキュリティトークンプラットフォームが優れた未公開株市場を提供する」という考えは現時点では、DTCCの1つの仮説に過ぎない。発行・流通・取引・コンプライアンスチェックのプロセスはチェーンの上で行われ、その全てはチェーン外の記録にも保存されることになるだろう。
ホイットニーでは、このコンセプトを既に12週間にわたりパブリック・イーサリアムネットワーク上で実行した。その間、スケーリングにおける課題に直面したという。この経験を踏まえて、DTCCは今後、パートナー企業にテストAPIを提供し、ハイパーレジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)やR3のコルダ(Corda)などの多くのブロックチェーンを対象とするプロトタイプを作成する方針だ。
翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:DTCCのジェニファー・ピーブ氏(CoinDesk archives)
原文:DTCC Considers DLT Use in Securities Trading With 2 New Studies