ベンチャーキャピタル世界大手のアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz:a16z)は、いくつかのサイクルに分けて暗号資産(仮想通貨)の歴史を説明している。この考え方はちょっとした議論を巻き起こした。
そのサイクルはいたってシンプルなものだ。価格が上がる→新しい関心を集める→新しいアイデアとユースケースが生まれる→新しいスタートアップや資金が参入する→より多くの人々を引き込む製品が登場する。そして、これを繰り返す。
目標を上回る資金調達に成功
アンドリーセン・ホロウィッツが資金調達に成功していなければ、話題にもならなかっただろう。
同社の新しいファンド「Crypto Fund II」は4億5000万ドルの調達を目標としていたが、5億1500万ドルを調達した。2019年のベンチャーキャピタルの平均調達額が350万ドルだったことを考えると、同社が言う暗号資産の「4度目のブーム」をスタートさせるには十分な資金だ。
アンドリーセン・ホロウィッツの今回の資金調達は、特に興味深い。その4つの理由を見てみよう。
1)ファンドが当初の調達目標額を超えたことは驚くべきことではない
注目すべきは、CBインサイツ(CB Insights)のデータによると暗号資産プロジェクトへのVCの資金提供が50%以上減少した1年が終わった直後に、今回の資金調達が行われたことだ。
落ち込みは暗号資産に限ったことではない。オルタナティブ投資データを提供するプレキン(Preqin)によると、2019年、VCの資金提供はすべてのセクターで平均18%減少した。暗号資産は低迷した値動きと強気市場の終わりによって、特に大きな打撃を受けた。サイクルの終わりに見られる典型的な状態だった。
2)今回の資金調達は、アンドリーセン・ホロウィッツの2つ目のファンドだった
最初のファンドは2018年に3億ドルを調達した。同じ年、同社は2つ目のバイオテックファンドでも4億5000万ドルを調達し、次の急成長分野と同社が考えている分野への特化という方針の拡大を示した。
しかし、VCの暗号資産ファンドには特有の制約がある。そこで同社は2019年、全従業員をファイナンシャル・アドバイザーとして登録し、同社の投資スタイルとその範囲に大きな自由をもたらした。同社はいまや、暗号資産やトークンに直接投資できる。しかも、同社の暗号資産ファンドからだけではない。同社の他のファンドも暗号資産に投資できる。新しいサイクルの始まりにおいて、興味深いポジションをとっている。
3)なぜ暗号資産に特化したファンドを立ち上げたのか?
他の多くのVCのように一般的なファンドから暗号資産に投資するのではなく、なぜ暗号資産に特化した専用ファンドを立ち上げたのだろうか? 実際、アンドリーセン・ホロウィッツは早くも2013年には暗号資産スタートアップへの投資を始めていた。
暗号資産ビジネスは通常、「伝統的な」テクノロジービジネスとは大きく異なっている。テクノロジーへの理解がある程度必要なだけではなく(そして、それは常に簡単なわけではない)、完全に従来とは異なるビジネスモデルとなる。慣れ親しんだテクノロジーや考え方は、暗号資産ビジネスには必ずしも当てはまらない。
暗号資産に特化したベンチャーファンドは、高いレベルの専門知識を生かし、投資家と投資を受ける企業の双方に、より専門的なサービスを提供できる。そして、それが進化の激しい暗号資産分野では、成功するVCと失敗するVCを分ける違いとなり得る。
一方で、一般的なベンチャーファンドによる投資は、ブロックチェーンベースの企業が、より一般的なテクノロジー企業として認識されるようになっていること、そして最終的には主流の企業となることを示している。
暗号資産プラットフォームのファルコンX(Falcon X)は5月20日、アクセル(Accel)が主導するプレシードおよびシードラウンドで1700万ドル(約18億円)もの調達に成功した。アクセルは数年前にフェイスブックのシリーズAラウンドを主導ている。
ファルコンXの資金調達ラウンドには、スナップ(Snap)やレディー・ガガのハウス・ラボラトリーズ(Haus Laboratories)にも投資したライトスピード・ベンチャーズ(Lightspeed Ventures)や、アコンプリス(Accomplice)といった有名VCも参加した。これらのVCは、ファルコンXがいずれは有名企業の仲間入りをすることに賭けている。
5月初旬にも同じような話があった。暗号資産を使ったショッピング報酬プラットフォームのロリー(Lolli)は、エアビーアンドビー(Airbnb)やスペースXに投資したピーター・ティール氏のファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)、リンクトインやサーベイモンキー(SurveyMonkey)に投資したベイン・キャピタル(Bain Capital)、レディット(Reddit)やバード(Bird)に投資したクラフト・ベンチャーズ(Craft Ventures)などから300万ドルを調達した。
暗号資産に特化したVCファンドは、より深い専門知識を活用し、その資金の使い途についてより慎重な選択を行うことができる。一方、主流ファンドは、暗号資産への投資を新しいエキサイティングな成長分野の1つとして扱っている。
ファイナンシャル・アドバイザーとしての新しい立場を得たアンドリーセン・ホロウィッツはおそらく、専門的、およびより広範なテクノロジーに関する知見と経験の双方から暗号資産ビジネスのサポートを大胆に表明していくだろう。
4度目のサイクルのスタートでは、暗号資産と他のテクノロジーの境界線が曖昧になっている可能性がある。
4)ファンド資金の流入は機関投資家の関心を示している
一般的、専門的にかかわらず、こうしたファンド資金の流入は、暗号資産関連ビジネスへの機関投資家の関心を示している。市場のオブザーバーとして我々はしばしば、機関投資家の活動を示すサインとして暗号資産取引所の取引高に焦点をあてる。
しかし、暗号資産に直接投資する可能性がある機関投資家は、ベンチャーキャピタルに投資する機関投資家と比べると、比較的少ない。我々は機関投資家の活動のサインを求めてスポットおよびデリバティブ市場のチェックを続けるが、同時にVCからの資金提供にも目を光らせる。それは実際に機関投資家がこの分野で活動を行っている確かなサインだからだ。
これは、この分野で機関投資家が興味を持っているものを知るための比較的簡単な方法でもある。機関投資家のほとんどは、暗号資産に直接投資することを許されていない。ベンチャーファンドなどを通して行う必要がある。
また、多くの機関投資家にとって、暗号資産が持つボラティリティは大きすぎる。ベンチャーファンドへの投資は、投資先企業の評価が突然変化するようなことなく、潜在的に同じメリットをもたらす。
銀行サービスを一部の選ばれた暗号資産企業にも拡大したJPモルガン・チェースやヘッジファンドのポール・チューダー・ジョーンズ(Paul Tudor Jones)氏のような大手金融機関や投資家の存在と、市場の潤沢な資金の存在を考えると、我々は暗号資産VCの黄金時代を迎えつつあるのかもしれない。
VCによる資金提供は、構築、進歩、製品・サービスの開発を促すサポートであり、利益を追求する機関投資家に対する魅力的な一面を表している。4度目のサイクルが楽しみだ。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Marc Andreessen (photo by JD Lasica, Flickr)
原文:Crypto Long & Short: Innovation Cycles, Crypto Venture Funds and Institutional Investors