米連邦準備理事会(FRB)は6月10日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、ゼロ金利政策は2022年末まで維持する方針を明らかにし、アメリカの失業率は少なくとも今後3年にわたり高い状態が続くと警戒した。
景気後退が消費者需要を圧迫し、高い失業率は賃金の上昇圧力を取り除く。FRBは、近い将来に激しいインフレが起こる可能性は低いとしている。
一方、FRBの動きに反応して、ビットコインの価格は上昇した。暗号資産(仮想通貨)市場からは、金融緩和政策が長引くなかで、遅かれ早かれ迫り来るインフレに対する動きが今後も活発化するとの見方が聞かれる。
法定通貨の価値変動をヘッジする
デジタル資産リサーチ会社デルファイ・デジタル(Delphi Digital)の共同創業者であるケビン・ケリー(Kevin Kelly)は、景気の先行きが悪いことは、政府が経済刺激策をさらに強化する可能性があることを意味すると言う。
米議会予算局は、連邦政府の財政赤字は2020年会計年度に3兆7000億ドルに達すると予測している。これは世界金融危機後の2009年会計年度に記録した1兆4000億ドルの2倍以上だ。
「こうした状況は、法定通貨の価値低下をヘッジしようとする動機に繋がり」、ビットコインに対しては有利に働くと、ケリー氏は話す。
「FRBはお金を印刷することはできても、雇用を印刷することはできない」と話すのは、暗号資産取引所にソフトウエアを提供するアルファポイント(AlphaPoint)の副社長スコット・バンバチーニョ(Scott Bambacigno)氏。
「経済がこの方向性を維持すれば、ゴールドやビットコインのような資産は注目されるだろう」
ビットコイン価格は年初以来、36%上昇した。背景には、インフレヘッジのための資産クラスとして、ビットコインに対する市場の期待の高まりがある。
FRBのインフレ見通し
これまでのところ、インフレは抑えられている。失業率の上昇は賃金の伸びと消費者需要を弱め、モノやサービスの価格上昇圧力を弱めている。
10日に発表された経済見通しによると、FRBはアメリカのインフレ率は今後3年間、2%以下にとどまると予想している。
個人消費の支出額は2020年、1%の伸びにとどまると予想されている。これは12月の予測数値1.9%から低下している。インフレ率は2021年は1.5%、2022年は1.7%になると予測されている。
現状、債券トレーダーはインフレの脅威は皆無に等しいと考えている。FRBが10日に発表したデータは、その主張を裏付けるものだ。
米労働省は10日、5月の消費者物価指数(CPI)を発表。前年比でわずか0.1%の上昇にとどまった。石油や他のエネルギー関連コストの下落が主な原因だ。
食品やエネルギーを除いた、いわゆる「コアCPI」の前年比は1.2%上昇し、わずか数カ月前の半分以下の上昇率となった。BNPパリバのエコノミスト、スコット・アンダーソン(Scott Anderson)氏によると、これは2011年以降で最も低い数値だ。
「コアCPIは2021年初頭までは安定的に推移し、その後に回復に向かうと予想している」とアンダーソン氏は10日、メールで述べた。
調査会社ビオラ・リスク・アドバイザー(Viola Risk Advisors)のデビッド・ヘンドラー(David Hendler)氏は、「この先には大幅なインフレが待っている。人々が仕事に戻れば、お金は動き始める」と話す。
調査会社デジタル・アセット・リサーチ(Digital Asset Research)の共同創業者グレッグ・シポラロ(Greg Cipolaro)氏は、インフレに対する潜在的なヘッジとしてのビットコインの魅力は、機関投資家の間で暗号資産への関心が高まっていることが証明していると語った。
翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:First Mover: Fed Sees No Inflation Through 2021, but Bitcoiners Are Betting on It Anyway