証券型トークン、日本で2020年4月に登場か──JCBAがICO規制で提言

日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA : Japan Cryptocurrency Business Association)は2019年3月19日、「新たなICO規制についての提言」に関する説明会を開き、その内容と背景を解説した。

「新たなICO規制の提言」に関する説明会を開催 / JCBA

同協会専務理事の幸政司氏は、3月15日に仮想通貨の交換業者や取引に関する資金決済法と金融商品取引法の改正案が閣議決定されたことを機に、説明会を開催するに至った背景を説明した。

同氏は「ICOに関しては協会にも国内外から多数の相談があったが、2018年1月(コインチェックの)仮想通貨不正流出事件から止まっているのが現状。ICOは国内で禁止されているわけではないが残念ながら取り組みが進まず、有望なICOが日本ではなかなか実現してこなかった」と述べた。

「ICO提言」に関しては、同協会のICO検討部会長の朏仁雄氏(株式会社ビットポイントジャパン執行役員COO)が、詳細なレクチャーを行った。

「仮想通貨」「トークン」の定義

本説明会の内容を理解するには、前提として仮想通貨ユーティリティトークンセキュリティトークンという3つのキーワードを理解する必要がある。CoinDesk Japanでは、まず日本仮想通貨ビジネス協会より提供された資料に沿って、それぞれの定義を整理する。

まず「仮想通貨」資金決済法において、次のように整理されている。同法の定義に基づき、金融庁が主導のもとで仮想通貨交換業者の登録が行われてきた。ビットコインやイーサリアム、リップルなど仮想通貨交換業者で購入できるものが「仮想通貨」にあたる。

資金決済法における「仮想通貨」の定義 / JCBA

一方で「トークン」は次のように説明された。すなわち、仮想通貨の領域では、企業や個人によりブロックチェーン上で発行された独自の通貨である。イーサリアムなど既存の仮想通貨をプロトコル(コンピューター同士が通信をする際の手順や規約などの約束事)として、そのブロックチェーン上で発行されるものが「トークン」と呼ばれる。

「トークン」の定義 / JCBA

さらにトークンは大きく分けて「ユーティリティ(実用的)トークン」「セキュリティ(証券型)トークン」2種類に大別することができる。ユーティリティトークンはトークンの原義である「代用硬貨」に近く、トークン発行者が提供するサービス内での利用を主な目的としたものだ。一方で、セキュリティトークンは、厳密には法で定められた「証券(Security)」ではないものの、ブロックチェーン上であたかも「証券のように」機能するトークンを指してきた。

証券型トークンは遅くても2020年4月に登場か

今回、閣議決定された仮想通貨の交換業者や取引に関する資金決済法と金融商品取引法の改正案において、大きなポイントとなるのは、収益分配を受ける権利が付与されたICOトークン、広くはセキュリティトークンにおいて「金融商品取引規制の対象となることを明確化」と明らかな指針がなされたことだ。

金融庁「国会提出法案(第198回国会)」の関係資料より「概要

「今回、(トークンに関する)法律が明確になる指針が出された。ユーティリティトークンは資金決済法、セキュリティトークンは金融商品取引法となる」(朏仁雄氏)と考えられており、「改正法案がとおって施行されるまで、早ければ2019年末、遅くても2020年の4月頃ではないか」(幸政司氏)との見通しもなされた。

日本仮想通貨交換業協会の統計情報によれば、2018年12月の現物取引高は7774億円、証拠金取引高は8兆4152億となっている。日本において、ユーティリティトークンやセキュリティトークンの発行に関する法制度が整えば、さらに仮想通貨に関わるビジネスの市場が広がる可能性がある。

ICOにおけるユーティリティとセキュリティの区別

日本仮想通貨ビジネス協会が発表した「ICO提言」では、今回閣議決定された改正案に対して、いつくかの懸念点が指摘されている。詳しくは公開されている「新しいICO規制についての提言」を参照いただきたいが、CoinDesk Japanでは「ICOへの対応」にポイントを絞って紹介したい。

今回の改正案に関する説明資料では、「ICOの対応」として「金融商品取引規制の対象となることを明確化」と述べられており、「株式等と同様に、発行者による投資家への情報開示の制度やトークンの売買の仲介業者に対する販売・勧誘規制等を整備」とかなり厳しいルールが整備される見込みだ。

金融庁「国会提出法案(第198回国会)」の関係資料より「説明資料 p.4」

しかし、同資料では「収益分配を受ける権利が付与されたトークン」と、定義上「セキュリティトークン」に分類されるトークンのICOについては述べられているが、トークン発行者が提供するサービス内での利用を主な目的とした「ユーティリティトークン」のICOについては言及がない。またセキュリティトークンが金融商品取引法の規制対象となることは述べられているが、すでに仮想通貨に対して適用されている資金決済法との二重規制となる可能性があり、「ICO提言」では「セキュリティトークンについては資金決済法の適用除外とする規定が必要」(朏仁雄氏)と提言された。

一方で、世界的な潮流では、セキュリティトークンに基づく資金調達を「STO(Security Token Offering:セキュリティ・トークン・オファリング)」と呼び、あえて区別する動きもあるが、今回の金融庁の説明ではSTOのみをICOと定義している形だ。そのため、「ICO提言」ではユーティリティトークンの販売による資金調達については、別の枠組みがあるべきだと提言されている。

決済に関する規制対象となるユーティリティトークンに関する規制 / JCBA

またユーティリティトークンの販売による資金調達に対しては、仮想通貨と同じく資金決済法が適用されることになる。つまり、小規模のICOでも「トークンを発行して販売する場合は、登録された仮想通貨交換業者しか扱えないのが現状」(朏仁雄氏)だ。今回の説明会では、ICO提言に基づき「少額、少人数で募集する場合は、必ずしも登録業者でなくても扱えるようにしてもよいのではないか」(朏仁雄氏)との提案がなされた。

ICOを安心して取引できるマーケットにする

今回の「ICO提言」では、そのほか仮想通貨の新規の取り扱いの再開や、価格変動のないステーブルコインの法的な位置づけ、セキュリティトークンの二次流通市場の必要性、ICOの会計処理等の取り扱いなど、さまざまな提言がなされている。

国内で取り扱うことのできる仮想通貨の健全な拡大に向けての課題整理 / JCBA

トークンを発行して投資家から広く資金を募るICOでは、かねてから詐欺まがいの案件が問題となっており、投資家を保護するための一定のルールづくりが課題となっていた。今回の日本仮想通貨ビジネス協会の「ICO提言」は、閣議決定された資金決済法と金融商品取引法の改正案に対して、ビジネス側からのより踏み込んだ提案内容だといえるだろう。

「ICOが日本に根付き、小規模でも使いやすい安心して取引できるマーケットになってほしいと考えて、今回の提言をさせていただいた。私たちはこうした取り組みにより産業界へ寄与できると考えている」(幸政司氏)

取材、文:久保田大海
編集:佐藤茂
写真:ICO image via Shutterstock