2020年4月以降、アリババのブロックチェーンに関する動きが一段と活発化している。4月中旬に、アント・ブロックチェーンが立ち上げたのが企業向けブロックチェーンプラットフォームである「螞蟻開放聯盟鏈(アント・ブロックチェーン・オープン・アライアンス)」だ。
アリババは創業以来、中小企業に寄り添いながら、ここ数年はクラウド・ブロックチェーンほかの技術を駆使して中国のデジタル化に寄与してきた。巨大プラットフォーマーのアリババにとって、このアント・ブロックチェーン・オープン・アライアンスはどのような役割を果たすのだろうか。
アリババ・クラウド(阿里雲)、誕生から一気に拡大も世界シェアはまだ5%弱
アリババ躍進を分析する上で重要な節目は2009年だ。9月にクラウドコンピューティング子会社のアリババ・クラウド(阿里雲)を設立し、11月に第1回独身の日セールを開催しているからだ。「阿里雲」と「独身の日」は、2010年代のアリババ急発展の原動力となった。
独身の日セール売上げは、第1回の5,000万元(7.7億円)から、昨年の11回目は2,684億元(4.1兆円)へ、何と5,000倍以上に拡大した。阿里雲は、この驚異の大爆発をシステム面で支えた。阿里雲に関する主な年表は以下の通り。
2011年7月 クラウド事業の外販を開始
14年10月 金融子会社「螞蟻金服」(アント・フィナンシャル)発足
15年1月 中国鉄道総公司の予約発券システムを担当。
16年5月 日本進出(ソフトバンクとの合弁・SBクラウド設立)
17年10月 研究機構「達磨院」発足
17年11月 阿里雲「城市大脳」で国家AIプロジェクトに選定
Canalysの世界クラウド市場シェア調査(2019年)によれば、阿里雲は4位に付けている。
AWS……32.3.%
Microsoft Azure……16.9%
Google Cloud……5.8%
阿里雲……4.9%
もはやネット通販企業のシステム子会社ではなく、世界5指に入るクラウドコンピューティング企業である。中国国内シェア(2019年Q3)でも、阿里雲46.4%、騰訊雲8.8%、AWS8.6%とライバルのテンセントに大差を付けている。
ブロックチェーンへシフト、注力分野は医療と著作権
クラウド事業に着手して10年弱、アリババは2018年、ついにブロックチェーンに本腰を入れる。
アリババ創業者ジャック・マー会長は同年8月、アリババが重視する3の事業として、「金融分野のブロックチェーン」「人工智能(人工知能)」「IoT」とブロックチェーンを一番に挙げた。報道によれば、杭州市のアリババ本社を訪問したマレーシアのマハティール首相に対しての発言だ。
そして螞蟻区塊鏈(アント・ブロックチェーン)設立の翌月、「阿里雲 BssSブロックチェーン商業化大会」を深圳市で開催、Hyperledger Fabricの正式な商業化を発表した(阿里雲のBaaSは、Hyperledger Fabric、アント・ブロックチェーン、Quorumの3つメインエンジンをサポートしている)。
阿里雲幹部は、ブロックチェーンの業務上の価値と応用について紹介。阿里雲がカバーするIoT、AIなど他の技術とも統合されることで、豊富なソリューションを提供できることをアピールした。この大会以降、ブロックチェーン活用の動きは加速していく。主な動きを確認しておこう。
2019年
4月 阿里雲が支付宝とともに「ブロックチェーン医療ソリューション」公布
5月 医療ベンチャーの塞力斯と提携
11月 映画配信にブロックチェーン導入
12月 コンソーシアム・ブロックチェーンを安全高速にする米国特許2件を公表
2020年
4月
・螞蟻開放聯盟鏈(Ant Open Alliance Chain)立ち上げ
・地下鉄乗車券をブロックチェーンで統合
・バイトダンスがアント・ブロックチェーンに参加、著作権や電子身分証に活用
・知的所有権裁判にアント・ブロックの技術が導入される
5月
・音楽著作権保護関連で、米国に特許を申請
・インテルと提携して、リースのサプライチェーンをブロックチェーンで管理
・アント・ブロックチェーン、南京市と“タイムバンキング”モデルのシステム構築に協力
こうして見ると複数に及ぶのは、医療・養老関連と著作権・知的所有権関連であることがわかる。いくつか詳しく見てみよう。
地下鉄乗車券をブロックチェーンで統合(20年4月)
アント・ブロックチェーンを利用、地下鉄を統一切符として、長三角(上海市、浙江省、江蘇省デルタ)各大都市の軌道交通(地下鉄+ライトレール)をカバーすることになった。地下鉄アプリを使って、この地域の都市の軌道交通に乗車できる。最大の難点だった各都市で異なる運賃の決済を、即時に行えるようになった。
ここでは、AliPayがすでに上海市で提供していたmPaaS(モバイル・パッセンジャー・アズ・ア・サービス)というシステムの応用経験を生かした。大量のトラフィックをさばくことが可能で、全国展開を目指す。
インテルと提携、リースのサプライチェーンをブロックチェーン化(20年5月)
アント・ブロックチェーンの子会社「アント・ブロックチェーン・テクノロジー(螞蟻区塊鏈科技)」が米国インテルと戦略提携で合意し、インテルのチップを搭載したハードウェアのリースのサプライチェーンをブロックチェーンで管理することになった。
アント・ブロックチェーン・テクノロジーは2016年、アント・フィナンシャルの完全子会社である杭州螞蟻未来科技有限公司(杭州アント・フューチャー・テクノロジー)が新たに設立した。
アント・ブロックチェーン、南京市の“タイムバンキング”モデルのシステム構築で協力(20年5月)
高齢化の進む南京市が独自に取り組む「タイムバンキング」モデルは、介護などボランティアの活動を数値化し、交換可能とすることで、参加者のインセンティブを高めようという取り組み。これをアント・ブロックチェーンがシステム面で支えることになった。
南京市の65歳以上の人口100万人(全体の15%)といわれ、中国でも高齢化が進んだ都市の1つだ。タイムバンキングモデルは同市が2012年から、主に独居の高齢者対策として取り組んできた。
アント・ブロックチェーン・オープン・アライアンスが果たす役割
2020年4月、アリババはブロックチェーンに関する動きを一段と加速した。4月中旬に、アント・ブロックチェーンが企業向けのブロックチェーンプラットフォーム「螞蟻開放聯盟鏈」(アント・ブロックチェーン・オープン・アライアンス)を立ち上げたのは、その狼煙(のろし)と言えるだろう。
螞蟻開放聯盟鏈は、中小企業がアリババのブロックチェーンに低コストでアクセスできるように提供するサービス。参加すれば、トレーサビリティ、契約管理、サプライチェーン、倉庫保管、セキュリティーなどブロックチェーンが得意とする分野のソリューションでのコストを大幅に減らすことが期待できる。
アリババは創業以来、常に中小企業に寄り添い、共に近代化を進めてきた。螞蟻開放聯盟鏈はアリババの「デジタル・チャイナ戦略」のラストピースとなるのだろうか──。最近の提携活発化からすると、その答えはここ1~2年で明らかになりそうだ。
文:高野悠介
編集:濱田 優
画像:Shutterstock