シティバンクがコイン発行を断念した理由を語る。「目的達成に時間がかかりすぎる」

米金融大手JPモルガン・チェースが2月、独自の仮想通貨「JPMコイン」の開発を発表し、世間を騒がせた。実は、遡ること2015年に、別の大手金融機関も海外決済システムを改善すべく、トークンの活用を試みていた。このことを振り返るのに今は丁度良いタイミングだろう。

米金融大手シティグループがダブリンに置くイノベーション・ラボで開発されていたプロジェクト、コードネーム「シティコイン(Citicoin)」が正式に発表されることはなかった。概念実証としてすらも。同プロジェクトのコンセプトは、海外決済プロセスを効率化すること。JPMコインと明らかに類似している点がある。

しかし、実験を吟味した結果、同社は同テクノロジーには役割を果たすポテンシャルがあるとしつつも、決済システムを改善するには、より効率的で効果的な方法が存在すると結論づけた。(同プロジェクトが当時ビットコインコミュニティから低い評価を受けていたことも特筆に値するだろう)

そう語るのは、シティバンク、イノベーション・ラボの現所長で、トレジャリーアンドトレード・ソリューションズ向けイノベーションのグローバルヘッドを務めるGulru Atak氏。同氏は、前任者たちの仮想通貨実験について、以下のようにCoinDeskに語った。

「この実験から学んだことをもとに、我々は、決済エコシステムおよびその内部に存在するエコシステムを活用し、既存のインフラに意味のある改善を加えることを決断しました。国際銀行間通信協会(SWIFT)など世界中の規制機関やフィンテックを活用することも検討しております」

同氏は、慎重に一歩身を引いた観点から、シティバンクは、海外決済を改善するにあたって、効果的でありつつも、短期的に効果が見られる手段を検討していると語った。「私たちは、将来的な技術に全力を注ぐのではなく、『今』変化を起こそうとしています」

結局のところ、ブロックチェーン活用技術を用いて、海外決済ネットワークを完全に変えるためには、世界中全ての銀行に参加してもらう必要があると同氏は述べている。また、以下のようにも付け加えている。

「海外決済を考えた際、世界中に銀行はいくつあるでしょうか?そして、そのうち何社がすでにSWIFTに加入しているでしょうか?また、それらの銀行に加入してもらうまで、SWIFTはどれくらい時間をかけたでしょうか?」

同氏は、シティコネクト(CitiConnect)を例として挙げながら、シティの近年のブロックチェーン戦略は、レガシーシステムを統合する方法の模索が中心となっていると語った。シティコネクトは、シティが有価証券周りの決済を効率化するためにナスダックと提携して、2017年に打ち出したサービス。こちらもJPMコインと類似する点がいくつかあると同氏は述べている。

「シティコネクトはステーブルコインを発行するわけではなかったが、同プロジェクトで使用されていたインフラは、ブロックチェーンプラットフォームでコインを発行するのに近かった。しかしコインの発行は純粋に顧客側のブロックチェーンシステムに組み込み、弊社のレガシー決済プロセスへのリアルタイム接続を可能とするためだった」

貿易金融からFXまで

Atak氏は、これまでのブロックチェーンイニシアチブを喜んで振り返ってくれた。しかし、シティは、今後もブロックチェーンの活用法を、特に貿易金融といった領域で、間違いなく模索していくだろうとも付け加えている。

この領域での活用の方がより現実的だと同氏は述べている。本格的な海外決済システムよりも貿易金融用のエコシステムを構築する方が加入してもらう銀行の数が少なくて済むからだ。「我々は現在、貿易領域、貿易金融、信用状により焦点を当てており、この技術を現在実験中です。しかし、 我々は大胆な公式発表をすることに対して、遠慮がちと言えるかもしれませんね」

競合する世界銀行HSBCは、シティほどシャイではないようだ。今年1月、同銀行は2018年にブロックチェーン技術を使用して、2500億ドル(約27兆円)相当の外国為替(FX)取引を処理したと発表している

シティのイノベーション・ラボでブロックチェーン担当を務めるOpeyemi Olomo氏は、FX市場は、信用の透明性関連の問題を抱えており、明確な痛点が存在していると述べている。海外決済と同じく、FX市場にブロックチェーンを活用するかどうかは、エコシステムの構築、およびその恩恵に対してどれだけの手間がかかるかという点にかかっている。

Olomo氏はチャンスがあることを認めている。

「FX領域のエコシステムはニッチで、主要リクイディティプロバイダーの数はそんなに多くない。このエコシステムならば、システムを考案し、5社か6社集めれば、実際に変化を生み出せる可能性がある」

本質を問うべき

多くの産業が既存の手段や商品を、それらがそもそもなぜ生み出されたのかを考えずに、ブロックチェーンプラットフォームに移そうと努力していると同氏は語った。

そうではなく、その手段や商品の本質をじっくりと考察することが必要かもしれないと同氏は示唆している。「例えば、人類はなぜ信用状という決済手段を思いついたのでしょうか?どのような問題を解決すべく生まれたのでしょうか?」

このような哲学的なアプローチがシティの思想を導いていくだろうとAtak氏は付け加えた。

同氏は以下のように締めくくっている。

「私は、自分たち自身にも疑問を投げかけています。我々はこのテクノロジーを最大限に活用するために検討しているのか?それとも、現在のシステムに存在する摩擦や非効率的オペレーションをなくそうとしているだけなのか?」

翻訳:Yuta Machida
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:Citibank image via Shutterstock
原文:Citi Has Scrapped Its Plan for a JPM Coin-Like Bank-Backed Cryptocurrency