20歳の株取引アプリユーザーの自殺、暗号資産取引所の投資家保護は万全か?

アメリカの若い世代に人気の株取引アプリ「ロビンフッド(Robinhood)」を使っていた20歳の学生が、複雑なオプション取引で多額の損失を出したと誤解して、自らの命を絶った。

アメリカではネット証券会社によるし烈なシェア争いが続くなか、学生トレーダーの自殺は多くの大手米メディアが報じた。暗号資産(仮想通貨)取引所を運営するビットフライヤーUSの最高執行責任者(COO)、ジョエル・エドガートン(Joel Edgerton)氏は、同業界においても取引所の責務を再考すべきだと話す。

多くの暗号資産取引所は、ユーザーが保有する資金を超えた取引が可能で、責任ある取引所というより「カジノに似ている」と、エドガートン氏は言う。「カジノのように運営され、顧客から搾取している取引所は多い」

20歳の学生だったアレクサンダー・カーンズ(Alexander Kearns)氏は、 自らが利用していたロビンフッドのアプリ残高がマイナスの73万ドル(約7780万円)になった後、自殺を図ったとされている。しかし、その額は契約が実行される間の一時的なもので、実際の損失額ではなかったことが明らかになったという。

ロビンフッドは、大きな悲劇を招いた誤解や混乱を避けるための安全対策を設けずに、アマチュアトレーダーに複雑な商品を購入させていたとして批判を浴びている。

ロビンフッドは先週末、自殺予防に取り組むNPO「American Foundation for Suicide Prevention」に25万ドルを寄付し、複雑なオプション取引を行うための資格要件を厳しくするなどの対策を講じると発表した。

暗号資産のレバレッジ取引をめぐる議論

一方、暗号資産取引所バイナンス(Binance)の「CZ」ことジャオ・チャンポン(Zhao Changpeng)CEO氏は先週、今回のニュースに対して、同社はすでに「Responsible Trading」機能を実装しているとコメントした。しかし、フランスを代表する銀行であるBNPパリバで、保険部門の業務責任者を務めてきたエドガートン氏は、暗号資産取引所の投資家保護における問題を述べる。

エドガートン氏は「ジャオCEOの対応は営利的だ」と述べたうえで、バイナンスはユーザーを夢中にさせ、「中毒性のあるプロダクトを作った事実を浮き彫りにしている」と話す。

これはタバコ会社が責任を持ってタバコを吸うようにと言っているようなもの。もしバイナンスが実際に顧客のことを気にかけているなら、125倍のレバレッジ取引(証拠金取引:証拠金の数倍の取引が可能になる取引)を販売することはないだろう。(エドガートン氏のツイート)

125倍のレバレッジ取引を無差別に提供している暗号取引所はどこも(バイナンスは2019年10月に提供を開始)、顧客保護に真剣ではないとエドガートン氏は続けた。

レバレッジ取引の魅力とリスク

2017年にUSオフィスを開設したビットフライヤーは、レバレッジ取引の利用を制限しているという。問題のあるユーザーを特定したり、取引を禁止することもできる。CoinGeckoによると、ビットフライヤーは世界で第9位、日本でトップの取引所だ。

2019年夏、デリバティブ取引所のビットメックス(BitMEX)で100倍のレバレッジ取引を行った中国のトレーダーは、1度の取引で約1640万ドル(約18億5000万円)の損失を出した後、自殺したと報じられた。

ビットメックスのアーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)CEOはこれまで、自由市場において搾取や詐欺を心配するなら、顧客はいつでも他のサービスに乗り換えることができると述べてきた。

CoinDeskはバイナンスとビットメックスに取材を試みたが、バイナンスはコメントを控えた。ビットメックスからの返答は得られていない。

暗号資産取引所は顧客保護において多くの果たすべき役割があると、エドガートン氏は強調する。世界中の規制当局は、個人投資家のレバレッジ取引に上限を設けている。日本の金融庁は2020年、レバレッジを最大2倍に制限している。

投資家が内容を理解しているかどうか、このレベルのリスクをカバーできるだけの収入があるかどうかを最初に確認せずに、取引所がボラティリティの高い資産を使った100倍のレバレッジ取引を提供すべき理由はないと、エドガートン氏は主張する。

「我々は顧客に適した商品を提供する責任がある。(今回の学生トレーダーの自殺は)企業が顧客のために正しいことをするのではなく、技術と利益に最大の焦点を当てたことで起きた」

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:Crypto Exchanges Must Stop Acting Like Casinos in Wake of Robinhood Suicide: bitFlyer Exec