ビットコインが世界の基軸通貨としてのポジションをドルから奪った未来を想像してみてほしい。ビットコインの価格変動(ボラティリティ)が続くなら、主要通貨は変動性を持つ資産とみなされることになる。
下図はドル、ユーロ、円、ポンドをビットコイン換算で見たときの、過去数カ月間の為替レートを示したものだ。
頭の体操のようなこの図は、暗号資産(仮想通貨)投資会社キャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)のマット・ウォルシュ(Matt Walsh)氏とニック・カーター(Nic Carter)氏が「ステーブルコイン」に関するレポートで強調したことを表している。
ステーブルコインではなく「クリプト・ドル」
ステーブルコインはその価値がドルや他の主要な通貨あるいは資産に基づいたもの。ビットコインなどの暗号資産よりも価格が安定しているデジタル資産というアイデアから生まれた。
しかし、ウォルシュ氏とカーター氏はドルに裏付けられたステーブルコインを「クリプト・ドル(暗号資産ドル)」と表現した。安定性は人それぞれの見方によるという意味を含んでいる。
「当初は『ステーブルコイン』と呼ばれていたが、価格変動が大きい『ネイティブ』暗号通貨への対抗策として台頭してきたため、ますます『クリプト・ドル』と言われるようになっている」
ドル連動型ステーブルコインの人気が高まるにつれて、こうしたリブランディングは人気を集めるかもしれない──ビットコインと比較すると、ここ数カ月はかなりひどい投資の選択肢となっているのだが。
先週お伝えしたように「CoinDesk 20」のデジタル資産は7月、ドル連動型ステーブルコインを除いてすべて上昇した。ドル連動型ステーブルコインの価格は定義上、ドル換算で変化していない。
これは、最近の外国為替市場でドルがいかに弱いかを反映している部分もある。つまり、新型コロナウイルスによる景気後退が続くなか、投資家のドルに対する悲観的な見方を反映している。
人気を集めるステーブルコイン
暗号通貨データ会社コインメトリックス(Coin Metrics)によると、これら「クリプト・ドル」の残高は過去4カ月で約130億ドル(約1兆4000億円)と2倍以上に増加した。
暗号資産トレーダーはステーブルコインを流動性の一形態として使い、取引所間で資金を簡単に移動させている。
ステーブルコインは本質的には民間企業が発行するデジタルマネーであり、キャッスル・アイランド・ベンチャーズはいつの日か「クリプト・ドル発行者が世界中にパッチワークのように」存在するようになるかもしれないと指摘した。
すでに16のドル連動型ステーブルコインを合計すると、72カ国のマネタリーベース(資金量)を上回っている。
レポートによると「商取引におけるクリプト・ドルの受け入れは進んでいる」と同時に「クリプト・ドルは単に取引所間の決済に使われるだけでなく、ノンバンク・ドルの代替品として使われ始めていると認識されている」。
価値は安定? 下落?
投資会社ジャンプ・キャピタル(Jump Capital)は少なくとも今のところは「人々はドルを求めている」と、オンラインメディア「The Block」のコラムに書いている。
「アメリカの金融政策や債務水準に対する潜在的な懸念にもかかわらず、世界中の数十億人の人々にとって米ドルは自国通貨よりも安定している」
ジャンプ・キャピタルはステーブルコインの市場価値は、ビットコインの市場価値(現在、2180億ドル)をいずれ上回る可能性があると予測している。
「我々は米ドル連動型ステーブルコイン、つまりクリプト・ドルは暗号資産の『キラーアプリ』になる可能性が高いと考えている。数年前に『ビットコインではなくブロックチェーン』と言われたのと同じように『ビットコインではなくステーブルコイン』と言われるようになる可能性が高い」
こうした見通しは、人々がドルベースでの安定性を求め続けていることを前提としている。とはいえ、ビットコイン価格は今年、対ドルで65%上昇している。
言い換えれば、クリプト・ドルはビットコインベースでは今年65%下落している。
翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Not so stable? (yanik88/Shutterstock)
原文:First Mover: After Falling 65% This Year in Bitcoin Terms, Do ‘Stablecoins’ Need a Rebranding?