ロビンフッドに熱狂するアメリカ──株取引ブームに見える過去の共通点

まわりを見ると多くが、株取引アプリ「ロビンフッド(Robinhood)」の話をしている。今となっては、もう十分に語り尽くされているほどだ。

3月、私たちは自宅にいるよう指示された。バスケットボールシーズンは中止され、トランプ大統領の毎日の定例会見がアメリカ人の新しいエンターテインメントになった。そして株式市場はおよそ3分の1に下落した。

アメリカ中で人々は株式投資を「スペースインベーダー」のようなゲームよりも楽しいものにしてくれる、ユーザーフレンドリーな投資アプリ「ロビンフッド」をダウンロードした。

当面、スポーツの試合は行われないので、スポーツ賭博の代わりにロビンフッドで株式投資を始めた人もいた。あるいはS&P500銘柄を保有するという定番の戦略が崩壊するのを目の当たりにした後、ロビンフッドでの投資に積極的になった人もいた。S&P500に任せるのではなく、自分の手で取引する時だ。

そして多くの人は、純粋に気分を盛り上げるために投資を始めた。

株式市場から暗号資産市場へ?

ロビンフッドや証券業界はこのトレンドの恩恵を受けている。ロビンフッドは第2四半期、取引収益が2倍となり、TDアメリトレード(TD Ameritrade)やEトレード(E-Trade)のような古株の大手競合企業も50%以上の増収となった。

こうした個人投資家の積極的な投資活動は、株式市場から暗号資産(仮想通貨)市場に流れ込むというエキサイティングな議論がある。実際、ビットコイン、イーサリアム、その他のさまざまな暗号資産の最近の価格と取引高の上昇は、それがすでに起こっていることを示しているのかもしれない。

私は「ロビンフッド・ラリー」は暗号資産でこれから起こることの前兆になるだろうと思っている。それは規制当局の対応、消費者の行動、そして市場の動きに当てはまることだ。

また私は「ロビンフッド・ラリー」は暗号資産市場の過去の反映とも思っている。多くの面で暗号資産市場はこの新しい投資トレンドへの道を拓いた。そしてそれは称賛に値することだ。

ロビンフッド・ラリー:「ロビンフッド」はアメリカの若い世代に人気の株取引アプリ。同アプリを利用して株式投資を行う個人投資家が過去数カ月にわたり増加し、株価上昇の一因となったと言われている。

オンライン掲示板の雰囲気

ロビンフッドの流行はオンライン掲示板「レディット(Reddit)」のサブレディット(ユーザーが管理・運営するコミュニティ)「wallstreetbets」抜きには語れない。

しばしばWSBと呼ばれるこのコミュニティは、デイトレーダーたちが自慢したり、ネット上の流行り言葉や画像などをシェアしたり、市場での失敗を見せびらかす場だ。WSBはロビンフッドの成功に突き動かされ、またその成功にあやかろうとしている。

私はWSBの盛り上がりには乗り遅れた。このコミュニティは2012年から存在していたが、本当に人気になり始めた昨年、初めてアクセスした。そしてWSBでの会話を目にした瞬間、初期の「BitcoinTalk」フォーラムとの明らかな類似性に驚かされた。

WSBの雰囲気は、BitcoinTalkの特徴だった無礼さ、ばかばかしさ、そしてときおり見せる驚くほどの洗練さの組み合わせと同じだ。BitcoinTalkでは「HODL(長期保有者を表す言葉)」のような流行り言葉が、匿名ユーザーが頻繁にシェアした「つまらない投稿」から自然と生まれていった。

WSBでも同じように匿名ユーザーが意図的に流行り言葉や画像を生み出し、拡散させようとしている。またWSBで「J. Pow」(ジェローム・パウエルFRB議長)や彼の「money printer」(FRBの大規模な金融緩和策を表す)が話題にならない日はない。

価格や取引の話題は当然、重要なテーマだが、BitcoinTalkは決してそれだけではなかった。WSBも同じだ。WSBでは真偽のほどはさまざまだが、企業のファンダメンタルズ、政治、マクロ経済についての議論が頻繁に展開される。

デイトレードの動画配信メディア

スポーツ賭博やギャンプルをテーマにしたオンラインメディア「Davey Day Trader」もWSBと同様に、この半年間の個人投資家の活発な活動を語るときに忘れることはできない。

友だちのような語り口とボストン訛りであらゆるコンテンツやニュースを届けるオンラインメディア「Barstool Sports」の生みの親は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まったときにスポーツから株式に方向転換した。彼はハンマーを手にデイトレードを行う自分の動画を毎日配信している。

私にはDavey Day Traderは、テクニカル分析や投資戦略をシャアしている多くの暗号資産YouTuberと同じように見える。こうしたYouTuberは株式市場にも以前からいる。彼らとDaveyとの違い、そして暗号資産YouTuberとDaveyの類似点はメディアではなく、その雰囲気だ。

Davey Day Traderのロゴは、ベビーブーム世代のしかめっ面した銀行員をかわしてタッチダウンを決めるアメフト選手として彼を描いたもの。このアンチ銀行員、アンチ支配者階級の態度、ブランディング、マーケティングこそがDaveyとそのフォロワー、そして暗号資産に最も顕著に共通する点だ。

WSBとDavey Day Traderの他にも株式市場におけるいくつかの現象は暗号資産コミュニティの初期の取り組みと一致している。

2017年、暗号資産が強気相場のピークだったとき、取引のゲーミフィケーション(ゲーム化)という取り組みが現れた。コインベース(Coinbase)、ビットメックス(Bitmex)、ポロニエックス(Poloniex)、バイナンス(Binance)などの取引所は、ユーザーを誤った方向に導き、ユーザーを十分に教育していないとして複数の批判を浴びた。これはインセンティブや教育についてロビンフッドが最近直面した批判を予告していた。

次に来るものは?

では、暗号資産の商品、カルチャー、行動が、株式市場のそれの前兆だとしたら、次に来るものは何だろう?

トレーダーがファンドの名前ではなく、実績(あるいは流行り画像や動画)によって評価される匿名フォーラムの出現が続くと私は考えている。未来の金融メディアは、米大手テレビ局のCNBCではなく、動物のアバターや妙な名前がいっぱいの「Crypto Twitter」(暗号資産の情報を発信するツイッターアカウント)のようなものになるかもしれない。

また投資アドバイスに対するチップ機能も増えるだろう。すでに暗号資産トレーダーや専門家のウェブサイトでは当たり前になっている。

そのほかに今の個人投資家による株式投資の環境に足りないものは、誰もが使っているソーシャル機能だ。ポロニエックスの「Trollbox」は市場についてのリアルタイムな会話、自慢、悪口を楽しむことができ、トレーダーに愛されていた。

よりプライベートなものでは、テレグラム(Telegram)のグループ機能は、取引の実行、また市場に関する洞察をシェアする目的で、長年、暗号資産トレーダーに使われている。こうしたリアルタイムチャットの体験を株式市場の個人投資家も楽しめる日が来ることを私は願っている。

2016年と2017年の暗号資産市場は多くの点で現在の株式市場を予告していた。そこにはインスピレーションもあれば、教訓もある。

消費者保護が注目を集め、政策決定者からの監視が強まるなか、商品を開発する企業にとっては規制が問題となるだろう。情報の偏り、操作、恥知らずなサクラ行為は少なくとも頭痛の種、最悪の場合は個人投資家の活動が活発化するなかで株式市場を悩ませる深刻な倫理的懸念事項となる。

そしてもちろん、あらゆる人にとっておそらく最も大きな教訓は、市場は現れては消え、強気市場がある程度(完全ではなく)弱気になるとユーザーもいなくなるということだ。

ジル・カールソン(Jill Carlson)は、非営利研究組織「オープン・マネー・イニシアチブ(Open Money Initiative)」の共同発起人で、ベンチャー投資家でもある。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:「ロビンフッド(Robinhood)」アプリのロゴ(Shutterstock)
原文:What Today’s Robinhood Rally Has in Common With the Last Crypto Boom