タイでは軍事政権への抗議活動が続き、2014年のクーデターで発足した政権への不満が強まっている。抗議活動への参加者は、伝統的メディアに比べると比較的分散型の部類に入るソーシャルメディアを利用するが、政府の介入を免れることはない。
フェイスブックは、タイ国王のラーマ10世を批判するグループへのタイ国内でのアクセスを遮断した。100万人を超えるメンバーを抱えるグループへの遮断は、タイ当局からの要請だった。
フェイスブックは現在、タイ政府に対して要請の変更を求める法的手段を計画している。アクセスが遮断された後、フェイスブックには国王を批判する新しいグループが直ちに作られ、少なくとも50万人のフォロワーを集めている。
タイのプティポン・デジタル経済社会大臣は8月26日、インターネットでの取り締まりを継続し、(国王や政権を批判する)新しいグループが作られた場合は、政府が遮断させると述べた。大臣はまた、フェイスブックはタイ当局の命令にすべて従っており、政府の要請に対して法的措置を取る計画は実行しないだろうと話した。
CoinDeskはタイ当局にコメントを求めているが、当記事執筆時点でまだ返答はない。
フェイスブックの件は一部に過ぎない。現在の抗議運動の中心となっているツイッターについても疑問が持ち上がっている。タイの一部の若い抗議参加者の間では、ツイッターも軍事政権によって操作されているのではないかという懸念の声が聞こえる。
ソーシャルメディアでの戦いは、タイの君主制に対する前例のない抗議活動の最中に起きている。反政府デモは7月以降、毎日のように発生している。8月16日には少なくとも1万人の抗議デモ参加者が、タイの軍事政権の解体と国王の権力の縮小を求めた。タイではこれまで、王室批判はタブーとされてきた。
ハッシュタグ
タイの抗議参加者たちは、自分たちのハッシュタグをツイッターのトレンドリストに入れることで、活動への国際的な関心を集めようとしている。
ソーシャルメディア管理ツールの「Sprout Social」を使って入手したデータによると、この30日で、#FreeYOUTH(自由な若者)、#SaveParit(逮捕された署名な民主活動家パリット氏を救え)、#SavePanusaya(学生活動家のパヌサヤ氏を救え)、#หยุดคุกคามประชาชน(圧政を止めろ)、#ขีดเส้นตายไล่เผด็จการ(譲れない一線だ。軍事政権は消え去れ)など、抗議に関連した6つのハッシュタグを含んだツイートは合計で1000万件を超えた。
これらのハッシュタグは、抗議活動とこれまで逮捕された活動家をサポートするものだ。
8月16日のデモの2日前、警察は著名な学生活動家のパリット・チワラック(Parit Chiwarak)氏を、7月の「Free Youth」運動に関与したとして扇動罪で逮捕した。パリット氏の他にも同じ罪状で2人の活動家が逮捕された。
8月13日、ソーシャルメディアにはチラワック氏が逮捕されるとの噂が広がった。翌日の逮捕に至るまで、ハッシュタグ「#SaveParit」は260万件以上ツイートされた。
ツイッターへの懸念
身の危険を案じてMidnightという偽名で取材に応じた17歳のタイの学生活動家によると、ツイッターは若い抗議参加者に好まれているツールだ。「タイの若い世代は、フェイスブックを親戚に見せるためにしか使っていない」とMidnightはメールで語った。
しかしMidnightや他の活動家たちは、政府がソーシャルメディアを使ってトレンドトピックを操作したり、活動家を監視しているのではないかと懸念している。実際、2月には「Niranam」または「Anonymous」というユーザーネームでツイッターを利用していた活動家が、ツイッターで君主制を批判したあと、テロを扇動したとして逮捕された。
「ツイッターは政府に我々の身元を明かすのではないかと疑っていた」
Midnightはまた、2020年3月に作られた「Twitter Thailand」という認証済みアカウントがツイッター上の活動家の行動を追跡しているのではないかと、疑心暗鬼だ。このアカウントのプロフィールには「タイ王国の公式アカウントへようこそ!」と書かれている。
このアカウントが実際にツイッターで活動家を追跡している証拠があるわけではないが、学生らはそれでも身を守るための行動を起こした。
Midnightは同アカウントをブロック。21歳の大学生活動家Somも同様に、ブロックした。MidnightやSomのような一部の学生活動家は、匿名でツイッターを利用している。
CoinDeskはツイッターにコメントを求めたが、まだ返答はない。
「ほとんどのソーシャルメディアプラットフォームは安全ではなく、チャットには他のアプリを使う必要がある。ツイッターに似たようなもので、テレグラム(Telegram)と同じくらい安全なものがあれば良い」とSomは語る。
民主主義を求めて
SomとMidnightによると、タイでは2014年にクーデターによって権力を握った軍事政権に対する不満を持つ国民が多くいるという。ラーマ10世は昨年、軍の2つの主要部隊を直轄下に置く国王令を発した。
「政府はきわめて強力になり、その権力を使って、政府に反対する人たちを逮捕、拉致している」とSomはメールで述べた。
政権に対する抗議活動は、タイの若者や学生が民主主義を求める運動に加わったことで、今年新たに息を吹き返した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア担当ディレクター、ブラッド・アダムス(Brad Adams)氏は、タイは若者が大人に従うことが求められる階級社会だと述べる。最近の抗議活動のきっかけの一つは、服装や髪型について指図されたり、従順であることを求められることにうんざりした学生たちの思いだったと、アダムス氏は指摘する。
「(政府は)親を利用しようとしている。親たちの保守的な価値観に訴えることで、子供を家に留め、静かにしているよう伝えることを望んでいる。しかし、今となっては機能していないように見える」
新たな政治的反対勢力は、若者とうまくつながることができるハイテク好きの若い世代に率いられており、テクノロジーを効果的かつ洗練された方法で使うことができると、アダムス氏は話す。
報道の自由
Somによると、デモに関するニュースはおもにソーシャルメディアやオンラインプラットフォームで拡散した。地元のテレビやラジオのニュースでは、ほとんど扱われてこなかったという。
国境なき記者団による2020年の世界各国の報道自由度ランキングでは、タイは180カ国中140位。軍事政権はタイの放送ネットワークに対して厳格な管理を行ってきた。活動家らは民主化運動を取り上げるのではなく、「取るに足らないことに夢中になっている」として地元メディアを非難した。
「反政府側については常に悪いように報じるほど、ひどく偏ったメディアさえ存在する」とSomは言う。
Somは、もし国が実際にオンラインで活動家をターゲットにしているのなら、フェイスブックは通常、プロフィールに個人情報を掲載している抗議活動の参加者らをより脆弱な状態にしていると話す。一方、ツイッターにはいくらか匿名性の余地がある。
ツイッターが若い活動家を惹きつける理由は他にもある。ハッシュタグだ。
SomとMidnightは、抗議活動に関連したハッシュタグをつけた投稿を大量に繰り返し行うことで、ハッシュタグをツイッターのトレンドリストに入れようとする組織的な取り組みに他の活動家たちとともに参加した。例えば、#หยุดคุกคามประชาชน(圧政を止めろ)というハッシュタグは、この1カ月で1日平均11万272回ツイートされた。
Somの考えでは、ハッシュタグがトレンドリストに入ると、メディアが報じる可能性は高くなる。
「さらに、世界的にトレンド入りすれば、国際的メディアや世界からの関心を集めることができるかもしれない」
Twitterでの不審な動き
数週間前、Somや他の活動家らは奇妙なことに気づいたたという。タイ国王の母、シリキット王太后の誕生日の前日にあたる8月11日、#คิดถึงยอดหฤทัยใจจะขาด(最愛の人がとても恋しい。心が引き裂かれている)というハッシュタグがツイッターで広がり始めた。
このハッシュタグには、シリキット王太后に非常に近しい側近が王太后のために書いた詩の第1節が含まれていた。王太后と側近の関係は複雑なものだったという噂があるとSomは言う。
このハッシュタグは、すぐにタイのツイッターのトレンドリストのトップとなり、不思議なことにその後、リストから完全に姿を消した。
ツイッターのデータによると、8月11日にはこのハッシュタグを含むツイートは65万4351件あった。8月12日にはリストのトップにあったとSomは述べる。ハッシュタグを含むツイートは3万3000件を超えた。しかし、その日の午後にはハッシュタグはリストからなくなっていたとSomは話す。
アダムス氏によると、タイ当局はソーシャルメディア上の反対意見を抑えるために、組織的な取り組みを行っているという。
「人員を動員して、抗議運動の参加者や活動家をオンラインで攻撃させている。政治的反対勢力を威嚇し、脅迫するきわめて組織的な試みだ。確証はないが、おそらく多くの人やボットがお金を受け取って攻撃している。情報戦争に勝つための、組織的で大規模な計画だが、不誠実な方法だ」
SomとMidnightによると、抗議活動に関連したハッシュタグも、トレンドリストのランクが突然下がったり、リストから突然外れるという似たようなことが起きているという。
国別の検閲方針
エンジェル投資家で、ソーシャルメディア・ブランディングの第一人者のダン・フレイシュマン(Dan Fleyshman)氏によると、ツイッターは不適切な言葉を含むハッシュタグを削除、検閲することができ、同様にあらゆるハッシュタグの拡散を素早く消し去ったり、抑え込むことができる。
「政府は人気のハッシュタグの検閲や削除を要請できることと同じように、メディアにお金を使って、ハッシュタグや特定の投稿を大規模に拡散することもできる。政府はまた、ソーシャルメディアの内部の人間とのコネクションを利用して、プロパガンダを拡散することもできる」(フレイシュマン氏)
ツイッターは2012年、「表現の自由の輪郭についてのさまざまな考え方」を尊重するため、国の状況に応じた検閲を行うとしている。それによって、政府は文化的に慎重に扱うべきとみなしたツイートの「差し替え」を要求できるようになった。タイはすぐにこの取り組みを公式に支持した。
しかし2012〜2019年の間に、タイがツイッターに削除を求めて法的な要請を行ったのはわずか6回だった。一方、例えばサウジアラビアは同じ期間に765件の要請を行った。
アダムス氏によると、国民を沈黙させたり、抗議活動をコントロールするためにインターネットを停止したり、ウェブを混乱させている他の国とは異なり、タイはそうした手段は使っていないようだ。
タイのビジネスはインターネットに依存しており、タイは投資先としても優れている。インターネット検閲を行ったことはないとアダムス氏は述べた。
「インターネットを検閲すれば、今は国や政府の敵ではない人たちの間に敵を作ることになるだろう」
しかし2016年、タイはコンピューター関連犯罪法を施行し、政治的反対勢力に対して自由な表現を制限し、措置を講じる権力を政府に与えた。この法律はまた、君主制を批判した、100万人以上のユーザーを抱えるフェイスブックグループをブロックするよう、政府が法的要請を行うことも可能にした。
信頼できるプラットフォームか
タイの活動家たちは、自分たちの活動がツイッターの人気トピックとして取り上げられるよう戦い続けており、宣伝やゲーム、K-POPなどに関するタグと競い合っている。
タイ時間の8月24日午後11時22分、タイの人気ハッシュタグの14位(5万7400人がツイート)はこの日、2度目の逮捕をされた活動家、パヌポン・チャドノック(Panupong Chadnok)氏に関するものだった。
MidnightやSomにとって、ツイッターのようなソーシャルメディアは、彼らの声を増幅させてくれるが、完全に信頼できるプラットフォームからは程遠い。
「真実を語った活動家が強制的に連れ去られた事例は、確認されただけでも少なくとも86件にのぼる。タイの人々は長年、恐怖と貧困の中で生きている。我々は自国について語る時、身元を隠さなければならない」とMidnightは語った。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Somが送ってきたスクリーンショット
原文:How the Battle for Thailand Is Being Fought on Twitter