40を超える中央銀行がブロックチェーン技術の実験に取り組んでいる。世界経済フォーラム(World Economic Forum)のレポートが明らかにした。
現地時間4月3日に発表されたレポートによると、さまざまな中央銀行がブロックチェーン技術の活用、あるいは中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実験に取り組んでいる。
「いくつかの中央銀行は積極的な取り組みを見せている」と世界経済フォーラムのブロックチェーン技術および分散型台帳技術のプロジェクトリーダー兼レポートの主席執筆者、アシュレイ・ランキスト(Ashley Lannquist)氏は語った。
彼女は、将来的にデジタル通貨を発行する可能性を見据え、少なくとも44の中央銀行がブロックチェーン技術の研究、調査、もしくは積極的な実験に取り組んでいると記した。
「これまでのところ、先行的な実験の結果は、判断しづらいものもあれば、楽観的な結果となったものもある。現状をまとめると、中央銀行は注意深く取り組みを進め、依然として研究に力を入れている」とランキスト氏はCoinDeskに語った。
現時点では、中央銀行は技術的、政策的な問題を数多く乗り越えなければならないと彼女は語った。技術面では、新しいシステムが意図通りに機能し、データの機密性が正確に守られていることを確認する必要がある。
一方、中央銀行の金融政策を含む、政策的な問題もある。思いがけない結果を招くことを避けるために、これらの問題は十分に検討しなければならないとランキスト氏は述べた。
ランキスト氏によると、こうした問題はあるものの、現在のトレンドは中央銀行デジタル通貨(CBDC)にとって追い風となっている。
「2、3年のうちに、将来を見据えて、やや保守的だが、2、3の中央銀行がデジタル通貨を発行すると考えている。少なくとも複数の中央銀行が取り組んでいるという情報を持っている」
例えば、カンボジア国立銀行は、2019年末までに支払いシステムにブロックチェーン技術を取り入れることを計画している。
ランキスト氏のレポートは、同行は2つの問題の解決に取り組もうとしていると指摘した。1つ目は、多くの国民が銀行口座を持っていない、もしくは全く銀行を利用していないこと。2つ目は、銀行のシステム自体が非効率なものであること。
「カンボジア国内の支払いシステムは非常に非効率で、多くの国民は銀行口座を持っていない」とランキスト氏。
「銀行を使う代わりに、国民は個人間の支払いアプリを使っている。そのため時々、支払いがうまくいかないことがある」
ブロックチェーン技術を使った新しい支払いシステムはこれらの決済アプリを統合し、より効率的で、安定したシステムを国民に提供するだろうとランキスト氏は述べた。
カンボジアの計画に関して、おそらく最も驚くべきことは、実験的なプログラムとしてスタートするのではなく、10以上の銀行が参加する大規模な展開になるという事実だ。
「彼らは即座に始めようとしている」
中銀と業界を仲介
多くの中央銀行がカンボジアの取り組みを把握しているわけではないとランキスト氏。レポートの目的は、さまざまな中央銀行の取り組みを紹介すること、そしてこの情報を共有することにある。
フランスの事例も紹介された。
「フランス銀行は、イーサリアムを銀行内部に導入し、実際にスマートコントラクトに利用している。これは中央銀行による最初のイーサリアム導入事例のひとつ」とランキスト氏は述べた。
同行は単一ユーロ決済圏送金・口座振込識別子(Single Euro Payments Area Credit Identifiers:SCIs)の設定、共有プロセスをブロックチェーンを使ったシステムに置き換え、2017年末から運用している。
世界経済フォーラムの暗号通貨への取り組みは、中央銀行間の議論を促進するためのものとランキスト氏は付け加えた。多くの中央銀行は「2016年にこの分野が注目されたこと」により、3、4年、ひそかに調査を続けている。
「我々はそうした動きを支援しようとしている」
世界経済フォーラムは新たにブロックチェーンに取り組もうとしている中央銀行と、すでにブロックチェーンの活用事例の調査を行っている中央銀行をつなげている。
毎年、スイスのダボスで開かれる年次総会で知られる世界経済フォーラムはまた、多くの中央銀行に暗号通貨の専門家を紹介していると彼女は述べた。
「我々は中央銀行を支援するために、中央銀行とブロックチェーンの技術コミュニティーを結び付けている。私は定期的にウェブを使った動画セミナーや面談の機会を設け、専門家と中央銀行をつないでいる」とランキスト氏。
「同様に研究者も紹介している。これまでのところ、中央銀行にとって非常に有益のようで、今後も続けていきたいと考えている」
3日のレポートはこうしたコラボレーションの一環として発行された。
ネクストステップ
だが、少なくとも現時点では、中央銀行はブロックチェーン技術をひそかに検討している。ランキスト氏はここ数カ月のうちに継続的な進展が見られることを期待していると述べた。だがそれよりも、彼女は「何らかの結論が引き出されること」を望んでいる。
具体的には彼女は、ブロックチェーン技術の活用を検討している各中央銀行が何らかの結論を出すことを期待している ── ブロックチェーン技術は有用なのか否か、その結論に達した理由は?
「そうした結論にいち早く達することができればできるほど、研究にはよりプラスになる」
中央銀行が中央銀行デジタル通貨(CBDC)を導入する可能性について問われたランキスト氏は、「分からない。広く普及するとは思っていない。なぜならほとんどの中央銀行には大きなニーズはない。彼らはすでに効率的なシステムを持っている」と述べた。
中央銀行によるデジタル通貨の発行など、ブロックチェーン技術をベースにしたシステムの恩恵を受けるのは、特にカンボジアのような新興市場。現在、多くの新興国における国内銀行間の支払いと決済は非効率的なものとランキスト氏は語った。
「新興国では、商業銀行はお互いに取り引きを行っているが、中央銀行を経由しなければならない。その方が効率的だから」と彼女は付け加えた。
「ブロックチェーン技術をベースにした支払いシステムは経済をサポートし、商業銀行をサポートする。そしてついには個人や中小企業が使える中央銀行デジタル通貨によって、極めて非効率的な支払いシステムを持つ多くの国は、国内のみならず、海外とさえも統一された送金システムを持つことになり、デジタル支払いのコストを削減することが可能になる」
法定通貨をデジタル化した中央銀行デジタル通貨はまた、国民にとっても使いやすいものになり、中央銀行にとっても通貨の発行が容易になるとランキスト氏は述べた。
「ドルを使うよりも簡単に、自国の通貨を使って海外への支払いができるようになる」
翻訳:Masaru Yamazaki
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:World Economic Forum image via Drop of Light / Shutterstock
原文:Over 40 Central Banks Are Considering Blockchain Applications: Davos Report