システムダウンを起こしたロビンフッド、暗号資産取引所から学べること

シュワブ(Schwab)、TDアメリトレード(TD Ameritrade)、ロビンフッド(Robinhood)などのオンライン株取引プラットフォームが若い投資家の人気を集めている。若い投資家はコロナウイルスの感染拡大で自宅でリモートワークをしながら、仕事の合間に取引をする。

これらのプラットフォームには共通点がある。取引量の急増に伴うシステムダウンだ。

8月末、ロビンフッド、TDアメリトレード、シュワブなど、複数の株取引プラットフォームでログイン障害が起きた。原因は、アップル(Apple)とテスラ(Tesla)の株式分割により、アクセスが集中したためと見られている。また2020年上半期、ロビンフッドには400件以上の苦情が規制当局に寄せられている。

TDアメリトレードの広報担当者は、一部のユーザーに「高レベルの遅延」が起きたことは認めたが、原因には触れなかった。CoinDeskはロビンフッドとシュワブにもコメントを求めているが、本記事執筆時点で両社からまだ返答はない。

株取引プラットフォームと同様に、暗号資産取引所も長い間、システムダウンに悩まされている。安定性を向上させ、システムダウンを削減するためにさらなる措置を講じると約束したあとでさえ。

株取引プラットフォームは、暗号資産取引所から学べることがあるかもしれない。

求められる冗長性

人気の暗号資産オプション取引所のデリビット(Deribit)は8月下旬、深刻なシステムダウンを起こし、このような事態を二度と起こさないようにするためにプラットフォームの強化に取り組んでいる。

「当社のプラットフォームは、複数のノード、プラットフォームへのゲートウェイ、マスターノードへの接続にロードバランサーを使用している。このマスターノードでハードウエア障害が発生した」とデリビットのルーク・ストライヤース氏は述べた。

エンジニアが通常ノードの1つを新しいマスターノードとして稼働させたことでトラブルを解決した。同社はこのプロセスのスピードアップに取り組んでいる。

またストライヤース氏は、複数ノードが影響を受けた際に、即座にバックアップとして機能する障害回復施設をスイスのチューリッヒに建設中で、この施設は同取引所の冗長性対策についての疑念を払拭するはずと話す。

同氏によると、チューリッヒにサーバーを置いても、顧客確認(KYC)やマネーロンダリング対策(AML)について、スイスの規制を遵守する必要があるわけではないという。同社は2016年にオランダで設立されたが、サーバーはイギリスにあり、現在は2月はじめに設立された100%子会社のDRB Panamaの一部門としてパナマで運営されている。

プログラムのバグ

システムダウンを回避するための基本的な対策をアピールしているのは、デリビットだけではない。

今年2月、取引高で世界最大規模の暗号資産取引所バイナンス(Binance)は「システム・メッセージ・エラー」のために6時間以上、取引ができなくなった。5月には、コインベース(Coinbase)がトラフィック急増のためにサービス停止に追い込まれ、ユーザーから非難を浴びた。

取引サービスを提供するコインルーツ(CoinRoutes)の共同創業者兼CEO、デイブ・ワイスバーガー(Dave Weisberger)氏は、暗号資産取引所での技術的なシステムダウンには2つの主な原因があると語る。

1つ目は、デリビットで起きたようなハードウエア障害。解決策は冗長性を持ったシステムを構築することだ。ワイスバーガー氏によると、現在ではほとんどの取引所で完全に冗長化されたシステムが構築されており、ハードウエア障害によるシステムダウンはおおむね、短時間で回復する。

2つ目は、十分なテストが行われなかったプログラム変更によるもので、原因としてはこちらの方が多い。新しいプログラムのバグは、取引量の急増など、予期しない状況が発生した場合にシステムダウンの原因となり得る。

トラフィックは多すぎると弊害も

暗号資産デリバティブ取引所FTXのサポートチームも、システムダウンのリスクを減らすために、アクセス集中時の業務を十分サポートできるだけの余剰能力の確保に集中しているとCoinDeskに語った。

マルチコイン・キャピタル(Multicoin Capital)のマネージングパートナー、トシャー・ジェイン(Tushar Jain)氏によると、突然のトラフィック増が原因となるシステムダウンを減らすことは「実行可能」、しかし時間とコストがかかるという。

「大量のユーザーに対応できる拡張性を備えたソフトウエアを構築することは本当に難しく、サーバーを動かし続けるための運用業務はきわめてハードルが高い。ソフトウエア企業が、高い需要に応えるためのスケーリングに苦労している事例は数多い。ツイッターがダウンした時に表示される『フェイル・ホエール(Fail Whale)』は、おそらく最も象徴的な例だろう」

サーキットブレーカーは解決策か?

システムダウンは、ときには極端な市場のボラティリティ(価格変動)が原因となることもあるが、その多くは取引量の急激な増加に関係しているため、サーキットブレーカーが解決策になると主張する人もいる。

サーキットブレーカーは、1987年の「ブラックマンデー」後に証券取引所に導入されたもので、価格が指定された水準を下回ると自動的に取引を停止する。市場を完全な崩壊から救うことが狙いだ。

ストライヤース氏によると、デリビットはすでに、1秒間にプラスマイナス1.5%の価格変動で作動するインデックス・サーキットブレーカーを導入しており、「大規模な売りを回避し、市場参加者が価格変動が激しいときでも、市場に迅速に対応できるようにしている」という。

「過去、複数のデリバティブ取引所がフラッシュクラッシュを経験し、清算と大規模な売りの連鎖を引き起こしている。その原因はさまざまで、外部による市場操作もあれば、内部エラーもある。そうした事態を回避するために、デリビットはサーキットブレーカーを導入した」

デリビットのサーキットブレーカーは3月13日夜、ビットコイン価格が大幅に下落する間に、数回作動した。

パフォーマンスの妨げに

しかし、数百の暗号資産取引所が存在するなか、サーキットブレーカーの導入は取引所のパフォーマンスを妨げることになりかねない。例えば、今年2月のバイナンスのシステムダウンの間に、オーケーエックス(OKEx)やビットスタンプ(Bitstamp)をはじめとするライバル取引所では、取引注文が大幅に増加した。

FTXは、ユーザーの取引能力を制限することになる、いわゆる「ハード・サーキットブレーカー」は、現在は検討していないという。

「あまり意味がない。健全性をチェックするのではなく、ユーザーの取引能力を制限し、人為的な価格設定を強制することになる」

かつてはサーキットブレーカー推進派だったマルチコイン・キャピタルのジェイン氏は、今はこの手法が取引所のシステムダウンを解決するとは思わないと語った。ビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)の価格は「比較的に安定している」が、取引所ではまだシステムダウンが起きていると同氏は語った。

ジェイン氏はシステムダウンをむしろ前向きなサインと受け止めている。トラフィックの急増によるシステムダウンは、より多くの人たちが暗号資産取引所を利用していることを意味するからだ。

「現在の暗号資産市場における需要レベルを示していると思う。私が覚えている限りでは、過去に取引所がこのような問題を抱えていたのは、2017年はじめから半ばにかけてのことだ」

業界の価値観

一部の大手取引所は必要な措置を取るかもしれないが、問題が解決されなくても規制当局から罰則を受ける恐れはない。つまり、根本的な改善はすぐには実現しそうにない。

「この種のことで罰せられないのであれば、問題を解決したり、防止するために多くのコストをかける必要はないというのが事実」とコインルーツのワイスバーガー氏は語った。

ワイスバーガー氏は、株取引プラットフォームと暗号資産取引所のもう一つの類似点として、シリコンバレー、あるいはハイテク業界全体の価値観を指摘した。こうしたプラットフォームを開発・運用している人たちは、システムダウンを減らすことよりも、流動性や取引手数料のような問題を優先している。

「稼働率99.999%という要件は、ロビンフッドを生み出したような人たちが目指したいものだろうか? ノーだ。実現を目指していると答えるだろうが、非常にコストがかかる。だから結果的にシステムダウンは起きる」

ロビンフッドは暗号資産取引所よりも厳しい規制を受けており、3月に起きたシステムダウンへの対応について、SEC(証券取引委員会)とFINRA(Financial Industry Regulatory Authority)による調査を受けていると報じられている。

調査がシステムダウンを繰り返さないようにするためのインセンティブになるなら、最終的にはロビンフッドにとって資産になるかもしれない。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Robinhood (Opture Design/Shutterstock)
原文:Exchange Outages Are Going Mainstream: What Robinhood Can Learn From Crypto