DeFiの成功に中央集権型取引所は不可欠だ──『ビジネスブロックチェーン』著者【寄稿】

DeFi(分散型金融)は、暗号資産(仮想通貨)市場における比較的小さなシェアをはるかに超える、大きな関心を集めている。キャッチーな名称もその一つの要因で、「スシ」のような言葉が登場し続けている。

DeFiは実際よりも良い響きだ。すなわち「自動化されたアルゴリズムによる金融商品で、中央集権的な人間の仲介の代わりに、数多くの分散化されたコンピュータベースのプロトコルが仲介機能として存在している」。

とはいえ、どのような観点から見てもDeFiの市場シェアは小さい。

時価総額は約160億ドル、暗号資産市場全体の約4%。取引高は30日間で130億ドルだが、分散型取引が暗号資産取引全体に占める割合は0.3%に過ぎない。ロック(預け入れ)された金額は90億ドルで、暗号資産市場全体の2.4%。ユーザー数は16万人(推定)、これは5000万のブロックチェーンアドレス数の0.32%だ。

主流層をつかまえるには?

もちろん、これらの数字はDeFiのある瞬間を静的に切り取ったものにすぎない。数字はDeFiのスピードと活気についてのダイナミックな実態を完全には反映していない。

その小さな市場シェアに反して、DeFiの成長率はきわめて高く(指標によっては3、4桁の成長になる)、ブロックチェーン起業家の創造性、革新性を最も刺激し、数え切れないほどのプロダクトが登場している。もはや、最先端の動きについていくことは、業界関係者にもきわめて困難になっている。

こうしたDeFiにまつわる興奮と積極性にもかかわらず、DeFiは良い軌道に乗っていない。

DeFiユーザーは(その開発者と同じように)ほとんどが「オタク」。暗号資産オタク、あるいはアーリーアダプター(流行に敏感な人)だ。

DeFiが成功するためには、メインストリーム(主流層)をつかまえ、DeFiのオタクっぽさを許容も理解もしないユーザーを惹きつけなければならない。

その理由と方法を見ていこう。

ユーザーはどこにいる?

DeFi至上主義者は、DeFiを成長させるには金融上の自己保管だけで十分と独断的に信じきっている。残念ながら、DeFiの奇抜なユーザーエクスペリエンス(UX)を楽しみたいと考えるユーザーはそれほどいない。

業界用語も妨げになっている。

フラッシュローン、イールドファーミング、ステーキング、流動性プール、流動性プロバイダー、スリッページ、ボンディングカーブ、ボールト、プロトコルとしてのマネーマーケット、アルゴリズムによるマーケットメーキング、クレジット・デリゲーション……。これらは、一部の金融専門家はもちろん、一般ユーザーが理解できるものではない。

では、新たに登場している「DeFiウォレット」はどうだろう?

確かに、数百万ユーザーをDeFiに惹きつけるというミッションに熱心に取り組んでいる新世代の自己保管型ウォレットが存在する。最も優れたものは美しいユーザーインターフェースを備えている。

しかし、どれも本質的には主流層には役に立たない。なぜなら、依然としてオタクっぽさに偏っており、エンドユーザーがDeFiのコンセプトを完全に理解していることを前提にしているからだ。

「CeFi」を利用する

これらの理由から、私はDeFiを成長させ、メインストリームに導くためのベストの可能性は、中央集権型取引所、すなわち「CeFi」を利用することだと考えている。

私は最近、DeFiはインフラか、ミドルウェアか、あるいはエンドユーザー・アプリケーションかを問うアンケートをツイッターで行った。回答者の大多数は「すべて」と答えた。

インフラとして、DeFiのプロトコルは、基盤となる技術的、機能的なベースレイヤーを提供した。

ミドルウェアとして、DeFiは、API、オープンアクセスポイント、交換可能なモジュール機能(コンポーザビリティ)、そしてプログラマビリティの可能性を広げてきた。

アプリケーションとして、ウォレットは人気の参入ポイントとなっているが、ほぼ間違いなく一般的な暗号資産ウォレットの中で最も使い勝手が悪い。

こうした複数の性格が、DeFiへの参入を妨げてきた。結果的にDeFiは、プロダクト、サービス、技術的な機能のすべてを1つにまとめた厄介なパッチワークに発展した。

当初は受け入れられたものの、この混乱はDeFiが成熟するにつれてなくなるだろう。最終的には、これらの3つの構造要素は慎重に切り離され、より明確なものになっていく。

CeFiがDeFiを活用する3つの方法

ここではCeFiが、DeFiの爆発的な人気を最大限に活用するための取り組みを3つの角度から見てみよう。

・DeFiを組み込む

CeFiはすでに、主流層向けのUXを構築している。それが成功の重要な要件だった。

今はDeFiのプロダクトやサービスを徐々にそのUXに組み込み、現状のサービスに統合していく方法を見つけなければならない。

バイナンス(Binance)、フォビ(Huobi)、コインベース(Coinbase)はすでに、DeFiトークンの上場、DeFiインデックスの作成、ステーキングサービスの導入などによって、取り組みを始めている。これらはどれも良い取り組みだが、やや消極的な第一歩。だが必要なことだ。

・卸売業者のように考える

長期的に見ると、さまざまなDeFiプロトコルは「製造業者」に相当し、CeFiはプロダクトを選び、まとめて、小売店に届ける卸売業者だと考えている。CeFiは、その上に構築したいDeFiプロダクトを急いで選ぶべきだ。

そうすることで、CeFiは、DeFiをミドルウエアレベルから統合し、独自のUXとして提供することに集中できる。

・優れたUXだけでなく、教育も提供

前述したように、多くの新しい暗号資産ウォレットは素晴らしいユーザーインターフェース(UI)を備えている。しかし、必要だが十分ではない。

私が言っているのは市場教育のことであって、主流層のユーザーをすぐにうんざりさせてしまうアプリ内チュートリアルなどのことではない。

作家・村上春樹氏の言葉を借りると、「説明しないとわからないことは、説明してもわからない」。

市場教育は大いに役立つだろう。目標は、DeFiへの参入ポイントを主流層の理解レベルまで下げ、内部の複雑さを隠し、主流層向けのラッピングで新しいメリットを引き出すことだ。

双方が歩み寄る

従来の金融はどうか? その役割とは? などと考えるかもしれない。私の考えでは、従来の金融関係者は、DeFiを統合するためのハードルがCeFiよりも高い。

DeFiが従来の金融を打破することを考える前に、おそらく前菜として、まずCeFiを呑み込む必要がある。

別のシナリオとしては、CeFiやOldFi(従来の金融)を避けながら、DeFiが自力で成長することも考えられる。だがこれは、我々がこれまでDeFiを見てきたことから判断すると、成功の可能性は低く、難易度が高い。

一部の人は、CeFiを利用することは、大手取引所の中央集権的なパワーを高めるリスクを伴うと考えるかもしれない。だが、それよりもDeFiが小規模な現状から、不確実な成長の道に入り込むリスクの方が大きい。

CeFi市場の可能性はDeFiを直視している。中央集権型取引所が、フルサービスの金融サービス機関になりたいのであれば、DeFiの最高の流通チャネルになる必要がある。

これを実現するために、私は双方が歩み寄ることを望んでいる。


ウィリアム・ムーゲイヤー(William Mougayar)氏:『ビジネスブロックチェーン』(原題:The Business Blockchain)の著者。トークン・サミット(Token Summit)プロデューサー、ベンチャー投資家であり、アドバイザー。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:(Marco Bianchetti/Unsplash)
原文:For DeFi to Grow, CeFi Must Embrace It