スシスワップ、880億円相当をユニスワップから引き出し──DeFiに与える影響は?

スシスワップ(SushiSwap)は、8億3000万ドル(約880億円)の暗号資産のユニスワップからの引き出しと移動を行った。移行のテストは協定世界時9月9日14時15分(日本時間9日23時15分)頃に始まった。

これはアメリカを中心に急成長しているDeFi(分散型金融)業界にとって、最大の課題とも言える。すなわち、すべての主要プロジェクトはそのコミュニティが所有すべきかどうかだ。

現状、ユニスワップはガバナンストークン(分散型の意思決定を可能にするトークン)を持たない最大規模のDeFiプロジェクトである。

話を前に戻すと、ユニスワップの流動性プロバイダー(資産提供者)の中には、スシスワップに移行する目的で、ライバルのユニスワップに暗号資産の管理を委ねている者もいる(そうすることで「SUSHI」トークンが獲得できるためだ)。

当初、スシスワップへの移行は11日の予定だったが、コミュニティは先週、その計画を5日繰り上げて、9月6日に行うことを投票で決定していた。

しかしその後、スシスワップの匿名の設立者「シェフ・ノミ(Chef Nomi)」が自身が保有するSUSHIトークンをイーサリアム(ETH)に交換(売却)したことから騒動が起きた。

結局、約1300万ドル(約14円)を手にしたとされるシェフ・ノミは、暗号資産デリバティブ取引所のFTXと、クオンツ運用を手がけるアラメダ・リサーチ(Alameda Research)のCEO、サム・バンクマン-フライド(Sam Bankman-Fried)氏にスシスワップの管理権限を移譲することになった。

その後、バンクマン-フライド氏は移行を一旦キャンセルし、9日に実行した。

ユニスワップからスシスワップへ

バンクマン-フライド氏は9日朝、移行の詳細をツイートした。移行テストの前には、スシスワップのメッセージボードに注意を促すコメントが表示されたようだ。

「3)約1時間後に移行のロックが解除されます。https://sushi.zippo.io を参照してください。

以下についてのテストが行われています」

バンクマン-フライド氏によると、テストネットは問題なく稼働し、スマートコントラクトが移行プロセスのロックを解除したのち、最終テストを行う予定になっていた。その後、プールは1つずつ移行された。

どれくらいの時間がかかるのかは不明と同氏はCoinDeskに語っていたが、移行は短時間で終了したようだ。

データサイトのCoinMarketCapによると、SUSHIトークンは9日、約3.00ドルで取引されており、9月1日の史上最高値の11.93ドルから大きく下落している。

AMM戦争

誤解を恐れず言うと、スシスワップはユニスワップが保有する流動性(ユーザーが預けた暗号資産)を奪っている。

データサイトのDeFi Pulseによると、移行前、ユニスワップには14億7000万ドルが預け入れられていた。だが、SUSHIトークンのデータサイトのSUSHIBOARDによると、そのうちの55%がスシスワップに移行されるとしていた。

さらにバンクマン-フライド氏は、移行を支援したスシスワップのユーザーに、200万のSUSHIトークンを配布すると表明した。

(10)さらに、トークンの預け入れを続け、移行したユーザーには、その比率に応じて、200万のSUSHIトークンを配布します

これまでの経緯

スシスワップもユニスワップもAMM(オート・マーケット・メーカー)、つまりイーサリアムブロックチェーン上に構築されたロボットだ。

スシスワップは、いわゆる「Weird DeFi(奇妙なDeFi)」の一例。ミーム・ドリブンな(ユニークなUIなど、ネットで話題になることをベースにする)新しい組織であり、目標はコミュニティの新たな価値の創出にある。

Yearn.Financeのガバナンストークン「YFI」の配布に触発されて、Weird DeFiのなかには、いわゆる「公正な配布」を行うプロジェクトがある。つまり、これはプロジェクトの設立者や投資家のためにトークンが用意されていないことを意味する。

しかし、スシスワップのコミュニティは設立者に例外を設けた。ユニスワップのオープンソースコードを使ってスシスワップを開発した匿名の設立者、シェフ・ノミは先週末、SUSHIトークンを売却、およそ1300万ドル(約14億円)のイーサリアムを手に入れた。

そして最終的には、管理権限を移譲することになった。

管理権限の選挙

その後、スシスワップの管理権限を持つマルチシグ・ウォレット(複数の認証が必要なウォレット)のメンバー9人を選ぶ選挙が行われた。選ばれた9人のうち、6人が認めれば、スシスワップのコードに変更を加えることができる。

9日の移行の前には、控えめながらも活発なキャンペーン(選挙運動)が繰り広げられた。候補者たちは自らの資格について議論し、コミュニティの意志に従うことを確認し合った。いわば「プロトコル政治家」の出現だ。

協定世界時9日14時10分頃に投票は終了し、移行テストが始まった。

投票結果の上位にはバンクマン-フライド氏、コンパウンド(Compound)の設立者のロバート・レシュナー(Robert Leshner)氏、0xMaki氏(スシスワップの共同設立者だが、トークンは割り当てられていない)、ウェブメディアのThe Blockのラリー・サーマック(Larry Cermak)氏が名を連ねた。

CoinDeskは前日夜、サーマック氏に対して、選挙で選ばれたら、このポジションを受け入れるかついてコメントを求めたが、まだ返答はない。ポジションはメディアのリサーチディレクターという同氏の立場と利益相反を起こす可能性がある。

サーマック氏は以前、スシスワップに直接関与していないとCoinDeskに語っていた。

だが、マルチシグには懸念の声もあがっている。

「多くのプロジェクトが、まるで仕様のように『マルチシグ・ガバナンス』をアピールしている。適切なガバナンスのための、その場しのぎだ。適切なガバナンスを構築するには時間が必要だ。マルチシグは仕様ではなく、サポートの一つ。もしチームがこれを仕様として推進しているなら、よく考えてほしい」

真の勝者は?

ユニスワップの流動性は、スシスワップの流動性マイニングスキーム(SUSHIトークンを手に入れること)が始まり、イーサリアムユーザーが10億ドル以上をユニスワップに投入する以前は、3億ドル以下だった。

ユニスワップは3億ドルの資産でうまく運用されていた。今回のスシスワップによる資産の引き出しに対して、ほぼ同額かそれ以上の資産を簡単に積み上げる可能性もある。

問題は、ユニスワップが流動性とともに本当に何かを失ったのか。それともスシスワップは魅力的なものになったのかということだ。

「もしスシスワップがユニスワップへのバンパイヤー攻撃に成功すれば、ユニスワップの設立者が何年もハードワークをした後、このエコシステムでは役に立たないトークンなしでプロジェクトがスタートすることは決してないだろう。正しいことをしようとする開発者に対するインセンティブがこれでは、ひどすぎる」

バンパイヤー攻撃:スシスワップは(移行前は)ユニスワップを利用する仕組みだったことから、「バンバイヤー(吸血鬼)」などと言われた。

翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Pille-Riin Priske/Unsplash
原文:SushiSwap Will Withdraw Up to $830M From Uniswap Today: Why It Matters for DeFi