デジタル決済競争、ヨーロッパは遅れた:ECB総裁

「デジタルユーロ」によって、ユーロ圏はイノベーションの最先端を行くことが可能となる。しかし、決済の統合が進んでいないヨーロッパの現状は、海外の競合がリードを奪っていることを示している。

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は9月10日、ドイツ連邦銀行(中央銀行)主催のデジタル世界における銀行業務と決済をテーマにしたカンファレンスでこう発言した。世界規模での決済をめぐる競争とユーロ圏でのリテール型CBDCに向けた検討事項について述べた。

世界中の国々が中央銀行デジタル通貨(CBDC)やデジタル決済エコシステムの開発を検討しているが、この分野は中国がリードしている。

「ヨーロッパはこの競争において遅れを取っている」

デジタルユーロのタスクフォース

ECBは今年はじめ、デジタルユーロを検討するためのタスクフォースを立ち上げた。

ECBのイブ・メルシュ専務理事は5月、タスクフォースはホールセール型CBDC(金融機関のみが利用できるCBDC)ではなく、リテール型CBDC(一般の人々がモノやサービスの購入に使えるCBDC)を検討しているとCoinDeskに語った。

ラガルド総裁も10日、これを認めた。

「デジタルのホールセール型通貨は新しいものではない。銀行は何十年にもわたって中央銀行通貨にアクセス可能だった。しかし、金融取引における決済をより効率的にするために、新しいテクノロジーを使うことができる。リテール型CBDCの可能性にも道を開くことになり、幅広い人たちが利用可能という点で非常に革新的なものになり得る」

リテール型CBDC

ラガルド総裁によると、デジタルユーロは現金に取って代わるものではなく、現金を補完するものになる。ヨーロッパは全市民が現金をいつでも利用できるようにし続けるとラガルド総裁は語り、双方が組み合わさって、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)をサポートし、消費者に選択肢を提供すると付け加えた。

金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン):銀行口座を持たない、あるいは十分な銀行サービスを受けられていない人たちが、インターネットなどを通じて金融サービスを受けられるようにすること。

デジタルユーロ導入に際してのもう一つの検討事項は、リスク評価とラガルド総裁は述べた。総裁の見解では、十分な額の銀行預金がデジタルユーロに交換された場合、これまで銀行業界が経済にお金を供給してきた方法、そしてECBが通貨政策を実施する方法が変わることになる。

「デジタルユーロが導入された場合には、これらのリスクを抑える方法で確実に設計しなければならない」

ECBの積極的な役割

最後に、デジタルユーロは民間の決済ソリューションに打撃を与えることなく、デジタル決済に対する公の需要に応えるように設計する必要があるとラガルド総裁は語った。

中央銀行は民間銀行と比較して、人々から大きな信頼を得ていると公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF:Official Monetary and Financial Institutions Forum)による最近の調査に言及しつつ、総裁は、ECBはCBDCの作成と発行において積極的な役割を果たすというこれまでの発言を繰り返した。

「ユーロシステムと民間部門の双方の強みを生かして、決済環境が競争力と革新性を維持できるようにしなければならない」

ラガルド総裁によると、ヨーロッパはまだ、デジタルユーロを導入するかどうかについての決定を下していない。だが、タスクフォースの研究成果はまもなく発表予定であり、CBDCのメリット、リスク、運用における課題の検討を続けていくという。

「我々は、決済におけるイノベーションのリスクとメリットのバランスを取ることにおいて積極的な役割を果たす義務がある。そうすることで、通貨はヨーロッパの人々にとって役立つものであり続ける」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁(Shutterstock)
原文:ECB President: Europe Has Fallen Behind in the Digital Payments Race