クラーケン、アメリカで銀行を始める──暗号資産取引所としては初めて

米ワイオミング州は9月16日、サンフランシスコに拠点を置く暗号資産(仮想通貨)取引所のクラーケンが申請していた特別目的預金金融機関(SPDI:special purpose depository institution)の設立を承認した。クラーケンは同州初のSPDIとなる。

ワイオミング州銀行局(Wyoming Division of Banking)のクリス・ランド(Chris Land)氏によると、クラーケンは2006年以降、同州で初めて設立認可を受けた(新設)銀行となる。

「銀行になることで、我々は連邦決済インフラに直接アクセスできるようになり、顧客のために銀行業務と資金調達に関する選択肢をよりシームレスに統合することが可能だ」とクラーケンのマネージングディレクター、デビッド・キニツキー(David Kinitsky)氏は述べる。同氏は、新たに設立されたクラーケン・ファイナンシャル(Kraken Financial)のCEOを務める。

キニツキー氏は、かつてフィデリティ(Fidelity)が初めて採用したデジタル資産担当者であり、前職では決済企業のサークル(Circle)で事業開発責任者を務めた。

規制のパスポート

米通貨監督庁(U.S. Office of the Comptroller of the Currency)が7月、国内の銀行に対して暗号資産の保管を認める書簡を出したことを受けて、銀行局もワシントンDCにあるコンサルティング会社、プロモントリー・ファイナンシャル・グループ(Promontory Financial Group)と連携していると発表。銀行局は10月にはプロモントリーと共同で、デジタル資産の取り扱いの手続きと方針に関する初の銀行向けマニュアルを発表する。

クラーケン・ファイナンシャルの設立によって、クラーケンはサービスの拡充に加えて、より多くの法域での業務が可能になるとキニツキー氏は語った。

州の認可を受けた銀行としてクラーケンはいまや、規制のパスポートを手にしたことになる。つまり、州ごとに異なるコンプライアンス計画に対応することなく、他の州に進出できる。

クラーケンはこれまで、今回の申請について沈黙を守ってきた。クラーケンがワイオミング州での認可に興味を持っていることが初めて明らかになったのは、キニツキー氏が現在就いている役職を募集した12月のことだった。

10〜25人の部門責任者

キニツキー氏によると、クラーケンは主要な収益源として手数料とサービスを考えているという。特別目的預金金融機関(SPDI)は貸付は認められておらず、その資産をすべて準備金として保有しておかなければならない。

クラーケンは、認可申請のために調達した自己資本の額を明らかにしていない。銀行局は申請者に対して、2000万〜3000万ドル(約21億〜32億円)の資金調達を推奨している。

クラーケン・ファイナンシャルは当面、クラーケンがすでに取引している銀行と同じような機能を果たすことになるとキニツキー氏は述べた。最終的には、カスタマーサービスを提供し、クラーケン関連のサービスも同社が提供するようになる。

設立認可を受けたことで、クラーケンは銀行の業務と人員を構築していくことに注力し、まずは10〜25人の部門責任者でスタートすることを目指している。クラーケンは取締役と経営幹部をすでに採用しており、今月末までに残りの正社員を採用する見込みだ。

SPDI銀行とは

SPDI認可の基礎となる法律は、デジタル資産の保管を寄託と位置づけている。寄託とは、駐車係が駐車する車に対して持つ法的関係と同じものとワイオミング州のブロックチェーンのパイオニアであるケイトリン・ロング(Caitlin Long)氏は述べた。

SPDI銀行はデジタル資産を保有できるが、それに対して法的所有権を持つことはない。つまり、SPDI銀行が破綻した場合、デジタル資産は顧客に返還されなければならない。一方、信託会社は、破産の過程において、資産を判事によって没収される可能性がある。

ロング氏も、アバンティ・ファイナンシャル(Avanti Financial)という名前のSPDI銀行の認可申請を行っており、10月の設立を見込んでいる。ロング氏は、これまで十分ではなかった暗号資産銀行をSPDIが多様化することを期待している。

銀行局は現在、認可申請を行っている、あるいは申請の可能性がある6社と連携しており、各社は2021年末までに認可を受けると見られている。

ロング氏はまた、SPDI認可申請が暗号資産企業に対して、準備金を保有していることの証明を顧客と業界全体に提供することを求める圧力となることを期待している。

「SPDI銀行は、監査人にマークルツリーを提出し、準備金が存在することを暗号的に検証できるようにしなければならない。我々は現状、サービス提供業者が支払い能力を持っているかどうかを知ることはできず、ほとんどの場合、そうした業者は監査すら受けていない」とロング氏は語った。

マークルツリー(Merkle tree):取引データを効率的に格納したもの。データの検証に使われる。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:クラーケンのジェシー・パウエルCEO(CoinDesk archives)
原文:Kraken Becomes First Crypto Exchange to Become a US Bank