EY(アーンスト・アンド・ヤング)は、2030年までに新しいビジネス契約の半数以上が、ブロックチェーンベースのスマートコントラクトになると考えている。この変化は、ビジネスを管理する複雑さを一変することになるが、我々はまた、グローバルな市場経済の競争環境も変えることになると考えている。
ブロックチェーンを他のインターネットベースのテクノロジーやデジタルシステムと組み合わせることで、機動性に富む小さな企業が大企業と同じくらい効率的でスケーラブルになるトランスフォーメーションが実現する。
中央集権化と独占が進んだインターネット
1994年7月、米ヤフーは生まれた。そして突然、インターネットは、中央集権化と独占を加速させ、その後30年の変動の歩みを始めることになった。
ソフトウエアプラットフォームを独占企業に変えた規模の経済は、インターネットのネットワーク効果によってさらに加速した。大手はより大きくなり、小さな企業は生き残りに苦戦した。
中央集権化の波が2020年にピークに達したとすれば、ブロックチェーン技術の再分散化のパワーによって、2030年までには後退を始めるだろう。新たなビジネス環境では、規模の経済はそれほど力を発揮しなくなる。なぜなら、ブロックチェーンベースのソフトウエアによって、小規模な企業はより効率的に連携し、大企業と対抗できるようになるからだ。
2030年を想像してみよう。
まだ実現していない、平凡な話
2030年2月6日(水)午後4時15分頃、イギリスの小さな町のどこかで洗濯機が壊れそうになっている。脱水が始まると、回転するドラムの振動が排水用ホースをガタガタと揺らし、水が洗濯機の底に漏れ出し、床の排水口に伝っていく。
洗濯機の水センサーは漏れた水を感知して脱水を止め、持ち主のスマートフォンに故障を伝えるメッセージを送る。持ち主は修理サービスを探し、対応可能な業者を選ぶ。2日後の金曜午後、新しい排水ホースが取り付けられる。洗濯機は延長保証に入っていたので、持ち主が修理サービスの請求書を目にすることはない。
この話が平凡に聞こえるなら、それは実際、平凡だからだ。こうしたサービスはまだ実現していないが、今でも実現可能だ。まもなく登場するだろうが、まだ仮の姿だろう。
なぜなら、その裏側には面倒でデジタル化されていない事務作業が残っているからだ。最も洗練された最大手企業だけが実現できるものとなる。そのうえ、ソフトウエアのインストールと登録、スマートフォン、洗濯機、自宅のインターネット・ルーターが絡んだ厄介な接続作業もある。
スプレッドシートを送り合う
簡単で実用的であるべきことが、実際には非常に難しい。小売業者はメーカーと十分にインテグレーションできておらず、メーカーは修理業者とインテグレーションできていない。
現場では、人々はすべてを記録するために互いにスプレッドシートをメールで送り合うことに忙しい。こうしたインテグレーションを適切にデジタルで行うには通常、カスタマイズされたネットワークサービスと、大きな投資が必要となる。だが2030年までに、ブロックチェーン技術がすべてを変えているはずだ。
2030年、壊れてしまったスマートデジタル洗濯機は、大手ブランド製ではない。小さく古い住居向けにカスタマイズされた洗濯機を設計するスタートアップ製だ。普通に販売されているほとんどの洗濯機は、イギリスの古い住宅の階段やクローゼットの下の、少し変わったスペースにきちんと収まらない。
買い手が独特のスペースを写真に撮ってスタートアップに送ると、スマートアルゴリズムが部品を調整して、スペースにフィットする洗濯機を作り出す。設置業者は特別なコネクターや部品を現場で3Dプリントし、設置を完了させる。奇妙なスペースを有効活用しようと考える家の所有者は、こうした洗濯機を購入する。
魔法のような製品
こうした試みは今、驚くほどお金がかかるだろうが、インターネットとブロックチェーン技術のおかげでこのスタートアップはローカライズされ、カスタマイズされた製品を一般市場向け製品よりも少し高いくらいの価格で提供する。
こうした魔法のような製品は、3Dプリンターなど、1点ものの部品のコストを大量生産品とほぼ同等にしてくれるデジタル製造技術によって可能になる。この魔法はまた、巨大IT組織を構築することなく、パートナーのネットワーク管理を実現するブロックチェーンベースのトークン化とスマートコントラクトの成果でもある。
ブロックチェーンによるイノベーションをインターネットを通じて、優れたソフトウエアと組み合わせれば、カスタマイズされた電化製品を開発する小さなスタートアップが生まれ、そうした製品をどこにでも設置し、修正サービスを受けることができるようになる。
3Dプリンティングサービス、倉庫サービス、設置・修理サービスの業者の情報はデジタル化され、世界のほぼすべてのエリアで地元業者をすぐに見つけることができる。標準化されたスマートコントラクトが、これらのビジネス関係を迅速に管理し、監視を必要とせずに運用することを可能にする。
スタートアップを失速させる要因
実際のイノベーションを生み出すためのハードワークをなくすことはできないが、ハードワークは多くの場合、スタートアップの規模拡大を妨げてはいない。洗濯機のサイズや部品を調整する優れたアルゴリズムはユニークなものだろう。だが、数多くの設置業者やパートナーを管理し、1つずつ交渉するコストは今、スタートアップを失速させる要因となっている。
現在、手作業で請求書を発行し、支払いを受けるためには約50〜100ドル(約5000円〜1万円)かかる。一方、カスタマイズされたシステム間インテグレーションの導入には約100ドル〜20万ドル(約1万円〜2000万円)かかるが、導入後は、取引ごとのコストはほぼゼロになる。
スタートアップが製造、保管、配達、修理サービスのパートナーを見つける頃には、実際に製品を作って、販売するコストよりも多くのお金をビジネスに必要なネットワークの管理に費やしてしまう可能性があることは簡単に理解できるだろう。大規模に行わなければ、競争できない。
ブロックチェーンベースのスマートコントラクトなら、関係が確立され、パートナーの資格や実績が検証されれば、管理業務のほとんど(請求、支払い、保証のチェック、スケジュール調整)は手間がかからず、カスタマイズされたデジタルネットワークを構築する必要もない。スタートアップは、最初に1つだけ重要なインテグレーションを行うだけで良い──自社運営からパブリック・イーサリアムブロックチェーンへのインテグレーションだ。
グローバル・ニッチ・ブランド
結果的に2030年まで、コマースの将来はある意味では、驚くほど過去と類似したものになるかもしれない。例えば、1950年代には、数百もの企業がテレビを作っていた。ウィキペディアを見ると、モトローラ(Motorola)からミヴァール(Mivar)、イングリッシュ・エレクトリック(English Electric)まで、かつてテレビを作っていた数百の企業のリストがある。今はトップ10のテレビメーカーが市場の75%を占めている。
グローバル化と大規模化は、決して悪いものではなかった。1950年、12インチの白黒テレビは、現在の価格で約2500ドル(約25万円)だった。今なら500ドル(約5万円)ほどで、60インチの4K液晶テレビが買える。もちろん、カラーだ。
2030年までには、小規模なブランドが再び、数多く誕生しているだろう。数百ものグローバルブラントが、競争力のある価格を提供する。独特のスペースがある古い住宅は、イギリスだけの特徴ではなく、世界中にある。ユニークな市場ニーズに対応する小さなスタートアップは、グローバル・ニッチ・ブランドとなり、小さな市場へと高度にカスタマイズされた製品を提供する。地理的な立地は無関係になる。
最後に付け加えるとすれば、こうしたバラ色の未来予想図では、多くが間違った方向に進む可能性がある。インターネットは民主主義と自由をあらゆる場所で必然のものにすると我々は考えていた。しかし、そうはならなかった。
幾度となく技術革命は、我々が期待したメリットを生み出すことに失敗している。今回もおそらく例外ではない。だが、もう1度挑戦することをやめてはいけない。
ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)でブロックチェーン分野の取り組みや投資を統括している。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Maxsattana/Shutterstock
原文:How Small Business Can Achieve ‘Economies of Scale’ by 2030