仮想通貨融資のダーマ、サービスを開始。広がる分散型金融マーケット

仮想通貨から利息を得る機会が増える中、ピアツーピア(P2P)融資のダーマ(Dharma)はその市場で注目されるべき企業の一つだろう。

2019年4月8日、ダーマはサービス提供の開始を発表した。貸し手と借り手は、P2Pでマッチングされ、同社のスマートコントラクトに管理される形で、カストディアンなしに融資条件が設定される。

同社は、預金者が貸付可能としている仮想通貨に対して、固定金利を提供することで、競合との差別化を図る。ただし、1つ注意点がある。預金から利子が得られるのは、資産が借り手に利用された場合のみ。

「我々が提供しているのは、期間固定かつ金利固定の融資だ」とダーマのCEO、ナダフ・ホランダー(Nadav Hollander)氏がCoinDeskに語った。同氏は、全ユーザーの体験を向上させるために尽力したとも付け加えている。

同氏は以下のように述べている。

「仮想通貨からカストディアンなしで利子を得る方法は一握りしかないうえに、それらのほぼ全てが高度な技術知識を必要とする」

ダーマは、当初プロトコルとしてスタートしたが、今回のニュースとともに、新しく開発されたマーケットプレイスを運営する企業へと転身する。 これまでのユーザーに提供してきた試験的サービスの名前は「ダーマ・レバー(Dharma Lever)」だったが、同社がプロトコルから転身することにともない、製品の名前も「ダーマ」に変わる。

「我々は企業として、開発者優先ではなく、ユーザー優先で進めていくことを戦略的に決断した」と同氏は述べる。「そうは言ったものの、基礎となるスマートコントラクトは、依然として主にオープンソースだ」と加えた。

同氏によると、同社はすでにユーザー2500人を対象にした試験運用を実施。コンセンシス(ConsenSys)の元従業員が立ち上げたサードパーティの観測企業、ダーマリティクス(Dharmalytics)によると、金曜日の時点でダーマを利用して実施された貸し付けは1575件。総額は約116万ドル(約1億3000万円)。

同社は、グリーン・バイザー(Green Visor)、コインベース・ベンチャーズ(Coinbase Ventures)、ポリチェーン(Polychain)などから投資を受けている

ダーマの共同創業者で最高執行責任者(COO)のブレンダン・フォースター(Brendan Forster)氏はプレスリリースで以下のように述べた。

「我々は、広い範囲で、金融サービスがブロックチェーンベースにシフトしつつあることを、今よりもはるかに効率的で、プログラム制御可能で、公正な金融システムの始まりと見ている」

仕組み

ダーマのサービスは、P2Pで貸付が行われるという点においては、P2P金融スタートアップ、レンディングクラブ (LendingClub)とほぼ同じ。異なるのは、ダーマの場合、全てが仮想通貨で行われるという点。

ダーマはホワイトペーパーの段階から大幅に方向転換している。当初は、サードパーティが貸付を引き受け、借り手の特定を運営するプラットフォームとなる予定だったが現在は同社が引受人の役割を一手に引き受ける形となっている。

ユーザーから見た場合、さほど違いはないはずだ。

その他の仮想通貨担保融資商品と同じように、ダーマは融資の価値の150%相当を担保に入れることを要求する。仮想通貨を借りる需要よりも貸す需要の方がはるかに多いため、借り手は割とすぐに貸し手とマッチングされるだろう。マッチング後は、イーサリアム(ETH)、もしくはダイ(DAI)を28日間、固定金利で借りることができる。

ここで分散型金融(Decentralized Finance=DeFi)の強みが際立つと同社のマーケティングマネージャー、マックス・ブロンスタイン(Max Bronstein)氏はCoinDeskに語った。「借り手は30秒未満で資金を手に入れることができる」

借り手が担保に入れている仮想通貨の価値が借りている資産の125%を下回ると、スマートコントラクトが担保の精算を始める。

事実、これはホランダー氏が「流動性リスク」と呼ぶもので、ユーザーが直面する2つのリスクのうちの1つ。もし、仮想通貨の価格が借り手にとって不都合な方向に動けば、担保金が精算される、もしくはマージン・コール(追加証拠金請求)が届くだろう。

もう1つのリスクは技術的なもの。ダーマが同社のスマートコントラクト作成時にミスをしているかもしれないということだ。このリスクに関して、ユーザーは、監査やスマートコントラクトがオープンソースであることでもたらされる「群衆の知」によって、幾分か保護されているといえるだろう。

「こららのリスクは全て明確に理解されている」とホランダー氏は語る。

借入需要を生むために

現在、システムを機能させるために、より多くの借り手が必要とされている。

借り入れの需要を強化すべく、同社は法人営業に注力しており、需要を増加させるために、パスポート・キャピタル(Passport Capital)、フォルモサ・キャピタル(Formosa Capital)、スパルタン・キャピタル(Spartan Capital)、ワイヤー・キャピタル(Wyre Capital)などのヘッジファンと早期に提携している。

「市場取引に対する需要が大きいが、今よりもはるかに使い勝手の良いインターフェースを作ることで、他の用途を見つけることができると考えている」とブロンスタイン氏は述べている。

ドルの代わりにDAIを受け取ってもよいと考えている従業員や大量のETHを抱えている、資金が潤沢なICOスタートアップからの需要があるだろうとブロンスタイン氏は主張している。

いずれにせよ、「仮想通貨を借りることよりも、貸すことに関心が集まっている」とホランダー氏は語る。

今のところ、ダーマは借し手に対して多少の助成を行なっている。貸し手が受け取る利子は借り手が払う利子よりも高い。借り手の支払う利率が2%なのに対して、貸し手に支払われる利率は、ETHに対しては4%、DAIに対しては5.5%。ただし、利子が発生するのは、預金が融資されている間のみ。

しかし、この領域において、このような状況は珍しい話ではない。

「現在、この領域で市場に対して助成を出しているプロジェクトは、ダーマ以外にも多くある」と仮想通貨調査専門会社、デルファイ・デジタル(Delphi Digital)の共同創業者、アニル・ララ(Anil Lulla)はCoinDeskにEメールで語った。

また、同氏は以下のようにも付け加えている。

「ブロックファイ(BlockFi)のような、中央集権型のサービスでさえ、25ビットコイン(BTC)、および500ETH以下の預金に対して6.2%の利率を提供している。これらのプロジェクトは皆、人々が保有する仮想通貨を狙って競争しており、新規入金者をひきつけ、迅速にマーケットシェアを獲得するために、一時的に助成を出す必要がある」

ブロンスタイン氏も似たような見解を示していた。

「この戦いの勝者は、独自性およびブランド力によって決まると我々は考えている」と同氏は述べている。「価格はいずれ収束する」

様々な分散型金融

貸し借りといえば、単純に聞こえるかもしれない。しかし、金融においては、小さな違いが商品を大きく変える。

アンチェインド・キャピタル(Unchained Capital)やブロックファイにおいて、ユーザーは仮想通貨を担保に法定通貨を借りる。コンパウンド(Compound)の場合、ユーザーの貸し借りは全て仮想通貨で行われるが、利率はその時の需要に応じて絶えず変わる。メーカーDAO(MakerDAO)を利用した融資には期限が一切なく、ユーザーは好きなタイミングでバルーン返済することができる。

ダーマのサービスが、最も多くの人に親しみのあるタイプの融資に見えるだろう。ユーザー全員にとって理解しやすい設計になっているが、それでも個人向けバンキングとは一味違うとホランダー氏は強調する。

「我々のアプローチは、コインベースを含むどの仮想通貨ウォレットからでも利用できる、カストディアンなしの分散型金融(DeFi)商品を作ること」と同氏は述べている。

現在、融資期間は一律で28日間。「我々は、選択肢を増やすために尽力している」とブロンスタイン氏は語る。近々、3カ月間や6カ月間を融資期間の選択肢に加える予定だとも。

他にもいくつかの点が変更されることになるだろう。今のところ同社は、ユーザーの手数料を助成しているが、それがいつまでも続くとは限らない。また同社はいずれ、融資手数料を請求することになる。これはおそらく、プロトコルから企業へと方向転換したことの最も顕著な影響といえるだろう。

ブロンスタイン氏はこう語っている。

「我々は非常に標準的な収益を創出する事業になる。良いソフトウェアから収益を得る普通の企業へと」

翻訳:Yuta Machida
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:Dharma image via Token Summit
原文:Crypto Lender Dharma Officially Launches on Ethereum Blockchain