【今日から】改正「電子帳簿保存法」では領収書などのペーパーレス化が一気に進まないと考えられる理由【10月施行】

改正電子帳簿保存法がきょう10月1日から施行され、契約書・領収書・請求書などの証憑書類の保存についての法律が変わる。コロナ禍によりキャッシュレス決済やテレワークによるオンラインでの取引が増える中での施行に、会社のペーパーレス化の加速が期待されるが、果たしてどのような内容なのだろうか。

電子帳簿保存法とは「税務・経理のペーパーレス化法」

電子帳簿保存法とは1998年に創設された、個人・法人問わず、事業主の帳簿書類を電子データとして保存することを認める法律だ。「税務関係書類のペーパーレス化を進めて管理のムダを減らしたい」という経済界からの要望に応える形でスタートした。

デジタル化はムダを省ける一方、改ざんやごまかしといったリスクも伴う。そのため、この法律では、特に「真実性の確保」(記録内容が本物であること)、「可視性の確保」(誰もが目で見てきちんと確認できる状態であること)が重視されている。

具体的には、申請書と業務フローや必要な設備に関する書類の提出や改ざん防止のための「タイムスタンプ」を義務付けるなどの規定が設けられている。

電子帳簿保存法の対象は大きく3種あって、▽総勘定元帳などの帳簿▽決算書類▽契約書・領収書・請求書などの証憑書類──である。保存形式は2種あり、「電子データ保存」「スキャナ保存(紙をスキャンした上でのデータ保存)」が認められている。

どの書類も「電子データ保存」は認められているが、「スキャナ保存」ができるのは契約書・領収書・請求書などの証憑書類だけ。また手書きの総勘定元帳や決算書をスキャナ保存しても電子帳簿保存法の対象とはならない。

10月からの電子帳簿保存法改正で何が変わるのか

電子帳簿保存法の改正で10月以降変更になるのは、証憑書類の電子データ保存に関わる部分だ。いずれもクラウドサービス経由の取引・決済・経理作業が対象で、受領者側が自由に改ざんできないことを前提としている。

発行者のタイムスタンプがあれば受領者側は不要になる

電子データについては、発行者側のタイムスタンプが押されているだけでなく、受領者側もタイムスタンプを押さなくてはならなかった。今回の改正で、受領者側のタイムスタンプは不要となる。

クラウド会計経由の電子データも電子帳簿保存法の対象になる

クラウド会計の多くは、キャッシュレス決済のデータがそのまま帳簿に記帳されるシステムを採用している。このクラウド会計を経由した決済情報についてもそのまま領収書やレシートの代わりとして保管できるようになる。

それでも完全ペーパーレスが難しい2つの理由

これで税務・経理のペーパーレス化が一気に進むと期待したいところだが、そこには2つの障壁がある。

そもそも電子帳簿保存法は複雑で運用に手間がかかる

電子帳簿保存法はかなり複雑で、経理や総務の担当者や税理士ならともかく、税務が本業がではない中小企業のオーナーやフリーランサーが法律の要点を押さえるのは難しい。そして理解をしても運用に骨が折れる。

証憑書類の電子データでの保存だけは税務署への申請書の提出は不要とされているが、事業主なら「帳簿も決算書も領収書もデジタルにしたい」と思うはずだ。結局、事前申請が必要になる。また、申請書を作る際、電子データの保存に関する規定や使用するデバイスに関する説明書も出さなければいけない。

つまり、申請書の提出の前に使用する機器の選定や規定の作成にコストをかけなくてはならないのだ。申請が承認されても紙のレシートのスキャンが手間だろうし、紙の書類を全部廃棄できるわけでもない。

こういった煩雑さを嫌って紙のレシートの保管を続けているというのが現状だ。

消費税の仕入税額控除ができなくなるおそれも

消費税法が求めるものと、電子帳簿保存法のそれとでは違いがあり、また消費税が現在8%と10%の複数税率になっていることから、結局電子データだけでは消費税の仕入税額控除ができなくなる恐れがある。

消費税の税額控除をするには、紙の領収書に「取引先の氏名と年月日、金額、内容、支払元の氏名」が書かれていることが必要だ。キャッシュレス決済の明細は取引年月日と金額、取引先くらいしか情報がないため、本来税額控除ができなのだが、消費税法では「やむを得ない事情」として特別に税額控除が認められている。

ただし単一税率が前提だ。

2019年10月から消費税は8%・10%の複数税率のため、現在、支払分の領収書に両方の税率が混在しているなら、既述した要素の記載だけでなく「どれが8%でどれが10%なのか」を明確に区分すべしとされている。それなのに、キャッシュレス決済で受け取った電子データの明細だけでは、どれが8%でどれが10%か分からない。

さらに、電子帳簿保存法もこの点に対応しておらず、結局、区分記載された紙の領収書を保管しておかなくてはならないのだ。

こうした点を考えれば、今回の改正で完全ペーパーレスは難しい。しかし実務での税務・経理のデジタル化は進んでいる。新首相の旗振りの下、デジタル庁なるものが誕生したし、新閣僚は、はんこをはじめとした様々なアナログな慣習を見直す姿勢を示している。完全ペーパーレスはまだ遠いが、一歩ずつ着実に近づいていくしかない。

文:鈴木まゆ子
編集:濱田 優
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