暗号資産(仮想通貨)には、自ら生み出した数多くの問題がある。劣悪なユーザーエクスペリエンス(UX)、維持不可能な取引手数料、大きなイノベーションに直面したときのリスクを評価できないことなど。
だが今まで、ドルとの相互依存が問題の1つと示唆した人はいなかったのではないだろうか。
簡単に取引ができ、ドルなどに連動するステーブルコインの登場は、数百万の普通の人たちにとって天の恵みだった。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)の絶え間ない価格変動に対抗することができる。
そして価格が安定していることは、世界中がステーブルコインをそのデジタルな経済活動に取り込むことを妨げる明白な理由がもはや存在しないことを意味している。
不安定なアメリカ
だがそれでも、アメリカは窮地に陥っている。数カ月間、経済を失速させたことの大きな経済的反動は、まだその頂点には達していない。負債は大規模に商品化されている。世代、人種、都市の間で富の巨大な分断がある。
文化的・政治的分断も同様に根深い。アメリカ国民の二極化は進み、マスク着用さえも党派的になっている。そしてこの国はさらなる分断をかき立て、一方のみを支援しようとする政権に率いられている。
アメリカの政治は壊れており、本格的な内戦が勃発することは想定できないことではない。実際、ジャーナリストや軍上層部は怯えながらも、その可能性を公然と考えている。
不安定なドル
もしアメリカがさらなる繁栄と大惨事の可能性の間のきわめて不安定な状況にあるとしたら、世界の他の地域にとってのドルの命運も同じような状況にある。国債発行の問題だけを見ても、プロの資産運用家たちはドルの基軸通貨としての地位は脅かされていると警告している。
伝統型市場はそうした構造的転換をリスクヘッジしたり、避難するための成熟した金融商品を持っている。たくさんの別の通貨やドル建てではない資産があり、ドルが深刻な暴落に見舞われても資産を移動できる。
暗号資産には、エコノミストやトレーダーが冷静に「外部の政治リスクをヘッジするための金融商品」と形容するような同様の商品が存在しない。暗号資産の目標は、グローバルに展開し、国家による管理から自由であることにもかかわらず、その命運はいまだに驚くほどドルと結びついている。
暗号資産のエコシステムは、ユーザーエクスペリエンスのほぼすべてでドルを活用している。もちろん、ビットコインやイーサリアムを使って生きている人もいる。
だが、どの取引所でも、あるいはウォレットでイーサリアムの取引手数料をチェックしても、暗号資産はドルの世界で生きる人たちによって開発され、使われていることがわかる。
そうした相互依存から抜け出すための最も明白なルートは、ユーロ、円、あるいは人民元に裏付けられたステーブルコインを導入することだ。しかし、1日の取引高が通常500万ドル(約5億3000万円)を超えるドル連動型ステーブルコインは6種類以上存在するのに対し、同様のレベルで競争できるドル連動型以外のステーブルコインは存在しない。
ステーブルコインにもドル覇権
なぜ、ドル連動型以外のステーブルコインはまだ成功していないのだろうか?
この問いに答えるのに最適な人物がいる。ドルに連動した自律型ステーブルコインのダイ(DAI)を開発したメーカーダオ(MakerDAO)の元メンバー、マリアーノ・コンティ(Mariano Conti)氏だ。
当初、ダイはIMF(国際通貨基金)の特別引出権(SDR)に連動する予定だったとコンティ氏は話す。SDRは、ドル、人民元、ユーロ、英ポンド、円の5つの通貨のバスケットで、IMF加盟国間で勘定単位として使われる。IMFは5つの通貨を慎重に検討することでSDRを設定している。
だが簡潔に言えば「人々はSDRではなくドルで考えるため、最終的にはドルが選ばれた」(コンティ氏)。
ユーロ、円連動型ステーブルコインの可能性
これを変えることは可能だろうか? ダイをユーロや円で裏付けるように変更できるだろうか?
「プロトコルは、必要なら他の通貨に連動するように変更することはできる。だが、プロセスは手間のかかるものになる」とコンティ氏。
より良いアイデアは、ダイによって裏付けられた別の通貨、例えばユーロダイ(EuroDai)やエンダイ(YenDai)を発行することだ。つまり、すでに存在する担保で新しいステーブルコインをサポートし、成功を積み重ねるということだとコンティ氏は説明する。
「軌道に乗り始めたら、担保資産となっているダイを既存の、あるいは新しい通貨バスケットに徐々に移行することもできる」
つまり、ユーロや円に裏付けられたステーブルコインは実現可能だが時間がかかる。構築するのに数カ月、しかしコミュニティの信頼を本当に獲得するには、おそらく1年以上かかるだろう。
その後、数百もの分散型アプリ(Dapp)のユーザーエクスペリエンスに統合されるには、おそらくさらに時間がかかる。
シブ・マリク(Shiv Malik):シンクタンク「インタージェネレーショナル・ファンデーション(Intergenerational Foundation)」の共同創業者であり、ガーディアン紙の元調査ジャーナリスト。現在はオープンソースプロジェクト「Streamr」のための新しい分散型データエコノミーの普及に努めている。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Andrii Spy_k/Shutterstock
原文:Crypto Is Too Dependent on Dollars