アメリカ大統領選挙に向けた初めてのテレビ討論会の余韻が残るなか、予測市場は勝者を選んだ。つまり敗者も決めた。トランプ大統領だ。
9月29日、トランプ大統領と民主党の大統領候補ジョー・バイデン氏の初の直接対決となるテレビ討論会が行われた。ともに70代の両者は、次の大統領には自身がふさわしいとアメリカ国民を説得するために、口論し、けなし合い、ときには繰り返し叫び合った。
そして、トランプ大統領とバイデン前副大統領が口論を続けた約1時間半の間、市場は次の大統領にどちらを選ぶかについて、激しい賭けが繰り広げられた。
大統領選挙のような大きなイベントの結果に人々が賭ける、いわゆる「予測市場」になぜ注目するのか?
つまり、自らの資産でリスクを取る人たちは、ただ調査に答えるだけの人たちよりも予想について、より正確な情報を提供するからだ。
トランプ大統領には厳しい夜に
ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校が運営する予測市場「プレディクティット(PredictIt)」では29日、「誰がアメリカ大統領選挙に勝利するか?」という質問に対して、1日で過去最高となる70万8500「株」を記録した。
賭けを行う人たちは、候補者の「株」を購入する。候補者が勝った場合、1株あたり1ドルの報酬を受け取ることができる。敗者に賭ければゼロだ。
プレディクティットは中央集権型なだけではなく、アメリカでは規制されている。
トランプ大統領の株は、テレビ討論会の開始時には9月中とほぼ同じ、46セント前後で取引されていた。議論がすぐに白熱した討論会の序盤には、トランプ大統領の見込みについて買い手は少し楽観的になり、価格は48セントまで上昇した。
だが、約4万6000株が取引されたあと、1時間後には価格は46セントに戻った。わずか7時間前、取引されていた株は5000にも満たなかった。
討論会が奇妙な展開を見せると、売りが進み、価格は42セントまで下落、当記事執筆時点もほぼ同じ価格だ。
一方、バイデン氏の株は討論会の間、59セント前後で取引された。だが取引数は約3万9700株だった。価格がトランプ大統領の株を上回っていることを考えると、取引高は数千ドル多い計算になる。
バイデン氏の株はその後上昇を続け、当記事執筆時点で63セントになっている。
フロリダ州
アメリカの選挙は単純な一騎打ちではない。各州とコロンビア特別区で、それぞれの州の人口などによって数が定められた選挙人を選ぶ、51の独立した選挙が行われる。最終的に多くの選挙人を獲得した方が大統領となる。州ごとに細かく見ると、興味深い動きもあった。
30日、賭け手たちはフロリダ州についての考え方を変え、価格は52セントで共和党が優勢だったのが、51セントで民主党が優勢へと動いた。
これは、ノースカロライナ州やアリゾナ州など、伝統的に共和党支持の南部の州が動向が変わりつつあるなか、トランプ大統領にとっては状況がさらに悪化していることを意味する。同様に2016年のトランプ大統領の勝利に重要な役割を果たした3つの州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州も、民主党が優勢になっている。
こうした動きによって、民主党が獲得する可能性のある選挙人の数は数時間前の306から、335に増加している。
このプレディクティットの数値は、大リーグにデータ活用をもたらし、大統領選挙の予測で知られるデータアナリスト、ネイト・シルバー(Nate Silver)氏による、バイデン氏が332の選挙人を獲得するというFiveThirtyEight.comでの予測に近いものになっている。大統領選挙に勝つには、270の選挙人が必要だ。
分散型の予測市場
プレディクティットは中央集権型市場だが、ブロックチェーンをより活用した取引所でもトランプ陣営にとって好ましくない結果となっている。
確かにそうした取引所は規模が小さいが、より専門的な質問を行っている。なんらかの理由でリスクヘッジが必要な人や、魅力的な賭けに出てみたい人たちには有用かもしれない。
例えば、分散型予測市場のオーガー(Augur)はアメリカ大統領選挙について、3つの先物契約がある。それぞれ満期日は、2021年1月7日、2021年1月20日、2020年12月7日となっている。
最初の2つの先物契約では、トランプ大統領が再選されるのは49%、3つ目の先物契約では大統領選挙に勝利するのはトランプ氏が40%、バイデン氏が54%となっている。
ポリマーケット(Polymarket)では、賭け手たちはトランプ大統領の勝利に46セントの値をつけているが、29日夜には、52セントまで上昇した。この先物契約は3カ月前に開始されて以来、ちょうど10万ドル(約1060万円)が取引されている。
EOSブロックチェーン上のPredIQtでもトランプ大統領の勝算はほぼ似たようなものになっており、45%で取引されている。ステーブルコインのダイ(DAI)で取引を行うオーメン(Omen)では、バイデン氏の勝算が58.8%となっている。
FTXの選挙先物
FTXは、暗号資産(仮想通貨)デリバティブだけではなく、さまざまな選挙関連の先物契約も提供している。そこでもトレーダーたちはトランプ大統領の再選について弱気だ。
FTXでのトランプ大統領の「先物契約」は、テレビ討論会の終了とともに急速に下落した。取引高は5万7000契約で、価格は43.5セントから40セントに下落した。
2月には65.2セントの高値で取引され、3月12日の市場暴落のなか、31.8セントまで急落。6月までに50セントまで回復し、また下落していた。
バイデン氏の先物契約の価格は、小さな値幅だが、ほぼ同時期に上昇。取引高は1万契約で55.5セントから60.4セントに上昇した。
もちろん、価格は毎日変動する。選挙まで5週間を切った。予測市場に注目だ。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:Election 2020 Prediction Markets: Bettors Say Trump Lost Tuesday’s Debate