米商品先物取引委員会(CFTC)と連邦検事にとっては華々しい第4四半期のスタートになったかもしれない。暗号資産(仮想通貨)業界屈指の取引所「ビットメックス(BitMEX)」を未登録取引の疑いなどで告発し、共同創業者の1人、サミュエル・リード(Samuel Reed)氏を逮捕した。
同社は2016年、パーペチュアルスワップ(満期のない先物取引)と呼ばれるデリバティブ商品を100倍のレバレッジで市場に投入し、デリバティブの取扱高と建玉(未決済の契約数)では長年にわたって業界をリードしてきた。
これは取引所がビットコインの価格にいかに影響を与えるかを示している。
2014年、市場シェア約70%を誇り、当時最大のビットコイン取引所だったマウントゴックス(Mt. Gox)が破綻。ビットコイン価格は約50%下落し、ダメージからの回復に2年以上を費やした。
一方、ビットメックスは数年前まで、最大のデリバティブ取引所であり、今回のニュースは、取引のレバレッジが比較的大きいことを考えると、同様の影響をもたらした可能性がある。
しかし、ビットコインの価格はこのニュースを受けて、当初は約4%値を下げたものの、大勢が予期したシステム的な激震からはほど遠いものだった。
ビットコイン価格は1.5%回復した後、暗号資産とは関係のないニュース(トランプ大統領の新型コロナウイルス感染)によって不意打ちを食らった。
ビットコインETF承認への道筋?
ビットメックスはここ数カ月で、オーケーエックス(OKEx)やフォビ(Huobi)、バイナンス(Binance)にリーダー的ポジションを明け渡し、現在は1日の取引高では第4位、建玉では第2位となっている。仮にビットメックスが閉鎖され、市場が影響を受けたとしても、代わりとなる取引所が存在するため、システム的なダメージにはならないだろう。
ドメイン名は差し押さえられ、引き出しはできないが(ビットメックスでは、引き出しに4人の承認された署名人のうちの3人が必要となる。今のところそのうちの1人は逮捕されている)、ビットメックスが閉鎖される可能性は低いだろう──当記事執筆時点では、引き出しは問題なく行われており、引き出し額は大きいが、ビットメックスにとって壊滅的なものではない。
さらに重要なことに、このニュースはビットコインのファンダメンタルズを変えるものではない。他の取引所でポジションを閉じたり、再開することができるため、取引高には影響を与えるかもしれない。しかし、ビットコインを支えるテクノロジーやその潜在的なユースケースは依然として損われていない。
そして、このニュースは暗号資産市場のインフラへの信頼を弱めるどころか、信頼を高める可能性が高い。
ビットコインETF(上場投資信託)のあらゆる提案を拒否しているSEC(米証券取引委員会)が、その理由としてあげたものの1つは、大手オフショア(海外)取引所への監視の欠如だ。
CFTCによる今回の行動は、マーケットプレイヤーに対する規制の厳格さと監視を改善する大規模な取り組みの一環のように思える。これは機関投資家からの信頼を高め、商品の幅を広げることにつながるはずだ。
さらにはビットコインETF承認へ向けたステップとなるかもしれない。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:Crypto Long & Short: Coinbase’s ‘Apolitical’ Stance Isn’t Nearly as Simple as It Sounds