ネット証券、銀行、暗号資産取引事業の拡大を加速させるSBIホールディングスが、ブロックチェーンとトークン化した株式や債券を使ったデジタル証券事業をいよいよ本格化させる。
次世代のデジタル証券を巡っては、野村ホールディングスやみずほフィナンシャル、三菱UFJフィナンシャルもその研究開発を進めているが、SBIは今回の取り組みを通じて国内のデジタル証券市場をさらにけん引していく
SBIは9日、セキュリティトークンオファリング(STO)事業の詳細を発表した。STOは、発行体企業が従来の株式や社債に代わり、ブロックチェーンを使って発行するデジタル証券「セキュリティトークン(ST)」で資金を調達するというもの。昨年に金融商品取引法が改正され、日本国内でもSTの取り扱いが可能になった。
株式トークンで第三者割当増資
SBIのデジタル証券事業は3つの事業で構成される。一つ目は、企業が株式をSTで発行して資金を調達するというもので、SBIの子会社であるSBI e-Sportsが今月末にSTで第三者割当増資を行う。
SBI e-Sportsは、1000株の普通株式(ST)を1株50000円で発行し、SBIホールディングスがこれを引き受ける。発行されるSBI e-Sportsのデジタル株は、ブロックチェーン基盤の「ibet」を使って発行、管理される。
ibetは、野村HDと野村総合研究所が共同で設立したBOOSTRYが開発したSTの発行・取引プラットフォーム。SBIはBOOSTRYの株式10%を野村から取得し、業務提携を結んでいる。
二つ目はデジタル社債だ。SBI証券は、企業がデジタル社債を公募で発行できる事業を検討する。具体的には、SBI証券が発行体の社債(ST)の引受人となり、SBIの顧客を対象に販売する。SBIはこのデジタル社債事業でもBOOSTRYが開発したibetを採用する方針だ。
ファンド型STOで不動産、ゲーム、映画
国内ではこれまでに、野村HDが私募債をSTで試験的に発行することはあった。また、みずほフィナンシャルもデジタル社債を中心に、STを活用した金融商品の開発を検討している。
そして、SBIが3つ目の事業として検討しているのがファンド型のSTOだ。公募のファンドを組成して、出資者にはトークン(ST)を付与する。ファンドは、不動産や美術品、ゲームや映画の版権などの資産に投資を行う。
少額投資も可能で、投資家はファンド型STOを通じて資産のオーナーの一員になり、その資産に関連する特典を取得することができる。投資リターンを求めるだけでなく、投資家はその事業に参画することで、例えば地方創生や環境保護に貢献したり、それぞれのライフスタイルや価値観に応じたプロジェクトのオーナーになることができる。
開発フェーズから導入フェーズに移行
SBIが今回の取り組みを進めることで、国内における次世代型・デジタル証券は開発フェーズから導入フェーズへと移行していく。しかし、シンガポールやスイスなどのヨーロッパではSTOによる資金調達の環境整備が進んでおり、この分野における日本の出遅れ感はある。
例えば、シンガポールには既にデジタル証券の上場や保管、取引ができるデジタル証券取引所「iSTOX」が設立されている。iSTOXは、発行市場であるプライマリーマーケットに限らず、投資家の間で売買するセカンダリー市場としての機能を持ち合わせている。iSTOXにはシンガポール証券取引所のSGXが出資している。
金融のデジタル化が急ピッチで進むなか、STによる資金調達は今後、国内市場においてどれほど普及していくのか。この領域における、SBIや野村、みずほ、三菱UFJのさらなる動きに注目が集まる。また、トヨタグループも同社の研究ラボを通じてST活用の検討を進めており、業界の垣根を越えたSTの導入が期待されている。
文:佐藤茂
写真:SBIホールディングス北尾吉孝CEO(撮影:多田圭佑)