OKExの出金停止、問われる市場インフラの脆弱性

大手暗号資産取引所のオーケーエックス(OKEx)が暗号資産の出金を停止。同取引所の秘密鍵保有者の1人が、公安当局の捜査に協力しているため、連絡が取れなくなっているという。

数週間前にはビットメックス(BitMEX)が当局から告発されたばかりで、オーケーエックスを巡る今回の事態は、大手取引所における出金手順の安全性に市場の注目を集めることになるだろう。

ビットメックスが告発された際、同取引所での出金が停止するのではないかと懸念された。出金手順には、特定の数の承認済みの署名人が必要で、そのうちの1人が逮捕されたからだ。結局、出金は問題なく行われた。しかし、出金停止の可能性はオーケーエックスの件も重なり、暗号資産市場のインフラの特殊性を浮き彫りにしている。

株式市場など、従来の市場インフラ企業も規制リスクを免れているわけではない。株式市場では、顧客は取引所に直接資金を預けているわけではなく仲介業者を介している。そして仮に仲介業者が破産しても、資金は分離されているため、仲介業者の取引銀行が資金を顧客に返還する。

暗号資産市場はそうではない。顧客の資金は通常、取引所が保有している。当局の命令で資金を返還できる銀行も存在しない。

分散化の理想と中央集権型取引所

またこの事実は、分散化の理想を掲げて生まれた業界が中央集権的な脆弱性を持つ中央集権型の企業によって支配されているという皮肉も浮き彫りにする。取引所は概ね(署名人の1人が逮捕されても引き出しが可能だったビットメックスのように)マルチシグ(複数の認証が必要な)手順を備えているが、すべての取引所がそうとは限らない。

従来の市場には、規制が緩い方域で運営している企業もあるが、暗号資産市場とは違って、そうした企業が市場を独占しているわけではない。

法域はもう1つの問題でもある。オーケーエックスはEU(欧州連合)加盟国のマルタに拠点を置いているが、本社は香港にあり、シンガポールとサンフランシスコにオフィスを構えている。

米CoinDeskがOKExのニュースを伝えた後、中国のメディアは創業者のスター・シー(Star Xu)氏は上海で釈放されたと報じた。正確な容疑は依然として不明で、同社は拘束はオーケーエックスとはまったく無関係だと発表した。マネーロンダリングに関するものとの噂が浮上しているが、もしそれが本当なら、どの法域が告発すべきだろうか?マルタはどの程度この問題に関与すべきか?

中国メディアはまた、シー氏の拘束は強制的な清算をめぐる投資家との紛争や、システムクラッシュ、そしてそれらをめぐる同社の対応の結果でもあると報じた。同社はそうした問題は認識していないと主張している。

複雑な企業構造

さらに、オーケーエックスの企業構造は極めて複雑だ。

シー氏は中国に拠点を置くオーケーコイン(OKCoin)の創業者で、オーケーグループ(OK Group)のCEOでもある。またリンクトイン(LinkedIn)のプロフィールによると、サンフランシスコに居住していることになっている。

一部の報道では、シー氏は警察に拘束されたわけではなく、警察に保護を求めたという。2週間前に拘束されたが、今は釈放されたとの報道もある。オーケー・グループからスピンアウトしたオーケーエックスは、シー氏はもはや代表ではないと主張する。だがそれが事実であれば、出金停止の理由は説明できない。

この記事が出る頃には、拘束の詳細や出金スケジュールを明確にしたニュースが出ているだろう。あるいは状況はより混乱しているかもしれない。その一方で同社は顧客の資金は安全と主張している。

未成熟だが一定の回復力も

この状況は、暗号資産市場が比較的未成熟であること、そして、どれほど発展してきたかの双方を浮き彫りにしている。多くの取引所で顧客保護がほとんど実施されていないことは、市場がまだ未成熟であることを思い起こさせた。市場の大部分はまだ個人投資家向けであり、機関投資家が求める厳格なコンプライアンスや説明責任を満たさないまま成長してきた。

また、レジリエンス(回復力)と順応性という点で、暗号資産市場がどれほど発展しているかも思い起こさせてくれた。ビットコイン(BTC)価格は当初、このニュースを受けて2%以上落ち込んだ。しかし、10月1日のビットメックス告発のニュースの後の4%の下落よりも小幅なものだった。

将来的には、こうした事態はすでに始まっているトレンドを加速させるだろう。すなわち、中央集権型取引所はDeFi(分散型金融)への関心を高めている。米CoinDeskが主催したオンラインイベント「invest: ethereum economy」で、バイナンスのチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)CEOはDeFiは中央集権型取引所の競合ではなく、補完するものと考えているという自身の見解を繰り返した。

市場インフラの変動を目撃できる機会は滅多にない。そして暗号資産業界でよく言われるように、暗号資産の1年は伝統的金融の10年に匹敵する。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:ipopba/iStock/Getty Images Plus
原文:The OKEx Drama Exposes a Weakness in Crypto Market Infrastructure