DeFiが注目された理由は?DeFiとは何か?法的な課題と日本での可能性【分散型金融】Fintech協会・分科会セミナーレポート

2020年春ごろから特に注目度が高まっているDeFi(分散型金融)について学ぶセミナーが10月20日夜、オンラインで行われた。Fintech協会が第10回キャピタルマーケッツ分科会として開催したもので、タイトルはズバリ「DeFiの現状」。起業家や弁護士、暗号資産取引所グループの幹部らが登壇し、基礎知識からトレンド、今後の課題などについての考察や分析を述べた。

分科会は前半にセミナー、後半にパネルディスカッションが行われた。セミナーで登壇したのは、平野淳也(HashHub 共同創業者兼CEO)と金光碧(bitFlyer Blockchain取締役/Head of Treasury)、斎藤創(創・佐藤法律事務所 弁護士)牛田遼介(金融庁フィンテック室 課長補佐)の4氏。ディスカッションは4氏がパネリスト、藤井達人氏(auフィナンシャルホールディングス執行役員 最高デジタル責任者 兼 Fintech企画部長)がモデレーターを務めた。

DeFiとは何か 基礎から説明──HashHub平野氏

最初に登壇した平野氏は「DeFiの基礎、構造」 と題して講演。まずDeFiについて、明確な定義はないとしながら「パプリックブロックチェーン上にデプロイされたコード(スマートコントラクト)によって構築される金融システムあるいはそこで行われる金融取引」と位置づけ。さらに、ブロックチェーンやスマートコントラクトに関する基礎知識を説明した。

その上で2020年DeFiが注目されていることを示すケースとして、分散型取引所(DEX)であるUniswapの取引量が代表的な中央集権型取引所であるCoinbaseを超えたことに触れ(2020年9月)、取引の主要な場がDeFiに移っていると指摘。代表的なDeFiについて紹介した上で、MakerDAOやCompoundの仕組みについても解説した。

その上で、DeFiの特徴として5つを挙げた。
1 ノンカストディ・サービス提供者を信頼せずとも使える
2 コンポーザビリティ(各プロトコルの統合性)
3 流動性がパーミションレスなブロックチェーン上に存在する
4 規制がしにくい、スマートコントラクト自体は止められない
5 サービスの提供主体が株式会社ではなく分散型コミュニティである場合も多い

DeFiの課題について、「上場銘柄の選定作業が行われないこと」「規制対応がないこと(KYCやAML)」「カスタマーサポートがないこと」などを挙げた。

6月にDeFiに着目した理由──BitFlyer Blockchain金光氏

次に金光氏は「取引所から見たDeFi」と題して話した。金光氏が本格的にDeFiについて調査を始めたのは、2020年6月のETH(イーサリアム)のガス代高騰が直接的なきっかけだったという。その頃起きたのは、スマートコントラクト上で暗号資産の貸し借りができるプラットフォーム・CompoundのCOMPトークンが配布されたことだった。

暗号資産のレンディングサービスはいくつもあり、代表的なところではBlockFiなどが挙げられる。これらとCompoundの違いは、BlockFiなどのサービスは企業が運営するCeFi(Centralized Finance)で、中央集権型と呼べる金融サービスである点だ。

金光氏が「仮想通貨版日証金のようなもの」と形容したCompoundは、COMPトークン(ERC20トークン)保有者による投票で運営されるプラットフォーム。当初は開発者グループのみがこのトークンを保有していたが、6月16日以降、ユーザーにも配布されるようになった。

このCOMPOトークン配布開始ごろからETHのガス代が高騰。ETHやERC20トークンの送付に時間がかかりるようになり、BitFlyerなどの取引所が支払う手数料も高くなってしまったのだった。

「日本の暗号資産交換業者としてDeFiで何ができるか?」

金光氏はこうした経緯を説明した後、「日本の暗号資産交換業者としてDeFiで何ができるか?」というテーマで話した。海外のケースとして、海外取引所がDeFiトークンを積極的に取り扱っていると指摘、グローバルで取引高首位のOKExは取引高上位10コイン・トークンのうち3つがDeFiトークンで、Conbaseでは4つがDeFiトークンだと紹介した。さらにここでは注意点として、氏が調べた限り、すべてのDeFiプラットフォームにKYCの概念がなかったという点も指摘した。

その上で日本の交換業者として考えられるアクションや課題についても言及。まず法的な問題として、DeFiそのもの、そして複数のDeFiをつなぐアグリゲーターが日本法ではどう位置づけられるのか、こうした事業・プロジェクトを営む上で日本のどの法律を意識すべきかについては、今後の協議が必要と述べ、法的整理が十分でないとの認識を示した。

またKuCoinが9月にハッキングを受けて2億7500万ドル超の暗号資産が流出した事件で、資金洗浄にDeFiが使われたことを紹介。そうしたリスクを回避しながら、多くの人にDeFiを使ってもらうために(日本の暗号資産交換業者が)UI/UXの改善や言語対応、カスタマーサポート、コンプライアンスの確立といった要素を、スマートコントラクト上で実装するのは現実的には難しいという見方を示した。さらにガス代高騰を踏まえたイーサリアムのスケーリング問題についても触れた。

このように厳しい見方を示しながらも、DeFi自体は画期的で素晴らしいと評価し、DeFiがAMLなどあらゆる観点から問題なく運営されるために、次の4つのアイデアを提案した。

1 「CeFiによる機能拡張」(CeFiである暗号資産交換業者が必要なライセンスを取って貸し借りのマーケット、デリバティブなどを実現する)
2 「暗号資産取引所のガバナンス参加」(免許がある取引所でKYCが終わったアカウントかどうかを判別するプログラムを各DeFiのスマコンに組み込む。また各取引所がガバナンストークンを保有し改善提案などができるようにする)
3 「DID(分散型ID)参照APIをスマートコントラクトに入れる」
4 「デリバティブとファンドを規制下で行う」(第一種金融商品取引業としてDeFi Indexや個別のDeFiトークン価格に連動したデリバティブを取り扱う、第一種金融商品取引業としてDeFiファンドを作る)

「DeFiも様々。一つひとつ日本法の分析が必要」──斉藤弁護士

次に斎藤弁護士が「DeFiと日本法」と題して講演。「DeFiといっても様々であり、法律の適用を考える際は一つひとつ日本法を分析する必要がある」とした上で、Compound,AMM(Automated Market Maker)、dYdX(a16zも出資する暗号資産分散型取引所兼DeFiプラットフォーム)、Maker DAOなどの仕組みと法的な論点について整理。

まとめとして、「日本法は運営主体や販売を規制する法体系であり、完全に非中央集権なプロジェクトは日本の規制に服さない」「ただし中央集権的な部分が残っていると規制の可能性がある。たとえばDeFiデリバティブで決済はオンチェーンでやるが、デリバティブのマッチングには運営者がいる場合(dYdX)など。DeFiのコインを取り扱う通常のExchangeも当然規制される」「しかし投資家側が規制に服することは通常ない」などと述べた。

ステークホルダーが議論できるプラットフォームが必要──金融庁牛田氏

さらに金融庁の牛田氏が「分散型金融システムにおけるガバナンス」と題して講演。米国ワシントン在住で、ジョージタウン大学の松尾真一郎教授の下で研究をしているという牛田氏は、分散型金融技術に対する当局の期待とリスク認識などについて説明。Uniswapをガバナンスのケーススタディとして取り上げたほか、DeFiの現状と今後についての見通しなどについて解説。エンジニアや当局などあらゆる関係者(マルチステークホルダー)で議論するためのグローバルで中立的なプラットフォームの必要性を説いた。

この後のパネルディスカッションでは、モデレーターを務めたauフィナンシャルホールディングスの藤井氏が「(CeFiと比較して)DeFiのどこが優れているのか」「一部のガバナンストークンに価格高騰が起きてマネーゲーム的な様相を呈しているが、既存の金融エコシステムを代替していくのか」「DeFiをイノベーションととらえた時、規制とリスクのバランスをどうとるべきか」といった質問を投げかけ、パネリストらが解説、意見表明をした。また聴講者から寄せられた質問にもこたえる時間も設けられた。

文・編集:濱田 優
画像:Fintech協会 キャピタル・マーケッツ分科会映像より