「仮想通貨は平成の三大発明に入るはず!」と固く信じているCoinDesk Japan関係者有志が、一つの時代の終わりを前に、仮想通貨界隈の十大ニュースを選出。トップニュースは満場一致ですんなり決まったものの、各人の方向性の違いがあらわになり、口論寸前になりながら、一定のコンセンサスを得ました。平成もあと数日、一緒に仮想通貨の30年を振り返ってみましょう。
<座談会参加者>
- 白馬のアルト :皆の中で一番古くから仮想通貨に触れていた人。 Mt.Gox事件の被害者でもあり、マーケットに関するニュースに敏感すぎていつも寝不足。
- コインは飲み物:仕事上の理由で、2017年から仮想通貨・ブロックチェーン業界に足を踏み入れた。事業を左右する事象を注視している。
- クリプト小僧 :大学院を卒業したばかりのひよっこ。自称クリプトネイティブ世代。
即却下されたランキング原案
クリプト小僧 :早速ですが、平成を彩る仮想通貨10大ニュースを決めましょう、これが叩き台です。
白馬のアルト :うーん……
コインは飲み物:うーん……
クリプト小僧 :あれ、反応が悪い?
白馬のアルト :コインチェック事件が入っていないなんて、ありえないですよ。
クリプト小僧 :Mt.Gox事件の亜流かなと思って、外しました。
コインは飲み物、白馬のアルト:いや、亜流違うでしょ!
コインは飲み物:お前が作った案は、ビットコインと技術に寄りすぎじゃないかい? その発想、嫌いじゃないけど。
白馬のアルト :ビットコイン10周年がランクインしてますが、それって重要なニュースですか?
クリプト小僧 :十大ニュースと言いながら10個も埋まらないので、仕方なく入れました。10年続いただけでもすごいですし。
4つの視点から影響度を測る
コインは飲み物:いや、それはお前の視野が狭すぎっしょ。おいらが一番大きいと思ったのは、コインチェック事件だよ。あれは単なる仮想通貨の流出事件じゃない。この一件で日本は政策が一気に規制に動いて、ブロックチェーンや仮想通貨のビジネスは相当打撃を受けたからね(おいらがやってる事業もね)。
白馬のアルト :私もコインチェックは、ものすごく高い順位になると思ってます。
コインは飲み物:仮想通貨好きと一口に言っても、関わり方で重視するものが違ってくるということだね。全方位的な視点を得るため、「マーケット」「規制」「事業」「技術」の4つの軸に分けて、考えてみよう。
全てはビットコインから始まった
クリプト小僧 :とは言え、ランキングのトップはビットコインの誕生(2009年)で異論がないと思うんですが。
コインは飲み物:全ての始まりだもんな。うん、賛成。
白馬のアルト :「サトシ・ナカモト」が作ったと言われますが、正体は今も不明のまま。平成の終わりに、正体が明かされるというニュースも出て気になっています。
クリプト小僧 :ビットコインのすごいとこって色々あるけれど、ぼくは分散コンセンサスの部分を一番評価します。サトシはすごい発明をしたんですよ。不特定多数が自分の利益を得るためにマイニングするけど、最長のチェーンが正当になるってコンセンサスがある。すると不正するコストが高くなる。これ自律的に不正を防ぐ仕組みですよね。
白馬のアルト :私は世界通貨というコンセプトに魅かれました。管理者がいなくて、ネットネイティブの通貨として世界に広がるんじゃないかって、そんな期待を持ちました。
コインは飲み物:逆にいうと、平成の仮想通貨史といいながら、2009年のビットコイン誕生前はこれといったトピックがないよね。WinnyやBittrentなどのP2Pファイル交換ソフトくらいかな。
不祥事と革命的技術
クリプト小僧 :トップニュースはビットコインで一致しましたが、2位はどうします? 白馬のアルト様はイーサリアムの誕生を推しています。
白馬のアルト :イーサリアムが生まれて、仮想通貨に通貨以外の用途が生じました。たとえばUportという分散型IDサービスがあり、スイスのツーク市では、電子的な身分証明方法として2017年末から試験運用されてます。これもイーサリアムの技術を基にしています。
コインは飲み物:イーサリアムって、国連が難民のID管理にも使おうとしてるしね。だけどおいらは、コインチェック事件の方がインパクト大きいと思うぜ。あの一件で日本は規制規制規制になっちゃって、おいらがやってた事業も袋小路さ。
クリプト小僧 :不祥事くくりで言えば、Mt.Goxも外せないと思うので、コインチェックと合わせて「不祥事」で2位に置いちゃうのはどうでしょう。
白馬のアルト :うう、古傷が痛みます。
クリプト小僧 :そういえば、アルトさんはGox被害者なんですよね。あの事件は、2019年に取引所の社長が一部無罪になるなど、まだまだ動きがありますね。
コインは飲み物:Gox被害者アピール、マウンティングっぽいなあ。そのころから仮想通貨やってましたけど、何か質問ある? みたいな。
クリプト小僧 :話を戻していいですか? つまり2位と3位はかなり僅差ということですが、コインチェック事件って、仮想通貨が一般社会に広まる中で起きて、NHKや新聞社も相当報道しましたよね。そういう意味で、皆の記憶に新しいから、2位にしましょうか。
バブル崩壊を予感したあのCM
クリプト小僧 :コインチェック事件で気づいたのは、身の回りに結構仮想通貨を買っている人が意外といたってことですね。『え、あなたもですか』みたいな(笑)。
コインは飲み物:いつものコーヒー店にいたら、おばあちゃんたちがある草コインについて喋ってたんだよ。来るとこまで来た感はあったね。取引所のCMも出てきたしね。出川哲郎に罪はないけど、出川さんのCMがある意味バブル崩壊の幕開けだった。
白馬のアルト :技術系のミートアップに行っても、投資勧誘の人たちがいて、お年を召された方もいた(笑)。すごかったですよ。
クリプト小僧 :日本で人気だったのは、NEMやリップル、モナコインですかね。通貨のバーや、ツイッターでの投げ銭ウォレットもありました。
白馬のアルト :クリプトキティも最高額1000万円を超える値がつきましたね。国産のブロックチェーンゲームも出てきたりして。
クリプト小僧 :仮想通貨バブルは、ランキングに入れていい事件と言えますね。
この数年は規制に翻弄され……
クリプト小僧 : 仮想通貨に限らないかもしれませんが、バブルの形成と崩壊は、規制と切り離せないですよね。中国は2017年9月にICOを規制したり大手取引所を停止させたりして、マーケットをぶったぎりました。ビットコイン価格も50万円台から30万円台に急落しました。
白馬のアルト :中国ショックは強烈でしたね。
クリプト小僧 :一方で知的財産権の専門メディアIPRによると、アリババグループホールディングスは、ブロックチェーン特許出願数では世界でもっとも多い企業です。
コインは飲み物:中国は仮想通貨の投機的な動きは規制するけど、将来性のある技術としては認めているんだよね。規制自体は悪いことじゃない。日本も2017年4月に改正資金決済法を施行したけど、法律が整備されるとビジネスにはプラスなんだよ。だけど2018年1月のコインチェック事件を引き金に、全てがストップするくらい厳しくなってしまった。
クリプト小僧 :国家との関係だと、キプロス危機も面白いですよね。ビットコイン価格が高騰したじゃないですか。資産の退避先として選ばれるようになったのもすごいですよね?
コインは飲み物:どうしてもそれ入れたいんだね。でも却下。
そして生まれたユニコーン
コインは飲み物:仮想通貨やブロックチェーンの技術は、新しい企業や産業を産んでるんだよね。2017年に創業した仮想通貨取引所バイナンスは、2018年にユニコーン企業(評価額10億ドル以上のスタートアップ)になってるし。これは史上最速のペースだった。
白馬のアルト :バイナンスはすい星のごとく現れて、あっという間に業界トップに立ちましたね。
コインは飲み物:Uberはユニコーンに成長するまでに4年半かかってるんだよ。バイナンスがどれだけ速いか。
クリプト小僧 :ぼく事業にはあまり興味ないんですけど、バイナンスは注目しています。2018年にコミュニティ化宣言したじゃないですか。このあいだDEX(分散型取引所)も出しましたね。未来の方向性だと思ってるんです。企業がDAO(分散自律組織)になる未来。
コインは飲み物:急成長企業という視点だと中国マイニング大手のBitmaimも外せない。Bitmainの企業価値は、一時はおよそ1.5兆円だった。こういうのを見て、他の企業も「何かやったほうがいい」と思うようになったんだとおいらは思うぜ。
白馬のアルト :ブロックチェーン技術そのものへの調査はそれ以前からありましたけど、仮想通貨の経済圏への投資が膨らんできているのは面白いですよね。
コインは飲み物:GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)のようなIT業界の巨人が、 近年活発に動いてるじゃん? AWS(アマゾンウェブサービス)やMicrosoft Azureでは、イーサリアムやハイパーレッジャーファブリックをサポートし始めたし。GoogleはBigQuery(ビックデータ解析サービス)にビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨をサポートしている。
白馬のアルト :IT企業だけでなく、金融機関もこの領域に進出し始めましたね。
クリプト小僧 :金融系の企業はPoC(概念実証)に留まっているイメージですけど。
コインは飲み物:だけどさ、取り組みは緒に就いたばかりだけど、大手金融機関が興味を示すってだけでニュースじゃない? 平成の終わりにこの領域に入ってきた金融企業も含めて、平成に生まれた技術がどう実用化されていくかは、令和のお楽しみってことで。
クリプト小僧 :うまくまとめましたね。今回はこんなところでしょうか。
白馬のアルト :あらら、上から目線ですねえ(笑)
構成:小西雄志
編集:浦上早苗
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