我々、プリズム(Prysm)が行った前回のレビューは、控えめに言っても甘かった。エンタープライズブロックチェーンが成功するための課題をいくつかあげた。その予測がすべて外れたわけではなかったが、イノベーション予算の国際的な見直し、大量のレイオフ、もちろん新型コロナウイルスによるさまざまな影響を受けた。
2020年はエンタープライズブロックチェーンにとって、完全に敗北の1年だったというわけではない。実際、意欲的な取り組みもいくつかあった。
グイド・モリナリ(Guido Molinari)氏は、テクノロジー導入に特化したコンサルティング企業「プリズム・グループ(Prysm Group)」のマネージングパートナー。
だが、そうしたプロジェクトの多くは、ほとんど成長しなかった。プリズム・グループの社内データによると、設立企業以外のエンタープライズブロックチェーンへの参加企業数は平均1社にも満たない。イタリアの銀行ネットワーク「スプンタ(Spunta)」のような例外はあるが、いずれにせよ、希望が持てる数字ではない。
2020年は、そうした傾向が加速しただけかもしれない。
プライベートか、それともパブリックか
コンサルティング会社、テクノロジープロバイダー、そして大手クラウド企業は、いわゆる「幻滅期の谷」から抜け出すためにエンタープライズブロックチェーン戦略を再定義している。そして2021年、エンタープライズブロックチェーンは、プライベートとパブリックの岐路に立たされている。
大手企業の戦略には違いがある。下図のように、単一のプロトコルに取り組む企業もあれば、取り組みを分散させている企業もある。さまざまな戦略が存在するなか、どこがベストポジションに立っているのだろうか?
左上:プライベート×単一プロトコル
ほとんどの企業は、プライベート(図の左側)に位置している。そしてプライベート×単一プロトコル(図の左上)には、ハイパーレジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)を推進するIBMと、コルダ(Corda)を推進するR3のような大規模プレーヤーが存在する。
IBMはクラウドサービスへの注力に伴い、組織再編やブロックチェーン戦略の見直しがあった。R3はコンセンシス(ConsenSys)から独立したカレイド(Kaleido)、そしてIBMと次々と大規模なパートナーシップを発表している。
もう1つの主要プレーヤー、コンセンシス(ConsenSys)は、イーサリアムブロックチェーンを引き続きサポートし、米銀最大手のJPモルガン・チェースが開発してきたブロックチェーンプラットフォーム「Quorum」を買収したことで、エンタープライズ・ブロックチェーンにおけるポジションを強固なものにした。
今では、イーサリアムブロックチェーンにまつわる、あらゆる取り組みに関与するという好ポジションにあるようだ。
左下:プライベート×プロトコルにこだわらない
図の左下(プロトコルにこだわらない)領域では、セールスフォース(Salesfore)が同社の15万顧客に向けたプライベート・ブロックチェーン構想に引き続き注力しており、アクセンチュア(Accenture)は多くのプライベートチェーンと提携している。アクセンチュアは競合する複数のプラットフォームに取り組みを分散させることで、リスク回避を図っている。
デロイト(Deloitte)、pwc、KPMGなどの大手会計事務所は主にクライアント向けにプライベートチェーンで概念実証を行うことに重点を置いており、本格的なコンソーシアムはまだ持っていない。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、ユーザーフレンドリーなアプローチを取っており、クライアントがハイパーレジャー・ファブリックやイーサリアム上で、数回クリックするだけでネットワークを簡単に立ち上げることができるようにしている。
AWSは再保険ビジネスにおけるリーガル&ジェネラル(Legal & General)や、サプライチェーンにおけるネスレ(Nestle)の取り組みなど、複数の魅力的なユースケースを発表しているが、複数の参加者が存在するコンソーシアムはまだ構築していない。
右側:パブリック
他の企業は、パブリックブロックチェーンを選んでいる。
たとえば、EY(アーンスト・アンド・ヤング)はイーサリアムを推進している。プルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行を開始したイーサリアムは、スケーリングと取引コスト削減を実現するとEYは期待している。スケーリングと取引コスト削減は、将来、数十億規模の企業取引の基盤となるために乗り越えなければならない大きな2つのハードルだ。
グーグルは、いくつかのパブリックネットワークが同社の参加を発表するなか、おおむね裏方としての役割に徹している。
勝者は誰か? 一人勝ちか?
そして今、頭に浮かぶのは「誰が勝つのか」という疑問だ。誰かが一人勝ちするのだろうか? おそらく、そうはならない。
だがもちろん、勝者が生まれれば、敗者も生まれる。ブロックチェーン技術は今後10年で1兆7000億ドル(約186兆円)の経済価値を生み出すと期待されており、各社は自社のアプローチを推進していくだろう。
2021年、エンタープライズ・ブロックチェーンがどのように推移するかを予測することは不可能に近い。だが、インターネットの歴史を振り返ると、ヒントが見つかるかもしれない。
我々は、TCP/IPプロトコル上に構築されたオープンインターネットが、初期の多くのクローズドネットワークを退け、主流となったことを知っている。我々が作成した図の右側を見てみよう。パブリックな取り組みが勝利するということだろうか? 長期的にはその可能性が高いと我々は考えている。
また我々は、多くの異なるシステム間の相互運用性ではなく、1つのシステムが市場を支配するようになったことも知っている。
1つのプロトコルが勝利するとしたら、コンセンシスとEYのイーサリアムへの取り組みが報われるのだろうか? イーサリアムブロックチェーンを彼らがインターネット3.0におけるTCP/IPと位置づけていることを受け入れるなら、おそらくそうなるだろう。そして確かに彼らは、好ポジションを占めているようだ。
こうした決断を行う多くの企業と仕事をした我々の経験に基づくと、エンタープライズ・ネットワークは時間とともに、オープンブロックチェーン・ネットワークに移行していくという兆候が見られる。
そのためには、価値の提示、適切なインセンティブ設計、早い段階での適合可能なガバナンスの整備が3つの大切な要素となることは間違いないだろう。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Nikita Vasilevskiy/Unsplash
原文:Enterprise Blockchain Is at a Private-Public Crossroads