中央銀行デジタル通貨、ゲームチェンジャーである本当の理由【オピニオン】

世界中の多くの国が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の試験運用を行っている。これらの取り組みは時に、通貨供給をデジタル化するというストーリーで語られるが、それは誤解だろう。

すでに通貨の90%以上はデジタル、ほとんどの先進国では10%だけが物理的な現金だ。

通貨のほとんどがすでにデジタルなだけではなく、ほとんどの決済もデジタルであり、銀行送金やクレジットカード、デビットカードなどで処理されている。

中央銀行デジタル通貨の価値は?

実際、各国の中央銀行はデジタル決済プロセスをさらに加速し、効率化するために巨額の投資を行っているが、これはトークン化やブロックチェーンに対するアプローチとは完全に別の取り組みだ。

アメリカでは、連邦制度準備理事会(FRB)がまもなく、新たなソリューションを発表する。国内におけるほぼリアルタイムのデジタル決済をサポートする「FedNow」だ。これによってアメリカは、イギリス、オーストラリア、メキシコ、ナイジェリアなど、同様のインフラを開発・展開した他の多くの国々に加わる。

ほとんどの通貨と決済がすでにデジタル化され、多くの政府が高速のリアルタイム決済システムに投資しているなら、ブロックチェーンを使った中銀デジタル通貨の価値はなんだろう?

答えはプログラム可能なことだ。現行の決済システムは、決済を必要とするビジネスでの合意とは独立して運営されている。つまり、決済だけに特化して考えた時よりも、事態ははるかに複雑で、信頼性を維持することは難しい。

プログラム可能性

お店でソフトドリンクを買った時は、商品とお金を交換することに合意したことになる。支払いはデジタルかもしれないが、合意はデジタルではない。小売の場では、文書化された合意は存在しない。だがビジネスにおいては、合意はほぼ文書化され、商品やサービスと引き換えにお金を支払うことは明確にされている。

プログラム可能なデジタルトークンを使えば、金融資産の移動を特定の業務の実行、または特定の資産の作成に直接結び付けることができる。これにより、関係者間の決済は自動的に行われるようになる。合意、デジタルトークンを使った資産の作成、そしてデジタルトークンによる決済について、完全に統合されたデジタル的な証拠が残るからだ。

ビジネスにおける契約の実行を大幅に単純化するのみならず、経済におけるリスクをはるかに理解できるようにもなる。暗号資産デリバティブなど、金融資産と複雑な仕組みを結びつけたスマートコントラクトによって、規制当局はどれほどのお金が動いているかを確認できるようになり、大幅な価格変動の際には何が起こるかをシミュレーションすることさえ可能になる。

DeFiは先行事例

ほとんどの決済は消費者によって行われ、契約(住宅ローンや車のローンなど)の一環として実行されるわけではないため、トークン化され、プログラム可能な法定通貨は、消費者に大きな価値をもたらすものではないのかもしれない。

1つの明らかな例外は、決済システム間の競争がほとんどない国の場合だ。すべての銀行と小売業者にアクセス可能な中央銀行デジタル通貨システムは、大幅なコスト削減を実現する可能性がある。一方で、中央銀行が民間セクターと競争することについては、慎重に検討する必要がある。

企業間取引では、中央銀行デジタル通貨がもたらす価値は、はるかに大きいように思える。だが、成功させるためには、中央銀行は高いレベルのプログラム可能性を認める必要がある。少なくとも当初は、快く思わないかもしれない。

DeFi(分散型金融)の初期を振り返ると、どのようなプログラム可能なシステムでも、その初期はしばしばセキュリティテストの時期だった。はっきり言うと、セキュリティーの欠陥が数多く見つかり、容赦無く悪用された。

プログラム可能性は中央銀行にとって、最大の価値にもなり、最大のリスクにもなるため、その導入はきわめて段階的なものになるだろう。

実現に向けた2つの選択肢

1つの選択肢は、まず中銀デジタル通貨を展開し、その後にプログラム可能性を追加するというものだ。

2つ目の選択肢は、パブリックブロックチェーンでの実験を認め、銀行などが銀行預金で裏付けられたトークンを発行することができる規制上の枠組みを作るというものだ。

どちらの選択肢の実験も現在進行中で、結果を完全に評価するためには数年必要だろう。

DeFi(分散型金融)の預かり資産(TVL)は1000億ドル(約11兆円)を超えたと言われるなか、こうした取り組みの1つから、少なくとも早めの結論を導くことができる。つまり、テクノロジーに詳しい消費者は、ハッキングを恐れることなく、テクノロジーを提供するコストの一部を進んで負担する。

DeFiプロジェクトがプライバシーシステムを導入できれば、企業ユーザーがプログラム可能性にどれだけ興味を持っているのか、参加させるためにはどのような安全対策が必要なのかが見えてくるだろう。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。

※見解は筆者個人のものであり、EYおよびその関連企業の見解を必ずしも反映するものではありません。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why CBDCs Are Really Game-Changing