【イベントレポート】野村、SBI、東海東京のキーパーソンが語る「デジタル証券」の核心【btokyo ONLINE 2021】

約3,000人が参加した国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「btokyo ONLINE 2021」(主催:N.Avenue、メディアパートナー:coindesk JAPAN)が2021年3月1・2日の2日間で開催。

1日目の「『デジタル証券』の核心──新たな金融資本市場はビジネスを変えるか?」に、東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社 常務執行役員の伴雄司氏、SBI証券 執行役員STOビジネス推進部長の朏仁雄氏、野村ホールディングス株式会社 執行役員の八木忠三郎氏が登壇。モデレーターはN.Avenue株式会社 代表取締役社長の神本侑季氏が務めた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第一弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

海外で広がるSTO市場、国内での日本STO協会の取り組み

最初に、一般社団法人日本STO協会の理事を務める八木氏(野村ホールディングス株式会社 執行役員)が新たな資金調達方法であるセキュリティトークン・オファリング(STO)の概要と同協会について説明した。セキュリティトークン(ST)は「デジタル証券」とも呼ばれており、株式や社債などの金融商品に付く権利をブロックチェーンや分散台帳技術(DLT)によってつくられた帳簿にトークンとして記録するものを指す。その発行を利用して資金調達するのがセキュリティトークン・オファリングだ。

海外のSTO市場は2017年に始まり、2019年までの3年間で124件の案件があったと推定されている。累計調達額は9.5億ドル、流通市場も登場しており2020年の取引総額は約7000万ドルにのぼった。一方で、国内については一般向けにセキュリティトークンが販売されておらず、2021年内に公募での発行を各社が目指しているという。そうした国内の状況において、日本STO協会は2020年4月に金融庁から「認定金融商品取引業協会」に認定され、自主規制規則やガイドラインの制定などに取り組んでいると八木氏は述べた。

投資家と消費者を一体化する新手法

次に、同じく八木氏が野村ホールディングスの立場から、実際に同社が行っている「有価証券取引基盤」と「カストディサービス」の開発の取り組みを紹介した。有価証券取引基盤については、野村総合研究所(NRI)との合弁でSBI証券も出資する株式会社BOOSTRY(ブーストリー)が開発を進めており、同社は2020年3月に国内初の事例として、ブロックチェーンを活用した社債「デジタルアセット債」および「デジタル債」の発行を行った。

カストディサービス「Komainu(コマイヌ)」について、八木氏は「暗号資産はハッキングのリスクに懸念があるため機関投資家のお金が入らないという問題があり、カギを安全に保管するカストディサービスを海外でスタートすることになった」と同サービスを始めた理由を話した。

またSTO領域では自社のサービスで囲い込むのではなく、幅広くビジネス・パートナーとの連携を模索していく「オープン・アーキテクチャ化」を提唱。最後に「なぜブロックチェーンを使うのか?」というよく聞かれる質問への回答として、ショッピングモールの不動産をトークン化したエコシステムのユースケースを紹介し、投資家と消費者を一体化する試みとして、株主優待のデジタル化のイメージに近い「投資へのリターンとして一部を割引クーポンのような形で返す」という新たな手法を例として示した。

小口化して売り出すことで個人投資家のニーズをつかむ

続けてプレゼンテーションしたのは、東海東京フィナンシャル・ホールディングスの伴氏だ。 同社は政府が後押しするシンガポールのデジタル証券取引所「iSTOX(アイ・ストックス)」に出資しており、その事例や構想を中心に伴氏は話を進めた。「iSTOX」は2020年2月に、発行・保管・取引というデジタル証券取引所の運営に必要なすべてのライセンスを取得し、プライマリー・セカンダリー市場が一体となった世界でもめずらしいワンストップ機能を持つ取引所だと解説。すでに8件が上場しており、その直近の案件として、欧州私募REIT(リート)の不動産の事例を紹介した。

もともとは機関投資家向けのファンド形式で資金調達するのが通常だったものを、一部のセキュリティトークンとして売り出したところ、約6.4億円の募集金額に対して開始直後に需要が募集額を大幅に上回ったという。伴氏は「セキュリティトークンで小口化して売り出すことで、個人投資家のニーズをつかめるのではないか」と述べ、新たなビジネス機会を指摘した。

同社の今後の展開として、第一段階は国内のアセットをiSTOXに上場させる、第二段階は国内のアセットをこれから設置されるだろう国内取引所に上場させる、第三段階は世界各国でアセットを同時上場する、という中長期のビジョンを示し、伴氏は「24時間365日、思い立ったときに売買できる仕組みにしたい」と話を結んだ。

株式、美術品、ゲームや映画の版権など知的財産権へ活用する

最後にプレゼンテーションしたのは、SBI証券の朏氏だ。同社では2020年5月の改正金商法の施行からセキュリティトークンに関するビジネスを展開しており、具体的なケースを紹介した。その1つは、SBI e-Sportsがブロックチェーン上で発行・購入・名簿管理などを行う第三者割当増資だ。コンピュータゲーム(ビデオゲーム)をスポーツ競技にしたeスポーツを題材としたのは、デジタルネイティブ世代との相性を見すえてのことだと朏氏は解説した。

紹介されたもう1つの例は、SBI証券によるデジタル社債の自己募集だ。これはまだ実現に至っておらず、公募には手続きや税金の問題などをクリアにする必要があるため進行中のものだという。実現すれば「一般的な社債をデジタル化して、証券会社として引き受けて一般の投資家に販売していきたい」と朏氏は述べた。

そしてセキュリティトークンを扱う流通市場として新たなPTS(私設取引システム)を大阪に設置する構想について紹介。将来的には不動産や社債だけではなく、株式、美術品、ゲームや映画の版権など知的財産権への活用を視野に入れていることを朏氏は明らかにし、「価値の移転コストがゼロに近づくことを究極の理想像として、ビジネスを展開したい」と決意を述べた。

「不動産はセキュリティトークンでどう変わるのか?」

後半のディスカッションパートでは、モデレーターのN.Avenue神本氏を中心に意見交換がなされた。神本氏の「不動産はセキュリティトークンでどう変わるのか?」という質問に対して、伴氏は「プロ向けマーケットが一般投資家向けマーケットに開かれていく。それが国内だけではなくグローバルに展開できる。それがブロックチェーンならではの世界だ」と回答。一方、八木氏は「不動産にクーポンのような非金銭的リターンが付くことによって、クラウドファンディングのような応援メッセージを兼ねたものにできるのではないか」と見解を述べた。

(写真左から)神本侑季氏、八木忠三郎氏、伴雄司氏、朏仁雄氏

朏氏はREIT(リート)との違いとして「利回りだけではなく、不動産に対する親近感のようなものを醸成できるのではないか」の述べて「小口化してたくさんのセキュリティトークンが生まれるようになると、投資家も自由に乗り換えるようになる」と見解を語った。

その他にも、神本氏から「クラウドファンディングとの違いは?」「セキュリティトークンで社債が注目される背景は?」といった質問が投げかけられ、それぞれについて活発に意見が交わされた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第一弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

|文・編集:久保田 大海
|画像:N.Avenue