ビットコイン、取引所からの大移動は強気サインとは言えない【オピニオン】

普通に考えれば、大量のビットコイン(BTC)が取引所から移動したら、「ホドラー(保有を続ける人)」がコールドストレージに貯め込んでいると思うだろう。現実はそれより複雑で、2021年におけるビットコインの取引所からの移動には、もう1つの重要なデジタル資産、ステーブルコインが大いに関わっている。

まずは、これまでの基本的な流れを見てみよう。暗号資産(仮想通貨)業界は、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の提案をいまだに快く思っていない。この提案は、取引所からコインが出ていく取引の両サイドに関するデータを、取引所が収集することを義務付けるというもの。

暗号資産擁護派は、この提案に対するコメントにおいて、市民の自由を擁護する団体を味方に付けている。そこで私は、いったいどれくらいの金額に相当するコインが関わっているのかを知るべきと考えた。

Value of bitcoin flowing out of exchange wallets

6.6兆円相当のビットコインが移動する

上のグラフは、取引所のウォレットから移動するビットコインの推計名目価値を月ごとにまとめたものだ。実際の数字はおそらくもっと大きいだろう。特筆すべきは、コインベース(Coinbase)はビットコインアドレスを隠すことに大半の取引所よりも大きな労力を費やしている点だ。アメリカからアクセスできる取引所のうち、取引高で最大の取引所であるコインベースの数字はほぼ間違いなく、実際より少なく見積もられている。

しかし、ひと月に600億ドル(約6兆6414億円)という数字は、軽視できるものではない。規制当局がこのような資金の流れを注視しているのも無理はない。

移動するビットコインの増加は、第1四半期におけるビットコインの値上がりが原因だ。ビットコインにとっては記録的な第1四半期であった。過去には、理由は何であれ、第1四半期はビットコインが弱含む時期である。CoinDesk Researchによると、ここ7年間のうち5回は値下がりしていたが、2021年には第1四半期で103%も値を上げた。

また、先週には新たな記録が生まれた。24時間に1365BTCが取引所から移動し、1日のビットコイン建ての移動量では過去最多となった。

ビットコインの取引所からの移動を強気相場と解釈する人たちもいる。つまり、ビットコイナーが取引所にあるビットコインをコールドストレージに移動させているということだ。

暗号資産アナリストのウィリー・ウー(Willy Woo)氏はこのようなホドラーたちのことをイギリスのポップシンガーにちなんで、「リック・アストリー」と呼んでいる。

チャートのトップを飾ったアストリーの1987年のシングル、『Never Gonna Give You Up(あなたを決して諦めない)』が、ビットコインについてのホドラーたちの気持ちを的確に表現しているからだ。しかし、実際のところ、彼らは『Part-Time Lover(一時的な恋人)』を歌ったスティービー・ワンダーの可能性もあるのだ。

ステーブルコイン利用の急拡大

どういうことか説明しよう。ここ3年間の市場の根底にあったダイナミクスの1つは、ステーブルコインの利用の急拡大だった。特にテザー(USDT)は、アルトコイン取引における支配的な建値通貨としてビットコインに取って代わった。

つまり、取引所で暗号資産を買うために暗号資産を使いたい場合には、テザー、あるいは限定的には、ドルにペグされたステーブルコインのUSDコイン(USDC)を使う可能性がずっと高いということだ。

Quote currency volumes: stablecoins vs. bitcoin

上のグラフは建値通貨による取引高を示している。トレードブロック(TradeBlock)の「ビットコインXBXインデックス」に含まれる3つの取引所とバイナンス(Binance)における、ビットコインと2大ステーブルコイン建ての4大アルトコイン市場の取引高だ。

4大アルトコインとは、イーサ(ETH)、カルダノ(ADA)、チェーンリンク(LINK)、ステラルーメン。つまりこれは、市場のサンプルであるが、非常に重要なものだ。

トレードブロック:CoinDeskが所有・運営する米企業。同社が提供するXBXインデックスは、アメリカの投資家が利用できる最も流動性の高い各取引所から集められた価格データを基に作られている。

グラフが示す通り、2020年のはじめまでには転換が起こっており、ステーブルコインが暗号資産の主要建値通貨としてビットコインに取って代わった。

それ以来、テザーとUSDCは建値通貨としてのシェアを伸ばし続けた。ビットコインの建値量は現在、2大ステーブルコインに対して12%まで減少している。ビットコインの移動の増加は、そのようなトレンドを何よりも反映しているのだ。ビットコイン建ての市場からテザー建ての市場へと取引高が移動するのに伴い、取引所ウォレットの残高もその動きを反映する。

つまり、ビットコインの移動をホドラーの動きの強気のサインとする見方は、アメリカのバンド「ドゥービー・ブラザーズ」のような人たちが作り上げたストーリー、つまり『What a Fool Belives(愚か者が信じること)』であると、私は考えている。

『What’s Love Got to Do With It(愛に何の関係があるの)』と歌ったティナ・ターナー寄りの解釈をしている。投資家に対する私のアドバイスは、ダリル・ホール&ジョン・オーツのように、『Private Eyes(自分なりの目)』で市場をしっかりと観察するようにというものだ。

5万ドル〜6万ドル(約553万円〜約664万円)でひと月以上取引されてきたビットコインは日々、ブレイクアウトする可能性が増しているように思われる。ブロックチェーンデータのお茶の葉占いに基づいたような話には、十分に用心して欲しい。

|翻訳:山口晶子
|編集:佐藤茂
|トップイメージ画像:Shutterstock
|原文:Crypto Long & Short: Bitcoin Outflows Aren’t the Bullish Signal You Think They Are