現金と暗号資産を橋渡しするハイブリッド紙幣という考え

中央銀行デジタル通貨(CBDC)が現実となり、暗号資産での支払いがより一般的になるに伴って、新しいデジタルマネーがいつでも、どこでも、誰にでも確実に利用できるようにするにはどうしたらいいのか?

これまでのところ、いつでも、どこでも、誰でも使えるのは、現金しか存在しかない。

物理的に存在するという紙幣の性質そのものが、デジタル時代には問題を引き起こしている。海外送金は遅く、紙幣の保管にはコストがかさんだり、厄介なこともある。さらに現金は、(ゼロ金利制約を破ることなどで)中央銀行の通貨政策を妨げることもあるのだ。

紙幣とデジタル通貨の良いところを組み合わせたものが理想的な支払い手段になるというのが、合理的な結論に思われる。そのような「ハイブリッド紙幣」は、現金という広く受け入れられた堅固な支払いテクノロジーを利用して、デジタルマネーの最先端のメリットを届ける。

例えば、チップを埋め込んだようなハイブリット紙幣は、現在紙幣が果たす機能を日常的に果たしながら、価値を移動させるために電子的ネットワークへアクセスすることもできる。

差し迫ったニーズに応える

 ハイブリッド紙幣は、現金からCBDCなどのデジタルマネーへの過渡期における手段として機能する。現在の紙幣を徐々にリプレースしながら、必要なくなるまで、現在のスマートフォンテクノロジーと共存していく。

紙幣の方が好き、あるいは銀行口座を持たないという理由で現金を使いたい、または使う必要があるという人の場合、ハイブリッド紙幣なら紙幣を使い続けることができる。ハイブリッド紙幣の電子的機能を使うためのオプションもある。さらにハイブリッド紙幣は、現金がCBDCと並行して存在していくという中央銀行の約束も果たすことができる。

現行の紙幣を使い続けることは、現金業界からの仲介業者排除を阻む。ハイブリッド紙幣なら、スマートコントラクトを伴う通貨を必要とする、中央銀行の新たな政策の実施を円滑に進めることができる。

ハイブリッド紙幣はさらに、オフラインで匿名の取引も可能にする。しかし、電子ネットワークに接続された場合には、その匿名性はハイブリッド紙幣のデジタル面でのデザインによって決定される。

ハイブリッド紙幣の種類

現在、私自身や設計者のアンドレイ・リプキン(Andrei Lipkin)氏を含めた開発者が取り組んでいるハイブリッド紙幣には3つの種類がある。スマート紙幣、クリプトノート、暗号紙幣だ。

「スマート紙幣」

スマート紙幣とは、1つ以上のRFIDチップを通じて電子ネットワークとやり取りできる従来型紙幣だ。スマートフォン、店頭デバイス、その他のリーダーデバイスを使って、その価値は電子ネットワークを行ったり来たりすることができる。スマート紙幣の状態、つまり額面価値を含んでいるか否かは、紙幣の上に電子インクでアイコン表示される。

10米ドル相当のスマート紙幣を例にとろう。取引や自販機で使われて、人から人へと流通していく。電子ネットワークへのアクセスは不要だ。価値を示すアイコンが紙幣上に目に見える形で表示されるので、この紙幣にはその価値があるということは誰から見ても明らかだ。

スマート紙幣のユーザーが10ドルを銀行口座に移す必要があるとする。ユーザーは自分のスマートフォンに紙幣をかざし、ネットワーク上で価値を移動させる。価値を示すアイコンは消え、そのスマート紙幣にはもう価値がないことが分かる。

ユーザーは銀行にそのスマート紙幣を持っていって、紙幣の価値を回復させ、また流通させることもできる。あるいは、自分で10ドルを移動させて価値を回復することもできる。そうするとアイコンがまた表示され、スマート紙幣には額面価値があることを示す。そうしてまた人から人へと渡っていくことができるのだ。

「クリプトノート」

クリプトノートは、暗号資産アカウントにアクセスするための公開鍵と秘密鍵を備えたハイブリッド紙幣だ。クリプトノートは、ユーザーがその価値を電子的に移動させるまでは、人から人へと渡ることができる。

例えば10ポンドノートは現行の10ポンド札が持つすべての性質を持つが、そこに取り外し可能な銀箔のパッチが追加される。パッチの下にはQRコードの形で秘密鍵が仕込まれている。

公開鍵は目に見えるQRコードに含まれている。銀箔のパッチが損なわれていなければ、誰もがこのノートには価値があるということが分かる。その価値を電子的に移動させるために必要な秘密鍵に誰もアクセスしていない証拠となるからだ。

アンドレイ・レプキン氏提供

クリプトノートユーザーが電子取引を完了させるためには、パッチをこすって、秘密鍵が見えるようにする必要がある。次にスマートフォンを使って公開鍵と秘密鍵のQRコードをスキャンして、対応するウォレットにアクセスする。そうすれば10ポンドの価値を移動させることができるのだ。

パッチと価値を失ったクリプトノートはもう使うことができない。物理的に損傷を受けているため、再発行は不可能だ。パッチが無くなっていることで、価値がなくなったことは誰の目にも明らかとなる。

暗号紙幣

暗号紙幣には、発行者の暗号資産にアクセスするための公開鍵だけがついてくる。個々のアカウントへの秘密鍵は紙幣の発行者が保管している。ユーザーが電子アカウントにその価値を移動させるまで、暗号紙幣は人から人へと渡ることができる。価値を移動させるためには、発行者またはその担当者へと紙幣を持っていく必要がある。この工程には実際の紙幣は必要なく、暗号紙幣の価値の裏付けとなっている資産を保有する暗号資産アカウントのみが必要となる。結果として、暗号紙幣は繰り返し再発行が可能で、摩耗するまで流通できる。

暗号紙幣は既存の紙幣に非常に似た見た目をしている。しかし、公開鍵を含むQRコードが付く。チップや取り外し可能なパッチは必要ない。

現行の紙幣と同じように、暗号紙幣は繰り返し人から人へと渡り、取引や自販機で使うことができる。電子ネットワークへのアクセスも不要だ。現行の紙幣と同じく、紙幣が実際に価値を持っているかを見極める必要はない。無関係だからだ。今のドル、ユーロ、ポンド紙幣と同じように、暗号紙幣はそれを支える通貨を象徴するものに過ぎない。そのため、現行紙幣と同じように、ユーザーは紙幣が本物かどうかを心配するだけで良い。

結論

ハイブリッド紙幣によって紙幣とデジタルマネーの間の溝を埋めることは、中央銀行や暗号資産支持者に多くのメリットをもたらす。そのような紙幣は現金という広く受け入れられた堅固な支払いテクノロジーを利用して、デジタルマネーがもたらす最先端のメリットを届け、価値を移動させるために電子ネットワークへアクセスするのに使われるまで、人から人へと渡っていく。

フランクリン・ノール(Franklin Noll)博士は、紙幣や暗号資産を含めた通貨の歴史に関して権威ある存在と認められている。これらのトピックについて幅広く執筆、講演活動を行っており、ノール・ヒストリカル・コンサルティング(Noll Historical Consulting)の社長も務める。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Hybrid Banknotes Can Bridge Cash and Crypto