ウェブ3.0の味方になるか?米FTC委員長にリナ・カーン氏

バイデン政権は15日、連邦取引委員会(FTC)の委員長にリナ・カーン氏を指名した。カーン氏はコロンビア大学ロースクールの教授で32歳。FTCのトップとしては歴代最年少となる。カーン氏は、アマゾンなどのビッグテックによる独占に批判的であることで知られている。

ブロックチェーン支持者たちは、規制や規制当局に対して反射的に抵抗する傾向があるが、カーン氏が大企業による独占を懸念することを考えると、プライバシーといった大きな問題において、同氏はブロックチェーン支持者たちの味方となる可能性もある。

さらにカーン氏の反独占的姿勢は、分散型システムや「ウェブ3.0」を開発するものを含めた、新たなタイプのテック企業に対して、市場での大きなチャンスを生み出す可能性もある。

アメリカの反トラスト法を執行することは、FTCの業務の主軸だ。一方のカーン氏は、「独占」とは何かを再定義するのに一役買ったことで最もよく知られている。

オープン・マーケッツ・インスティチュート(Open Markets Institute)に在籍した7年間を含め、企業慣行が値下げを推進したり、商品が消費者にとって無料であった場合でも、企業は独占となり得るという考えを発展、広めることに、カーン氏は不可欠な役割を果たした。

その理論は主に、企業がデータをどのように集め、利用するかという点に着目するものだ。カーン氏は、自らの顧客である外部販売業者と競争するために売り上げデータを活用するなど、自ら集めたデータを利用するアマゾンの手法を最も声高に批判してきた人物の1人である。

ビッグテックに対する超党派的結束

カーン氏はまた、バイデン政権の他のメンバーの一部に比べて、自らの立法・規制上の思惑を推し進められる可能性が高いかもしれない。

1960年代以降のアメリカ政治において最も対立の激しい時にあって、ビッグテックは、進歩的な左派からトランプ支持の国家主義的右派まであらゆる人たちを、共有された嫌悪と恐怖を通じて一つにまとめるという、巧みな芸当を成し遂げてみせた。カーン氏の指名承認そのものも、上院では69対28で賛成と、超党派的なものであった。

そのような超党派的結束は、テック業界を大きく変えることになる、議会両院に激しく迫り来る法案によって試されるだろう。上院で超党派の支持を受けた一連の法案には、ウェブ3.0プロジェクトへのデータポータビリティーについての特別な条項が含まれる。

壁に囲まれた独自バージョンのインターネットへと顧客を閉じ込めるような、フェイスブックの力を損なう可能性があるものだ。そのような法律は、ソーシャルデータのための分散型プラットフォームに対する新たな需要も生み出す可能性がある。

これらの法案は、グーグルやフェイスブックなどがネットワーク効果を利用して、新たなタイプのデータ独占を築くことを可能にしてきた監視エコノミーの解消に向けたステップである。監視エコノミーの解消は、どんなに控えめな程度だとしても、人々が自らの個人データやプライバシーのコントロールを取り戻す助けとなるだろう。

同じくらい重要な点は、カーン氏の反トラスト的姿勢が、プライバシーを保護するようなデータ構造やビジネスモデルに関するより多くの実験を伴った、奇抜なアイディアを追求する小規模のスタートアップにより多くのスペースを作り出す可能性があることだ。

しかし、FTCのトップとなったからには、反トラストだけがカーン氏の優先事項という訳にはいかない。FTCは時に、詐欺的な投資スキームと戦うのにも重要な役割を果たす。特に最近私は、新たに相次ぐ著名人による暗号資産支持について多く報道しているが、これらの一部は陰で報酬を得た宣伝行為であるかもしれない。

そのような売り込み行為をやめさせることは、FTCの仕事であるが、最近の反応はゆっくりと後手に回ったものであり、許容的な雰囲気を生み出している。そのようなルールをより積極的に執行することで、合法なプロジェクトにより多くの資金が注がれ、テック独占企業に本当に代わるものを生む動きを前に進めることになる。

 デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)は米CoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:FTC本部(Shutterstock)
|原文:Biden’s New FTC Chair Could Be a Big Web 3.0 Ally