ビットコイン(BTC)の普及をめぐっては、複雑な1週間となった。米マイクロストラテジーのマイケル・セイラーCEOと、テスラを経営するイーロン・マスク氏は、ビットコインをコマースに使うことができるという考えに勢いを与えた。
マスク氏は、テスラによるビットコイン決済の再開の可能性を示唆した一方で、セイラー氏は、ビットコインネットワークはグローバルなドルのためのレールとなるシステムだとコメントした。
ライトニング・ネットワーク vs. イーサリアム
コマースにおけるビットコイン利用の最も優れた指標は、ライトニング・ネットワーク(LIghtning Network)だ。簡単に説明すると、ライトニングはビットコインを基盤とするコマースフレンドリーなサービスである。よりトラスト最小化されたビットコインネットワークを通じて、取引をまとめて定期的に検証することで、すばやく安価な取引を可能にする。
ライトニングは今年、急成長している。6月15日現在、ライトニングネットワーク上で利用可能なビットコインの数は、12月31日と比べて44%増加した。
それは、ビットコインのコマースでの利用の可能性にとってはすばらしいことだ。しかし、コマースよりも金融と関連するイーサリアムでのビットコイン利用と比較しなければ、不十分ということになってしまうだろう。
ラップド・ビットコイン(WBTC)は、ビットコイン価格にペグされたイーサリアム準拠(ERC-20)のトークンだ。カストディアンのビットゴー(BitGo)がペグを維持している。
イーサリアム上のWBTCの数は、ライトニングネットワーク上のビットコインと比べて、同じ期間に一段と速いペースで増加し、その数も何倍も多い。15日現在、WBTCの供給量は18万8961。一方のライトニング・ネットワーク上のビットコインの数は、1523であった。
理論的にはWBTCは、ERC-20トークンに対応する商業用アプリケーションでも使える可能性がある。しかし現実には、分散型金融のDeFiで使われている。
上記2つのグラフが物語っていることは、今のところ明らかだ。ビットコインは、交換の手段としてのドルよりも、投資としてのゴールド(金)にずっと似ているのだ。
セイラー氏は先週、その違いについて取り上げ、エルサドルバドルのような、ドル化され、ビットコインを受け入れる国の市民が、複数の暗号資産の入ったデジタルウォレットを持つ世界について語った。1つの通貨は、ドルにペグされたステーブルコイン。もう1つは、投資のためのビットコインだ。
ステーブルコインに選ばれているのはイーサリアム
そしてセイラー氏は、ドル連動型ステーブルコインは「ビットコインのレールの上を動くことになる」と続け、それが世界中でのさらなるドル化につながると語った。ステーブルコインを通じたドル化の可能性は確かに存在するが、どのレールの上を動くことになるかについて、市場からの決定はすでに下されている。ビットコインではなく、イーサリアムだ。
上のグラフは、供給量トップのステーブルコイン、テザー(USDT)の供給量を示すものだ。ほぼ横ばいの黄色いグラフは、テザーのオリジナルネットワークであるビットコイン上のアプリケーションサポートレイヤー、オムニ(Omni)上のテザー。右肩上がりに大きく増加する黒いグラフは、イーサリアム上のテザーだ。
テザーやその他のステーブルコインは確かに、よりボラティリティが高く、より投資向きの暗号資産よりも、コマースを支える潜在能力は高い。しかし現実には金融、特に暗号資産取引所での決済通貨として使われている。
要するに、暗号資産普及を牽引しているのは、コマースではなく金融なのだ。ビットコインはこのカテゴリーで優良な投資先として独自のステータスを享受しているが、市場はイーサリアム上のレールを好むことを明確に表明している。
そこで、先週暗号資産関連の話題にあがった別のソートリーダーシップが思い浮かぶ。ジョンズ・ホプキンス大学の経済学者、スティーブ・ハンケ(Steve Hanke)氏は、新たなビットコイン政策によってエルサドルバドルは、ビットコインをドルへと資金洗浄しようとする犯罪者たちの拠点となるだろうと語った。(ビットコインマキシマリストたちは、アムステルダムやフランクフルトがマネーロンダリングの便利な拠点として機能していると、すばやく指摘するだろう)
上のグラフが示す通り、ドルにペグされたステーブルコインに対する需要は尽きることがない。流動性の高いビットコインとテザーのペアを提供する暗号資産取引所は多いが、その一部は、あまり厳格なKYC(顧客確認)やAML(アンチマネーロンダリング)対策を行なっていないと、私は考えている。
暗号資産からドルへのペアはより少なく、セイラー氏が語ったような世界が実現するとしたら、暗号取引とコマースの間のランプにおける規制上の課題は、エルサルバドルという中米の一国家の国境をはるかに超えるものとなるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Crypto Long & Short: Commerce, Dollarization or Speculation?