ボストン連邦準備銀行総裁は、テザー(Tether)のステーブルコイン「USDT」を、金融システム安定性に対するリスクと呼んだ。
ボストン連邦準備銀行総裁のエリック・ローゼングレン(Eric Rosengren)氏は6月25日、同行が注目する「金融安定性に対する挑戦」の1つとしてテザーを挙げた。短期的クレジット市場に対する「新たな破壊者」と呼ぶものの例として、USDTを挙げたのだ。
3つの金融安定性に対する挑戦
▶︎短期的クレジット市場に対する断続的な混乱要因
▶︎マネーマーケット・ミューチュアル・ ファンド(MMMF)
▶︎その他のキャッシュマネジメントの代替となる可能性のあるもの
▶︎新たな破壊者(例:テザー)
同日のヤフー・ファイナンスとのインタビューで、ローゼングレン氏は詳細を語った。
「テザーやステーブルコインに触れたのは、それらのポートフォリオを見てみると、プライムマネー・マーケット・ファンドのポートフォリオのように、もしくはそれ以上にリスクが高く見えるからだ」とローゼングレン氏。
テザーには「パンデミック中に、スプレッドが非常に幅広くなった資産が多くある」と指摘した。「スプレッドの拡大は、クレジット市場における急落、つまり社債などのリスクの高い資産と、国債のような安全と考えられている資産の間のリターンの差が広がる時を表している」
「短期的なクレジット市場を時間とともに混乱させる可能性があるものについて、より幅広く考える必要があり、ステーブルコインは間違いなく1つの要素だ」とローゼングレン氏。
「現在ほぼ規制を受けていないステーブルコイン市場が成長し、私たちの経済においてより重要なセクターとなるに連れ、人々がそのようなプロダクトから非常に急速に手を引いた時に何が起こるかを、真剣に考える必要があると、懸念している」
テザーを名指し
ウォール街のベテランで、ビットコインを長年支持しているケイトリン・ロング(Caitlin Long)氏は、この発言を重要と捉えている。
「興味深いのは、(FRB理事のラエル・)ブレイナード氏と、(議長の)パウエル氏は『ステーブルコイン』を話題にし始めたという点だ。それに対してローゼングレン氏は、『テザー』を名指ししている。これは一段階引き上げたということだ」と、アバンティ・ファイナンシャル(Avanti Financial)の創業者兼CEOのロング氏は語った。
「FRBは『FRB的言い回し』に非常に長けている。とても慎重に言葉を選び、問題に関わる複数の立場の人たちが、FRBの発言に自分たちの言い分を見ることができるようにする」とロング氏は指摘。「しかしFRBは今日、一段階引き上げてきた。今日のように曖昧さがないことは滅多にない」
ロング氏は、テザーが膨れ上がっているという懸念を考慮しているビットコイナーは「(ローゼングレン氏に対して)お門違いな非難をする」べきではないと続けた。
「私はテザーを、画期的なテクノロジーとして擁護しつつ、その準備金開示によって、答えよりも多くの疑問が生まれたと指摘してきた」と、5月に発表されたUSDTの担保の内訳を引き合いに出して、ロング氏は語った。
その時公開された内訳によれば、準備金の半分近くはコマーシャル・ペーパーであったが、その発行者や格付けは発表されず、市場は資産の流動性や信用力を疑問に思うままであった。
テザーのジェネラルカウンセル、ストュー・ホグナー(Stu Hoegner)氏はその後、コマーシャル・ペーパーの「大多数」は、A-2以上の格付けを受けた発行者によるものであると述べたが、具体的な名前を明らかにしなかった。
ローゼングレン氏も、自らのプレゼンにテザーの資産内訳を含めた。
USDTは、全世界で1兆ドル規模の暗号資産市場において、重要な役割を果たしている。トレーダーは裁定取引のチャンスを活かすために、取引所間でドルをすばやく移動させるために、USDTやその他のステーブルコインを利用する。
ステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨と1対1で取引されるように作られており、理論的には、発行者に1対1で換金してもらえるはずだ。しかし、テザーの準備金をめぐる疑問は長年にわたって暗号資産市場に暗い影を落とし、今年和解が成立したニューヨーク州司法長官による捜査の焦点ともなっていた。
テザーの財政状況に関して長年くすぶる疑念や憶測にも関わらず、USDTは誕生以来ほとんどずっと1ドルで取引されており、6月26日の午前中(協定世界時)も同じであった。
USDTはまた、物議を醸す過去を持たないような競合の登場にも関わらず、ステーブルコインの中で時価総額では圧倒的にトップの地位を守り続けている。
パウエル議長は先月、中央銀行デジタル通貨(CBDC)のリスクやメリットを含めた、デジタル決済をめぐるFRBの見解を概説した審議文書を、今年の夏に発表すると述べた。この時に議長は、名指しではなくステーブルコインに少し言及していた。
ステーブルコイン内での区別の重要性
テザーの最高技術責任者、パオロ・アードイノ(Paolo Ardoino)氏は、ローゼングレン氏のコメントは、ステーブルコインや暗号資産界におけるその他のイノベーションの重要性の高まりの証であるが、テザーのような定着したステーブルコインと、分散型金融(DeFi)におけるアルゴリズムステーブルコインといった「非常にリスクの高い」実験的なものとを区別することが大切だと語った。
「そのような新しい金融イノベーションのマーケットシェアの拡大が、ボストン連邦準備銀行のような存在に認識されているというのは、素晴らしいことだ」とアードイノ氏。
「しかし、テザーのようなステーブルコインと、分散型金融で常に発生している様々な実験との違いを消費者に教育するのも、大切な時となっている。投資家は常に、これらのプロジェクトをリサーチすることが推奨される。APY(年換算利回り)が並外れて高いものは、極めてリスクが高い。アルゴリズムステーブルコインのような新興の通貨実験は、USDTと同じカテゴリーに分類されるべきではない。そうすることは、暗号資産金融システムの土台が理解されていないことを示すだけだ」
興味深いことにローゼングレン氏は、FRBがより知名度の低いステーブルコインにも注目していることを示唆した。
「先週、財政上の困難に直面したステーブルコインがあった」と、ローゼングレン氏はヤフー・ファイナンスとのインタビューで語った。6月中旬にほぼ価値がゼロになったアイアン・ファイナンス(Iron Finance)のトークン「TITAN」を指していたようである。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:US Fed Official Calls Tether a ‘Challenge’ to Financial Stability