中国が再びビットコイン(BTC)の取り締まりを強めている。なぜ、今なのだろうか?
カレンダーがヒントを与えてくれるかもしれない。中国共産党は7月1日、創立100周年を迎えた。中国当局が、この大切な節目の日に向けて暗号資産業界に強い警告を送るということは、可能性としてあった。
この仮説はすでに、中国の暗号資産界では、少なくとも密かに広まっていた。中国に詳しい人たちにとって、このような大きなイベントを前にした、厳粛な雰囲気には覚えがある。その厳粛さには、政府が社会の安定性に対する脅威と考える活動に対する取り締まりが伴うこともある。暗号資産はまさに、そのようなカテゴリーに当てはまりそうだ。
「より大きな文脈で考えると、中国はもうたくさんだと感じているのだ」と、ビットコイン取引所BTCCの元CEOで、現在はウォレットサービス、バレエ(Ballet)のCEOを務め、ビットコインに関する著作もあるボビー・リー(Bobby Lee)氏は語った。「中国では、詐欺、違法な資金調達、トレーディングで人々がお金を失う事態が多く発生してきた」
「市場の暴落で人がお金を失うと、社会的な不幸が生まれ、それは政治的混乱につながる可能性がある」と、リー氏は指摘。
リー氏によれば、今回の取り締まり強化のタイミングは偶然ではない。「7月1日で中国共産党は創立100周年。誇らしいものなのだ。その日までに、ゴタゴタをきれいに片付けたいと思っている」として、父親の誕生日パーティー前に寝室を片付けなければいけないことに似ていると、リー氏は話した。
創立100周年は周到に演出されたもので、混乱は明らかに望ましくない。最近の取り締まりには、マイニングの停止や、銀行に暗号資産関連のサービス提供を止めるよう指示することなどが含まれていた。これによって、少なくとも一時的にビットコイン価格は急落した。
前回中国が世界的に暗号資産市場を動揺させたのは、2017年。その時には、取引所を閉鎖させ、新規コイン公開(ICO)を禁止した。注目すべきは、中国が取引所の閉鎖を命じたのはその年の9月で、中華人民共和国の建国を祝う国慶節の少し前であった点だ。
「社会を守る存在」
これは、暗号資産に限った話ではない。ウォール・ストリート・ジャーナルは2018年、全人代の開会に向けて株式市場を安定化させるために当局が介入したと報道。ある投資家はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、深圳証券取引所が、彼の取引は政治的に繊細な時期にあまりに「破壊的」と判断したと、ブローカーから聞かされたと語った。
「取引所の言い分は、私の取引があまりに大口で、あまりに頻繁だというものだった。すべては全人代のせいだと聞かされた」と、その投資家は述べた。
暗号資産市場はボラティリティの高さと、詐欺への脆弱性で悪名高い。中国の個人投資家たちは、新しく不安定な業界によって打撃を受けてきた。2018年にピアツーピア貸付プラットフォームが破綻した時には、投資家たちは巨額の損失を被り、抗議活動が起こったり、自殺者も出た。
「暗号資産は中国において、比較的急速に成長し、さらに成長する余地がある」と、フィンテックリサーチ・コンサルティング企業カプロネジア(Kapronasia)の創業者、ゼノン・カプロン(Zennon Kapron)氏は語った。このP2P貸付危機から当局が学んだ教訓の1つは、「取り締まりが遅すぎた」というものだと、カプロン氏。「多くの個人投資家が、かなりの資金を失った」
政府が個人投資家の苦境をそこまで気にかける理由は他にもある。アメリカのような国では一般的に、個人投資家は自分の損失を政府のせいにはしない。リー氏によれば、中国ではそうはいかない。
「中国の人たちは損失を出すと、政府を非難する。政府は、社会を守る役割を担う。政府の役割は、すべてが秩序正しく、安全なものとなるようにすることだ。何かおかしなことが起これば、直すのは政府の仕事だ」
ここでも社会の安定性が鍵となる。一時的に成功したコインが破綻して、怒れる投資家たちが街に繰り出す事態などは、中国政府が最も望まないものだ。政府に対するものであれ、暗号資産プロジェクトや取引所に対するものであれ、集団での抗議行動はどんなものでも、中国政府が、とりわけ重要な政治イベントの前に避けたい混乱をもたらすのだ。
資本規制
しかし、共産党の創立100周年が暗号資産取り締まりのタイミングを理解する助けになったとしても、それだけが理由ではない。政治的に重要な日が、政府がすでに検討していた行動の触媒となった可能性もある。
レッド・デート・テック(Red Date Tech)のCEOで、中国の国家ブロックチェーンプロジェクト「ブロックチェーン・サービス・ネットワーク(BSN:Blockchain Service Network)」のエグゼクティブディレクターを務めるイファン・ヘ(Yifan He)氏は、資本統制が今回の取り締まりの重要な要素だと考えている。
中国では、1年に個人が国外に持ち出せるのは最大5万ドルに制限されており、暗号資産は、この制限を迂回するためのツールになり得る。
中国が大幅なインフレを引き起こさずに紙幣を増刷できる理由の1つは、3兆ドル以上の外貨準備があるからだと、ヘ氏。「多くの人が中国国外に資金を移動させると、その外貨準備に影響をもたらす」
タイミングに関わるもう1つの重要な要素は、2021年の強気相場だ。ビットコインは今年、繰り返し史上最高値を更新した。「より多くの中国人が暗号資産取引を始めれば、政府にとって脅威となる」とヘ氏。取り締まり強化の主な理由は「ここ6カ月での、中国国内の暗号資産ユーザーの急速な増加だ」と指摘した。
暗号資産に対する中国の姿勢は特に変化していないが、今回措置は厳しくなっていると、ヘ氏は語った。「マイニングはすべてなくなるだろう。例外なしに。暗号資産マイニング業界全体が、中国からなくなってしまうということだ」
では、7月1日以降には何が起こるのか?少なくとも次の大きな祝日までは、雰囲気はより緩んだものになるかもしれない。しかし、長期的には関係がないと言う人もいるだろう。中国による2017年の暗号資産取締は、短期的な値下がりを引き起こしたが、その後には強気相場が続いた。それ以降、市場は飛躍的に成長するばかりであった。
「中国がすべてのマイニングを停止させたとしても、ビットコインは続いていく」とリー氏。「そのことが、ビットコインの回復力を証明するだろう。より多くのストレステストを経るほどに、人々はビットコインシステムをより信頼するようになる」
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Tarek Islam / Shutterstock.com
|原文:China Crypto Crackdown: Calendar Offers Clue as to ‘Why Now?’