CyberZのNFT事業・前哨戦──渋谷ビットバレーがIPコンテンツでザワつく

「渋谷ビットバレー」を形づくる東京・渋谷に本社を置くIT・インターネット企業が、ブロックチェーンを基盤技術にしたデジタルデータ「NFT(ノンファンジブル・トークン)」を利用した事業開発を急ピッチに進めている。

GMOインターネットグループがNFTの発行・取引を可能にするマーケットプレイスの開設準備を進めれば、サイバーエージェントの100%グループ子会社で、広告代理業とオンライン対戦ゲームのeスポーツ事業、IP(知的財産)マネタイズ事業を手がけるCyberZ(サイバーゼット)は、NFTの活用した事業を本格的に始める。

NFT:ノンファンジブル・トークン(非代替性トークン)はブロックチェーン上で発行・流通するデジタルデータで、アーティストのレアな作品や、アニメなどのIPコンテンツから作られる限定のコレクションアイテムが、他との代替が不可能な価値を持っていることを証明するもの。

渋谷のオフィスに約350人の社員が働くCyberZは、「ゲーム」、「アニメ」、「タレント(音楽)」の3領域を中心にNFT事業を開発していく。年内にはそれぞれの領域で、NFTを使った新たな商品を作り、ラインアップを増やしていく方針だ。CyberZの取締役で、NFT事業を統括する青村陽介氏がcoindesk JAPANのインタビューで明らかにした。

ゲーム、アニメ、タレントの3領域

(写真:CyberZでNFT事業を統括する青村陽介・取締役)

「2020年からNFTを事業に絡める検討を始めた。CyberZでは、幹部が月に2度程度集まり、新領域を山内隆裕社長と共に議論してきた」と青村氏は話す。「すでにIP事業者との協議を進めており、NFTとして展開できる複数のIPコンテンツが見つかってきた段階だ。NFTは一時的な盛り上がりが見られたが、本質的な価値が求められるのはこれからだろう」

CyberZは3つのコア事業を展開している。設立から同社の事業基盤を作ってきたのがスマホ広告代理業で、時に、親会社のサイバーエージェントと競合関係になることもある。2つ目がメディア事業で、動画配信プラットフォームの「OPENREC.tv」と、国内最大級のeスポーツコンテンツの「RAGE」を運営している。RAGEはテレビ朝日とエイベックスとの共同事業で、視聴数では国内でトップクラスだ。

3つ目は、IPのマネタイズを支援する「eStream」。アニメやゲームのIPでグッズの制作などを行っている。最近では、海外のファンに人気のフィギュアの販売で収益を拡大している。中国・上海にも事務所を開設し、青村氏が代表を務めている。

「eスポーツとNFTの相性が良いかはまだわからない。ゲーム、アニメ、タレントを中心としたIPを軸にスタートすることになる予定だ」と青村氏。「IPのデジタルコピーに留まらないデジタルアイテムの販売から始めていこうと考えている。ゲームもIPとして捉え、ファンとのかかわりのところから(NFT事業を)進めていきたい」

国内パートナーとグローバル戦略

CyberZはNFT事業の体制整備で、マネックスグループのコインチェックとパートナーシップを結んだ。コインチェックは暗号資産(仮想通貨)交換業を軸に事業を行いながら、NFTの発行・取引を可能にするマーケットプレイスの運営を開始している。

コインチェックは国内では最初にNFTマーケットプレイスを開設し、NFTを活用した商品設計や市場整備を積極的に進めている。

「国内では先行的に取り組んでいるコインチェックとパートナーシップを結んだ。広くNFTを活用していこうという考えを持っており、ガス代(イーサリアムブロックチェーン上の取引手数料)処理の問題に対してもセンシティブに考えている。これから一緒に事例を作っていく上で、重要なパートナーだ」(青村氏)

アニメやゲームを中心とする日本のコンテンツは、海外市場での成長が期待できる。CyberZが今後NFT事業を進める上で、グローバル市場は主戦場になってくる。青村氏は、海外市場におけるパートナー企業の選定では、現在模索している最中だと述べた。

「(暗号資産の)取引所を運営している企業のほとんどが、(NFTの)マーケットプレイスを開設するだろうと思っている。今後、仮にNFTを買う際に個人情報の登録が必要になってくるのであれば、取引所が運営するマーケットプレイスの役割は強くなるのではないだろうか」と青村氏。

国内市場と中国・北米

CyberZは長期的な視野でNFT事業を進めていくとしているが、事業開始から当面の間はファンとIPの関わりを強める体験にフォーカスした商品を作っていくという。

eStreamではすでにデジタル・ブロマイドなどのデジタルコンテンツを販売しているが、NFTであればデジタルコンテンツの価値が明確となり、それを保有していることがブロックチェーンに記録されれば、ファンにとっては「胸アツ」な体験になると、青村氏は話す。

CyberZがフィギュアの販売事業を進めてきた中で、青村氏はユーザーが満足できる商品を開発できれば、世界中で売れるマーケットの広さと速さを実感してきたと語る。

青村氏は「NFTは、僕たちが戦うビジネスドメインとして非常に重要だと捉えている」とした上で、「十分に戦えるリソースとノウハウはある。例えば、映像配信では生命線とも言える画質を極めているし、ユーザーが嬉しくなる商品・体験を作ることがすべてだと思っている」と述べた。

また、グローバル市場でNFT事業を拡大させていく上で、中国と北米市場の優先度は高いだろうと、青村氏は話す。

「まずは足元(国内市場)で満足して頂ける商品を作れるかが重要だ。大きな円を描きながら、足元は着実に日本で一つ一つの商品を丁寧に作りあげていきたい」(青村氏)

刺激的なマーベル、ストファイのNFT

(画像:VeVeのホームページより)

青村氏自身が刺激を受けてきた海外のNFTプロダクトについて聞かれると、ゲームIPの「ストリートファイターV」と「マーベル(Marvel)」の作品をあげた。

カプコンの格闘ゲーム「ストリートファイターV」に登場するキャラクターがデザインされたNFTは、ブロックチェーンの「WAX」上で販売されている。カードパックを購入すると、10枚のカードが入っている。複数のカードを合成して別のレアなカードを生成することが可能だ。

「企画もギミック(仕かけ)もおもしろいと思う」(青村氏)

一方、米マーベル・エンターテインメントは今年6月に、公式NFTの販売を開始すると発表。マーベルはNFTマーケットプレイスの「VeVe」を利用して、NFT事業を展開し、ユーザーは3Dフィギュアやデジタルコミックなどを購入できるようになる。

ユーザー自身の仮想空間にバーチャルフィギュアを飾ることができ、そのフィギュアがNFTとして購入できる世界は、これからさらに魅力的なものになるだろうと、青村氏は話す。「これから多くの企業が企画化・商品化してくるだろうと思う。NFT自体には価値があるので、デジタルコピーだけで満足するような世界を変えていきたい」

サイバーエージェントは同社内でブロックチェーンを応用する取り組みについての研究開発を進めているが、CyberZは自社のエンジニアが中心となり、ブロックチェーンやその応用に関する研究を独自に行ってきた。

今後、CyberZは多くのNFT商品を市場に投入し、業界に先駆けた事例を作っていく計画だという。サイバーエージェントグループ全体の中で、CyberZがNFT事業の前哨戦をけん引していくことになる。

|インタビュー・コピー・編集:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑