DeFiはすべての人に開かれたものであるはずだ【オピニオン】 | CoinDesk JAPAN（コインデスク・ジャパン）

イランのシーラーズ在住の女性に話を聞いた。彼女はフリーランスのデザイナーで、現在ブロックチェーンや分散型金融（DeFi）の基礎について地元の人たちに教えている。

イランでは、制裁の圧力に対処する方法の1つとして、輸入品を買う際に暗号資産（仮想通貨）が重要な役割を果たしていると語られているが、私が取材した女性が裏づけてくれた通り、現実はずっと厳しいものだ。

ジオブロッキングに苦しむイランの人々

Spotify（スポティファイ）やNetflix（ネットフリックス）などのサービスにアクセスできないような場所に住み、ブロックチェーンに出会ったと想像してみて欲しい。そのようなサービスを利用し、世界中の誰とでも取引できる自由をもたらしてくれる存在なのだ。

そしてある日、暗号資産ウォレットのメタマスク（MetaMask）にログインしようとすると、ネットワークに接続したり、残高を確認できないことに気づく。地理的な位置に基づいて制限を課す「ジオブロッキング」にあったからだ。

「苦労して貯めた資金がすべて、消えてなくなってしまったのかと一瞬思った。イランに住んでいるために、基本的なウェブサービスにアクセスできず、いまやDeFiにすらアクセスできない。そんなの不公平だ」と、イラン人の女性は語った。

制裁を受けた組織や個人と関わることから、自らを法律的に守ろうと積極的に取り組むブロックチェーンや暗号資産関連の企業にとって、IPをジオブロッキングすることは一般的となっている。ジオブロッキングは、ユーザーのIPアドレスをモニタリングすることで、ユーザーの位置に基づいてオンラインコンテンツへのアクセスに制限を課す。

分散化という暗号資産の哲学は、すべての人が分散型金融に参加することができるべきという信念に基づいている。しかし、世界中の多くの人は今、そもそもその世界への入り口を見つけられないという状態に陥っているようだ。

何百人ものイラン人ユーザーが毎日、国際的なオンライン暗号資産取引所から締め出され、資金は期限も分からずに凍結されている。自分の資金を取り返せないこともしばしばだ。

イラン人はVPNなしではフェイスブックやツイッター、テレグラムなどのソーシャルメディアプラットフォームに参加できず、さらには共同作業に重要なGitHub（ギットハブ）やSlack（スラック）などのアプリケーションも使えないことを考えると、このような事態は本当に残念なものだ。

VPNサービスを使って地理的制約を回避することもできるが、必ずしも信頼できる訳ではない怪しげなサービスに許可を与えることが必要となり、それはブロックチェーンの目的に反している。

制裁を受けている国に住む人たちは、国内的にも国外的にもサービスへのアクセスを拒否されており、分散化という約束は一部の人たちだけのためで、他の人たちは完全に無視されるということだ。

伝統的金融との違いを生むために

確かに、暗号資産は完全に分散化していなくても、それに代わるオプションよりは開かれているか、同じくらいアクセスしやすく、多くのメリットをもたらすことに変わりはない。例えば、伝統的金融とは異なり、トレーディングや取引の広範な知識を持たずに、人々が特定の金融・市場アプリケーションを利用できるようにしてくれる。

しかし、伝統的金融が失敗している分野で分散型金融が成功できるようにするためには、コミュニティー内の開発者やその他の利害関係者が、規制に関わる問題に対処し、「分散化」をめぐるナラティブを再構成し始める必要がある。

このテクノロジーが現在の社会、政治的文脈の中で成し遂げられることと、できないことについてのより冷静な見通しを受け止めることによってしか、富裕な金融利害関係者のニーズ以外にも役立つ堅固なツールを構築することはできないだろう。

「よりアクセスしやすい金融システムを作る」といったうたい文句から始まるミッションステートメントを掲げた暗号資産企業の企業概要を次に目にした時には、立ち止まって、次の質問をゆっくりと考えてみるのが良いだろう。

「この金融システムは、誰にとってよりアクセスしやすいものとなるのだろう？分散化とは何を意味するか？どんなものになるべきかを誰が決定できるのだろう？」

分散型金融がすでに権力を持った人たちのために作られているのだとしたら、最も必要としている人たちのニーズに応えられないのだとしたら、伝統的金融と変わりはない。