イーサリアムブロックチェーンでは8月4日、「ハードフォーク」とも呼ばれる11回目となる後方互換性のないアップグレードが実施される。
「ロンドン」と呼ばれるこのハードフォークには、5つの「イーサリアム改善提案(Ethereum Improvement Proposal:EIP)が含まれる。それぞれのEIPには、時価総額トップ2の暗号資産であるイーサリアムを最適化、改善することを目的としたコード変更が盛り込まれている。
5つのEIPの中でも、EIP1559はネットワークの手数料市場を根本から変更するために、イーサリアムの利害関係者間で最も議論の的となっている。このコード変更が投資家にもたらすリスクとメリットを見ていこう。
EIP1559の効用
価値の保管手段としてのイーサ(ETH)に対する最もよくある反論の1つは、無制限のコイン供給量を根拠とするものだ。
世界初の暗号資産であるビットコイン(BTC)の供給スケジュールは事前に決定されており、上限が決まっている。これが、「デジタルゴールド」としての投資ナラティブの重要な部分を支えている。
EIP1559では、ビットコインのような供給上限が導入される訳ではないが、時間とともに総供給量を抑制するメカニズムが起動する。取引が実行される度に、変動する数のETHを流通から外すのだ。
6月8日までのEIP1559のシミュレーションによれば、EIP1559の実施によって、365日間で合計296万7937ETHが焼却(burn)され、その期間中のイーサの供給量増加量は76%減少すると推定される。
ビットコインのような限定された供給量というナラティブをETHにもたらすことに加え、EIP1559は取引の待機時間を縮小し、開発者やユーザーへのDapp(分散型アプリ)の普及に水を差す、手数料市場における不確実性を取り除くことが期待されている。
さらにEIP1559によって、イーサリアムの演算力を使い、ネットワーク上のDappの幅広いシステムとやり取りすることに対する対価としての、イーサの支払い手段としての役割が強化されることが見込まれる。イーサリアムネットワークのネイティブ暗号資産イーサのみで取引手数料の支払いを認めることによって、これが実現するのだ。
EIP1559に伴うリスク
あらゆるテクノロジーアップグレードにはリスクが伴う。EIP1559がもたらす最も顕著なリスクは、マイナーに対する報酬体系と支払いの変更に関するものだ。
EIP1559の実施によって、マイナーは報酬の削減に直面することとなる。取引手数料の100%を手にする代わりに、取引の優先的な処理を求めるユーザーが選択して支払う、任意の「インクルージョン料」を通じてのみ、マイナーはユーザーからチップを受け取ることになるためだ。
報酬の仕組みを変えること自体は、イーサリアムのブロック処理能力や演算力に影響を与えない。しかし、不満を持ったマイナーがネットワークを去ったり、妨害したり、競合となるチェーンを立ち上げる可能性はある。
イーサリアムマイナーの多数が撤退、あるいは抵抗した場合には、ブロック生成にかかるブロックタイムやネットワークの安全性にマイナスの影響が生じる。
ユーザーやDapp開発者たちにとっては、EIP1559のメリットは現実には、理論上ほど効果的なものではないかもしれない。
自由市場的な効率性という約束を果たせなければ、ユーザーや開発者たちは落胆する可能性もある。そうなれば、当記事執筆時点で時価総額でイーサリアムに次ぐ2大スマートコントラクトブロックチェーンとなっている、バイナンス・スマート・チェーンやカルダノ(Cardano)などの競合は間違いなく、マーケットシェアを奪い取るチャンスを見逃さないだろう。
投資家は個人的に維持されたノードや、公開のブロックエクスプローラを通じて、実際の有用性を追跡するために、EIP1559のフォーマットに従った取引のリアルタイムでの数をチェックすることができる。これによって投資家は、EIP1559実施後の長期的なユーザーに対するメリットや影響を測ることができるのだ。
EIP1559の実施は、予期せぬバグや悪質なユーザー行動のリスクももたらす。パブリックとプライベートのテストネットワーク上でのEIP1559のテストの過程において、すでにいくつかのバグが発見されている。
EIP1559は根本的に、イーサリアム上の取引手数料のボラティリティを減らし、より予測しやすいものにするために作られた。しかしそれ以外にも、いくつかのリスクやメリットをイーサリアムにもたらす可能性があり、8月はそれらの点に注目が必要だ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Crypto Long & Short: Why Ethereum’s ‘London’ Upgrade Matters