2021年上半期、データアグリゲーターのCoinMarketCapは、そのデータベースに2265の新しい暗号資産を追加し、リスティングされたコインの合計数は1万810となった。
比較のために見ると、ICO(新規コイン公開)ブームが最高潮であった2018年には、CoinMaketCapのウェブサイトには2000番目のコインがリスティングされた。
今年は「主にいくつかの追い風の結果として、新しい暗号資産のカンブリア爆発が見られた」と、CoinMarketCapのアーロン・クー(Aaron Khoo)氏は語った。カンブリア爆発とは、5億4100万年前のカンブリア紀に大量の新たな生命体が一気に出現したことを指す。
CoinMarketCapと同様、他の2つのデータアグリゲーターでも年初から、それぞれのデータベースに2000以上の新しいコインが追加されている。
シンガポールに拠点を置くコインゲッコー(CoinGecko)は、ウェブサイトに3064の新しい資産を追加。一方、ポーランドにあるより小規模な暗号資産データ・リサーチプラットフォームのコインパプリカ(Coinpaprika)は、2000の新しい資産を追加した。
コインパプリカのヴォイチェフ・マチエイェフスキ(Wojciech Maciejewski)氏は、同プラットフォームには現在、コインのリスティング申請が殺到していると語った。
「すべての申請をチェックするには人材が不足している」と、マチエイェフスキ氏は説明する。
CoinMartketCap、コインゲッコー、コインパプリカの担当者は皆、2021年における新しい暗号資産の急増の要因は、強気な値動きと、伝統的金融機関、インフルエンサー、有名人の流入の組み合わせに、ノンファンジブル・トークン(NFT)ブームと、ドージコイン(DOGE)、シバイヌコイン、セイフムーンなどのミームコインの台頭が相まったものだと考えている。
しかし、暗号資産業界で新しいコインの劇的な急増が見られたのは、これが初めてではない。2017年にICOブームがスタートした後にも、新しい暗号資産は同じように市場に殺到した。しかし、そのようなICOの4分の3以上は詐欺であることが判明し、約半数は資金調達に失敗した。
歴史を手掛かりとするならば、2021年に市場へと爆発的に登場してきた何千もの新しい暗号資産のうち、生き残るのはわずかということだ。
「そのような推測を裏付けるデータはないが、当初の熱狂後に生き残ったのは少数しかなかった2017年のICOブームの時と、多かれ少なかれ同じような状況だろうと見込んでいる」と、コインゲッコーのジー・ジン・テー(Sze Jin Teh)氏は述べた。
数字の裏に
コインゲッコーのデータによると、2014年から2021年にかけて、約1万6000の暗号資産が生み出された。
しかしこの数字には、すべてのコイン、つまりアクティブなものと、アクティブではないもの(中断したプロジェクトに関連するもの)の両方が含まれている。
例えば、マチエイェフスキ氏によれば、コインパプリカ上のアクティブな資産は、サイトに掲載されている6342の資産の約半分だ。
一方のアクティブではない暗号資産の一部は、ICOブームの結果生まれたものだ。
コインゲッコーが、月間で最多の新規コインリスティング数を記録したのは2017年。その年の12月だけで、新たに914の暗号資産がリスティングされた。
コインゲッコーのクリスティアン・コー(Kristian Kho)氏によれば、2017年12月はICOブームのピークで、暗号資産への個人投資家の関心が高まり、同時にビットコインも当時の史上最高値を記録した。
「最初のいくつかの先駆者(ファイルコイン、テゾス、EOSなど)の成功に便乗しようと、新しいトークンクラスが爆発的に生み出されたのは、この時が初めてであった。当時進行中のICOをすべてトラッキングするために、専用のICOページを作ったほどだ」とコー氏は語る。
しかしそのようなトークンの大半は短命に終わった。「資金を調達したプロジェクトの多くは、その資金を使い果たすとすぐに解散してしまった」とコー氏は説明する。
しかし、2017年に比べると今回は、イーサリアム、ポリゴン、バイナンス・スマート・チェーンなどの複数のチェーンにおいて、さらに多くのコインが生まれていると、ジン氏は指摘する。
「ますます多くの新しいアイディアが生まれているが、ユーザーに注意を喚起しなければならない詐欺も多くなっている」と、マチエイェフスキ氏。コインパプリカは2018年に比べて、最大で7倍のリスティング申請を受けていると語った。
それでもこのような驚くべき数字は、インターネット上に出回っているすべての暗号資産の数を反映している訳ではない。
「CoinMarketCapに掲載されるコインは、新しいコインリスティング申請の全体のほんのわずか(承認率は〜20%)である」と、コー氏は説明する。
コー氏によれば、2021年上半期において、新コインのリスティングを求める暗号資産プロジェクトや企業からCoinMarketCapが受け取った申請の数は、驚きの1万793件におよんだ。
審査プロセス
暗号資産とリスティング申請の増加に対応するために、各プラットフォームは承認のために独自の基準を設定している。
CoinMarketCapでは、ウェブサイト上でも公開されている広範な一連の指標を審査している。しかし、コー氏によると、あるコインを別の同様の申請と比べる競争的なベンチマーク評価の要素もある。
「コインゲッコーでのリスティング評価は、各コインを評価するのに使われる一連の社内基準を用いて相対的に行われる。プロジェクトチームによる操作を防ぐために、正確なリスティング基準は公表していない」と、コー氏は説明した。
しかし、3つのプラットフォームともに、コインのアクティブ取引高と流動性、さらにはソーシャルメディアでの存在感や、コインやプロジェクトを支えるチームに対するコミュニティーの姿勢などの要素を細かく検討している。
コインゲッコーのコー氏によると、上場が非許可型で手数料の低い分散型取引所(DEX)の台頭によって、コインを生み出して宣伝することは一段と容易になった。つまり、誰でもがあらゆるものをトークン化できるようになり、それがミームコインという奇妙な新しい世界を生み出す原動力となったと、コー氏は説明し、次のように続けた。
「この点を鑑み、コインゲッコーでは新しいトークンのリスティング承認にずっと厳格になった。詐欺コインの事例が、DEXの台頭と並んで増加しているからだ」
コインパプリカでは現在、バイナンスやコインベースなどの中央集権型ですでに上場されている資産に対するリスティング要請の95%を承認し、不完全な申請のみを却下している。
しかし、DEXに関しては、承認率は約60〜70%に下がる。分散型という性質のために、安定した、あるいは信頼できるAPIエンドポイント(コミュニケーションチャンネル)を持たないことが多いからだ。
ミームコインラッシュ
コー氏によると、コインゲッコーが受け取る申請の最も多くを占めるのはミームコインのものである。
「ドージコインやシバイヌコインなどのミームコインの人気と価格の高まりは、それらの成功に乗っかろうと願う多くの人に、独自のデリバティブミームコインを生み出す動機を与えた」と、コー氏は指摘する。
シンプルなトークンを簡単に作れることで、誰でもがミームコインを立ち上げ、コインゲッコーでのリスティングに応募することが可能となっていると、コー氏は続けた。
「前四半期には、ミームコイン(特に犬系のもの)が新規申請の4つに3つと、大半を占めていた」と、コー氏は語る。
さらにコー氏は、プレイヤーたちが部分的に所有、運営するゲーム「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」の飛躍的な成長と足並みを揃える形で、CoinMarketCapでは、NFTやゲームコインにも控えめな増加が見られると語った。
しかし、2021年のミームコインは、品質や寿命という点で2017年のICOトークンに最も似ている資産のようだ。
「ミームトークンは一時的なものとなる傾向があり、最初の数カ月で急速に広まらなければ、約75%はすぐに消滅してしまうと言えるだろう」と、コー氏は語った。
失敗を決定づける最も大きな要素は、手っ取り早くお金儲けをしようと急いでまとめ上げられたチーム、そしてコインそれぞれのコミュニティー内で共通の大義のもとに集まる真の信奉者たちの不在だと、コー氏は説明した。
コー氏によれば、市場に加わったばかりの新しい暗号資産の命運を見極めるのは時期尚早だ。
「量はあるが、質はいまだに非常に主観的なままだ。ミームトークンやイールドファームの中には、真に業界を改善しようとしているプロジェクトも存在しており、見極めにはまだ時間がかかるだろう」と、コー氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Crypto Coin Listings Exploded in 2021