米銀最大手のJPモルガン・チェースが、日本の証券会社や資産運用会社、信託銀行など法人顧客向けの株取引決済において、人工知能(AI)を搭載したチャットボット(対話型AI自動応答システム)の活用を始めた。
オペレーション部門が法人顧客向けの決済業務にAIチャットボットを活用するのは初めてとなり、これまで企業と銀行双方の担当者が電話やEメールなどで行っていた業務の量と時間を大幅に削減する。
JPモルガンがこのサービスを開発するために採用しているのは、カリフォルニア州パロアルトに本社を置くシンフォニー(Symphony)が開発したメッセージングツール。データは暗号化技術で保護され、安全性が高く、今では世界中の多くの大手金融機関が利用している。
例えば、すでに約定した現物株を優先的に決済したい時や特別な決済を行いたい時、参加者はシンフォニーのチャットルームでJPモルガンに対して特定の短いコマンドを入力する。チャットボットはそのコマンドに応じて、顧客対応を瞬時に行ってくれる。
ある証券会社の担当者が、約定した特定の株式500株を決済する場合、チャットには「#sett 証券コード/500」などと入力する。仮にその日に250株のみが決済可能であった場合、チャットボットはそのことをチャット上で伝え、担当者の合意が得られた時点で決済の実行に移る。
これまでは、顧客企業の担当者がJPモルガン証券会社の担当者に電話で、決済情報の照会や決済の依頼を行ってきた。証券コードや株式数を口頭で伝達すれば、聞き間違いなどのヒューマンエラーのリスクは常にある。
個人顧客向けの銀行業務ではチャットボットの活用は広がりつつあり、現時点で有効な技術を活用すれば、企業間の取引決済にAIとメッセージングを利用して、簡素化・効率化することは、もっと早い段階でできた。しかし、取引データをメッセージアプリで共有することに伴う機密性(コンフィデンシャリティ)に関する課題に加えて、日本ではシンフォニーを積極的に活用する金融機関の数が依然として限られていることが、今回の取り組み導入を遅らせてきた。
日本では、政府と企業が事業のデジタル化(DX)を加速させているが、銀行業務においては北米や欧州、シンガポールなどに比べるとデジタル化の速度ははるかに遅い。
JPモルガンが今回の取り組みを前進させたのは、同行の株式業務部(Equity Operations)だ。日本の顧客企業が取引決済などに費やす時間を削減できれば、企業はより多くの時間を生産性を高める業務に費やすことができる。
日本の株式業務部のアイデアを基に、APAC(アジア太平洋)のデジタルソリューションズ(Digital Solutions)部がテクノロジー部と共同で、日本の法人顧客向けのソリューションを数カ月で開発した。現時点ではパーシャル(部分)決済・オフライン決済にて利用可能であり部分的に自動化されているが、今後段階を経てさらにAIを導入したフルオートメーションを目指す。
JPモルガンは現物株の決済に限らず、債券や金利取引などでもAIチャットボットの活用を日本で広げていく方針だ。また、企業顧客は現在、短いコマンドをチャット上にテキスト入力する必要があるが、将来的にはUI・UXをよりシンプルなものに改良していく。
ジェームズ・ダイモンCEO率いるJPモルガン・チェースは、年間で約120億ドル(約1兆3200億円)の予算を自社のテクノロジー関連に費やす。世界のビッグテックやフィンテック企業は、従来の金融サービスや基盤をディスラプト(破壊)すると言われているが、ダイモンCEOはJPモルガンがテクノロジードリブンな金融機関に変わることで、金融界をディスラプトする側になると強調している。
|取材・テキスト・編集:佐藤茂
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