アメリカ最大の暗号資産(仮想通貨)取引所を運営するコインベースは9月7日、米証券取引委員会(SEC)から警告を受け取ったと発表した。
計画中の新プロダクト「Lend」をめぐる警告だ。Lendは、ステーブルコインのUSDCを預け入れたユーザーに4%の利回りを提供するというもので、他のコインも後に追加される予定のようだ。
コインベースによると、SECは1日、同プロダクトに対する告訴を計画していることを警告する「Wells notice(ウェルズ通知)」を同社に送った。
適切な助言なき警告
しかしコインベースは、Lendのローンチを妨げる可能性の高い今回の警告は、SECが何カ月もはぐらかしのような行為を続けた後に発せされたと主張する。
コインベースのCEO、ブライアン・アームストロング氏によれば、そのような行為は5月、同氏が様々な議員や規制当局と会うためにワシントンDCを訪れた時に始まった。
「SECは、私と会うことを拒んだ唯一の規制当局であった。『いかなる暗号資産企業とも会わない』と言っていた」と、アームストロング氏はツイートした。
コインベースのブログによると、同社はそれ以来、LendをSECへと提示し、先週の警告が発せられるまで、長期にわたる協議のプロセスを経てきた。そのような透明性を目指した取り組みにも関わらず、SECは警告を通知するに先立って、このプロダクトを適切に構築する方法について、いかなるアドバイスも提供しなかったと、アームストロング氏は主張する。
「このようなプロダクトをめぐり業界に対して実のあるガイダンスをまったく提供することもなく、法的措置で脅している」と、アームストロング氏は語った。
Lendのリターンは企業の財務実績に正式には連動していないため、証券ではないと、コインベースはもっともな主張を展開している。同様のプロダクトが暗号資産界に多数存在し、取引所やDeFiプロトコルなどの実質的に規制を受けない組織によって提供されていることも、コインベースにとってはいら立たしさの種だ。
今回の件について、アメリカで規制を受けるその他の暗号資産企業各社は、同情と不満をもって反応している。
「アメリカの規制当局は、都合が良いからという理由で良い企業を押さえつけている」と、暗号資産取引所クラーケン(Kraken)のCEO、ジェシー・パウエル(Jesse Powell)氏は述べ、次のように続けた。「一方で、実際の詐欺は長年にわたって、衰えることなく続いている」
投資家をリスクから守る
アームストロング氏はまた、SECが本当にその役目を果たしているのかを疑問視し、「誰を保護しているのか?どこに損害があるのか?他の多くの暗号資産企業による、このような様々なプロダクトでリターンを稼ぐことを人々はとても喜んでいるようだ。(中断)そのようなものを阻止することはおそらく、消費者を保護するよりも、彼らに損害を与えるだろう」と述べた。
アームストロング氏の主張は、少なくとも少し誤った方向を向いている。SECは、投資家をリスクから守ることを目指しており、規制を受けていない暗号資産預け入れプロダクトの現在のリターンがどれほどであったとしても、長期的に見れば、明らかにリスクは高い。例えば、DeFiプロダクトや取引所に対する大規模なハッキングは、心配なほどに頻繁だ。
利子を受け取る時には常に、実質的にはリスクに対する報酬を受けているのだ。好むと好まざるとに関わらず、現在の低金利環境においては、預け入れたステーブルコインに対する4%の利回りは、かなりのリスクを暗示している。
アメリカの銀行の預金金利が1%未満、30年国債の利回りが2%を下回る中、コインベースが提示する利回りは間違いなく、そのプレミアムがどこからやってくるのかについて、疑念を生じさせる。
例えば、アームストロング氏が言及するDeFi「イールドファーミング」サービスの多くにおいては、リターンは実際には、プラットフォームのネイティブトークンで支払われる。
つまり、大半のDeFi「ローン」は、かろうじて正体を隠した「証券」なのだ。リターンとして生じたトークンの価値は、プラットフォームの将来の実績に左右されるからだ。
SECの今回の警告の説明としてあり得る1つの仮説は、コインベースが同様に、自社の事業収益で利回りを支えているとSECが考えている可能性だ。
それでも、コインベース側の言い分は、ゲンスラー新委員長指揮下でのSECへの落胆を表している。コインベースが指摘する通り、ゲンスラー委員長は繰り返し、暗号資産企業と対話を望むと言っていたのに、対話は双方向のものであるということを理解していないのかもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:コインベースのブライアン・アームストロングCEO(CoinDesk)
|原文:Coinbase Has Words for the SEC. Is It Listening?