米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長は10月5日、下院金融サービス委員会の公聴会に出席。19人の委員会メンバーが、暗号資産(仮想通貨)規制についてゲンスラー委員長に質問を浴びせた。
同委員会が暗号資産に重点を置いたことは、成長を続ける暗号資産業界と、その規制を担うSECの役割に対する強い関心と、鬱積した不満を浮き彫りにしている。
ゲンスラー委員長の証言は、暗号資産取引所、ステーブルコイン、今後の見通しなどにおよんだ。それぞれを細かく見ていこう。
SECの規制権限
同委員会でトップの共和党議員であるパトリック・マクヘンリー下院議員(ノースカロライナ州)は、暗号資産規制に関する「心配で矛盾した」ゲンスラー委員長の発言について、そして暗号資産を規制するために必要な権限をSECが持っているのかについて尋ねた。
ゲンスラー委員長は5月、議会に対して、SECがデジタル資産と取引所を規制し、定義するためには追加の法律が必要であると述べた。しかし、マクヘンリー議員は5日、ゲンスラー委員長がその後のインタビューで、その姿勢を転換させたと指摘。
ゲンスラー委員長は現在では、SECは既存の法律のもとで暗号資産を規制するのに必要な権限を持っていると考えているのだ。
「この分野におけるSECの権限は明らかだと考えている」と、ゲンスラー委員長はマクヘンリー議員に答え、次のように続けた。「『証券』の定義に関して、議会は大まかな定義を行い、国民を詐欺から守るために、証券の定義の中に30〜35の異なる分野を含めていると思う」
SECとCFTC(米証券先物取引委員会)の協調における「隙間を埋める」ことで議会はサポートできると、ゲンスラー委員長は語った。
暗号資産規制をめぐって起こっているCFTCとSECの縄張り争いにも関わらず、暗号資産を監視するために、議会が別個の規制当局を創設する必要はないと、ゲンスラー委員長ははっきりと意見を表明した。
「新しい規制当局は必要ではない」とゲンスラー委員長は主張する。「議会が行動しなかったとしても、(中略)2つの当局の間のスムーズな連携を確保するためにできることはある」
ゲンスラー委員長はさらに、縮小するSECの予算に言及し、より多くの人員を雇い、データ分析ソフトウェアをアップグレードできるように、議会がSECに追加の資金を提供するよう要請した。
「過去4、5年で4、5%縮小している。4、5%拡大して欲しいところだった」とゲンスラー委員長。「財源が限られているのは分かっているが、任務を果たす役に立つ」
暗号資産は証券か?
マクヘンリー議員やその他の委員会メンバーが、ビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)などの暗号資産を証券と考えているかを尋ねると、ゲンスラー委員長はその質問を交わし、次のように答えた。
「1つのトークンについて答えることはしない。しかし、証券取引法は非常に明確だと思う。誰かから利益を上げているのならば、投資している一般市民が、他の人の努力に基づいた利益を合理的に期待しているのならば、それは証券取引法の対象に入るということだ」
既存の5000〜6000の暗号資産の「大半」は証券の定義に当てはまり、そのためSECの規制対象となると、ゲンスラー委員長は証言。前任のジェイ・クレイトン氏と同様の立場を展開した。
ブロックチェーン議員集会の会長で、暗号資産業界を表立ってサポートしている共和党のトム・エマー下院議員(ミネソタ州)は、ゲンスラー委員長の意見に抵抗し、大半の暗号資産はコモディティあるいは通貨の定義に当てはまると主張した。
ブロックチェーン議員集会のメンバーである、共和党のウォーレン・デビッドソン下院議員(オハイオ州)は、暗号資産が証券からコモディティや通貨になるには何が必要かをゲンスラー委員長に質問。
イーサリアムは分散型ネットワークに移行したため、証券の定義を「免れる」かもしれないとする、2018年のゲンスラー委員長の発言を引き合いに出した。
「あなたは繰り返し、ICO(新規コイン公開)は証券であると考えると述べている。あなたの見解では、証券とみなされないのに十分なほど分散化したトークンというのはどのようなものか、はっきりと説明してもらえるだろうか?」と、デビッドソン議員は尋ねた。
ゲンスラー委員長は、イーサリアムやその他の具体的なトークンについてコメントすることは拒否し、Howeyテストで証券とみなされたトークンが証券であると答えた。
取引所に迫る委員長
民主党のジム・ハイムズ下院議員(コネチカット州)からの質問に対しゲンスラー委員長は、分散型のものを含めた取引・貸付プラットフォームの規制に重点を置く理由を説明した。
「投資家は実質的に、所有権を明け渡してしまっている。秘密鍵と呼ばれるものをプラットフォームに渡し(中略)、プラットフォームが保管している」とゲンスラー委員長は述べた。
「プラットフォームでは非常に多くのアクティビティが起こっており、そこは投資家保護を改善できる場所でもある。(中略)分散型プラットフォームでも、いわゆるDeFiプラットフォームにも、中央集権型プロトコルが存在する。同じようにカストディすることはないが、最大限の公共政策を実施できるのがそのような場所である」(ゲンスラー委員長)
過去の公聴会と同様、ゲンスラー委員長は取引所に対して、SECに登録するよう繰り返し求め、よりフレンドリーな法域への脱出を非難した。
「企業はとにかくSECを訪れて、登録するべきだと考えている」と、ゲンスラー委員長。「しかし、ここ4、5年で何が起こったかと言えば、登録しないことを選択したか、シンガポール、マルタ、香港などへ移転し、VPNを通じて間接的にサービスを提供してきたのだ」
共和党のアンソニー・ゴンザレス下院議員(オハイオ州)は、一部の取引所にとっては、「SECを訪れて、登録する」ことは簡単ではないかもしれないと指摘した。
「暗号資産分野の複数の企業と話をしてきたが、そのような話し合いで共通していたのは、SECに行って、自社プロダクトの説明をしたいが、それをしたら、何か執行行為につながるのではないかと、彼らは懸念しているのだ」とゴンザレス議員は述べる。「フレンドリーで開かれた対話というのがあると、彼らは考えていないのだ」
ロビンフッドなど、証券と並んでデジタル資産の取引サービスを提供する投資プラットフォームについての意見を求められると、ゲンスラー委員長は、暗号資産取引所がSECに登録する必要性を強調し、次のように述べた。
「これらの取引所、公共政策の枠組みに含まれる貸付プラットフォームが登録しなければ、多くの人が痛手を被るだろう。これらのプロジェクトの多くは証券取引法の管轄内であることは明確だと思う。これらのプロジェクトや企業のより多くに登録してもらい、投資家保護の枠組みの中に入ってもらうために、SECの権限を行使していく」
ステーブルコイン規制の今後
ゲンスラー委員長は、5日の公聴会の中で複数回にわたって、SECはすでに暗号資産を規制するのに必要な権限を持っていると主張したが、ステーブルコインを規制する方法を決定するのに、議会が力を貸せるかもしれないと示唆した。
ゲンスラー委員長は、ステーブルコインがアメリカ経済に対する体系的リスクであると考えているか尋ねられると、ステーブルコインを、暗号資産「カジノ」の「ポーカーのチップ」に例える過去の発言を繰り返した。
「現在流通している1250億ドル相当のステーブルコインは、カジノのポーカーのチップのようなものだと考えており、システムにリスクを与えると思う。過去1年で約10倍に成長したが、このまま成長を続けたら、システム全体にリスクをもたらすと考えている」
これらの発言がなされたのは、コインベースと共にステーブルコインUSDCを手がけるサークルが、SECから捜査の召喚状を受け取ったとCoinDeskが報じてから、数時間後のことであった。
「成長を続けたら、色々なものを損ね始めるのは想像できる。銀行業務としての管轄内に持ち込まれなければ、伝統的な銀行システムを弱体化する可能性がある」とゲンスラー委員長は指摘した。
しかし、ゲンスラー委員長は、「明確でクリーンな準備資産」を伴ったドルに裏付けられたステーブルコインは、準備資産の不明な「ジャンクコイン」とは「区別できる」可能性もあると示唆した。
「法定通貨にコンピュータグラフィックスで何かを巻きつけるることは、別物となり得る。銀行での預金に直接つながるものとなり得るし、対極的に、マネーマーケットファンドに類似したものともなり得る。原資産次第だ」と、ゲンスラー委員長は話した。
委員長はさらに、SECがステーブルコインを問題視する一因は、「税務上のコンプライアンスをめぐる法律を回避するためや、違法行為」のために取引所内で使われることがあるからだと強調した。
暗号資産の長期的見通し
委員長はまた、暗号資産プロジェクトの大半には、長期的な将来性がないとした、ワシントン・ポストへの過去の発言を繰り返し、次のように語った。
「5000〜6000に登る民間発行の通貨が、長く存続する可能性は低い。経済の歴史が、その可能性の低さを示唆している。わずかばかりの暗号資産は、デジタル版の投機的な価値の保管手段として、ゴールドやシルバーと競い合っているかもしれない(中略)しかし、その数は多くない。大半は投機的な資産である」
ゲンスラー委員長は繰り返し、特定のトークンについてコメントしないと述べていたにも関わらず、次のように、ビットコインを価値の保管手段と呼んだ。
「ビットコイン(中略)は非常に投機的な資産であるが、ゴールドと同じように、一部の人たちが投資したいと考える価値の保管手段である」
暗号資産の禁止はない(今のところ)
共和党のテッド・バッド下院議員(ノースカロライナ州)は、暗号資産と暗号資産マイニングに対する中国の取り締まりを取り上げ、SECも同様の禁止令を課す計画はあるかと、ゲンスラー委員長に尋ねた。
最初は回答を躊躇していたが、バッド議員が次のようにより直接的に質問すると、ゲンスラー委員長は回答を余儀なくされた。
「中国がやったように、独自の自国デジタル通貨に皆を集めるために、SECを通じて禁止を課すようなことには関心がないのか?」
「いいえ、それは議会のすることだ」と、ゲンスラー委員長は答えた。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長(CoinDesk)
|原文:Gensler’s Crypto Testimony: 6 Key Takeaways