NFT(ノン・ファンジブル・トークン)が解決するとうたっている問題の1つは、「プラットフォームリスク」である。
あるビデオゲーム用のインゲームアドオンを買ったとしよう。それは発売元のプラットフォームでしか使えない。ファイルはゲームが打ち切りになるまで、ゲーム会社のサーバーに保管され、打ち切りになると同時にすべては消えてなくなってしまう。
NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アニメやゲーム、アートなどのコンテンツの固有性や保有を証明することができるもので、NFTを利用した事業は世界的に拡大している。
対照的に、NFTはブロックチェーンと直接につながっている。つまり、ネットワーク上の各コンピューターが、ファイルに起こっていることの完全な記録を保持するのだ。データ保管の責任を負う単独の企業は存在しない。フロントエンドのインターフェイスが1つダメになっても、別のものが代わりになれるという仕組みだ。
しかし、分散型システムがこのように機能するであろうという期待と、現実にはずれがある。事実、NFT市場はすでに、中央集権化されつつある。
イーサリアムネットワーク上のNFTを見てみよう。Foundation、KnownOrigin、Nifty Gateway、Rarible、SuperRare、Zoraなどの主要マーケットプレースが、ウェブ3のeBayのような存在になろうと競い合っているが、そのような存在に近い位置にいるのは、1つのウェブサイトだけであると、どんなNFTファンでも認めるだろう。
それが、オープンシー(OpenSea)だ。今年の夏に15億ドルの評価額をつけたベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が支援するマーケットプレースである。
ブロックチェーンデータ収集を手がけるDappRadarによると、オープンシーでは12日以来、6億ドル相当の取引が行われた。一方、次に有力なマーケットプレースであるSuperRareにおける同期間の取引額は、600万ドルである。
オープンシーの強み
オープンシーが有力な理由の1つは、そこがギャラリーというよりも、出品作品が集まる場所という感じだからだ。FoundationやSuperRareなどのプラットフォームは、特定の厳選されたNFTコレクションの取引のみに対応しているのに対し、オープンシーでははるかに幅広いプロジェクトに対応している。
SuperRareのNFTをFoundationで取引することはできないし、FoundationのNFTをSuperRareで取引することはできないが、どちらもオープンシーでは取引可能なのだ。(Raribleも同じようにプロジェクトをまたぐ柔軟性を持っているが、その人気度ははるかに劣る)
オープンシーはまた、デジタルアートを取り扱うことで評判を築こうとしているFoundationやSuperRareよりも少し、無法地帯で統制が取れていない感じである。人気NFTの「Lazy Lions」や「Bored Apes」を買いに行くのがオープンシーである。より自意識過剰で芸術気取りなNFTは、他のプラットフォームで取引が開始されてから、オープンシーの流通市場へと向かう傾向にある。
先週いくつかのメディアが報じた通り、オープンシーは少しの間、オープンシー独自のテンプレートを使って作られたヒトラーをテーマにしたNFTコレクションを扱っていた。
熟練の開発者たちは自分のNFTのコーディングを自ら手がけるかもしれないが、それ以外の人たちはオープンシーの「Shared Storefront」スマートコントラクトを使うことができる。便利なインターフェイスでプロセスを簡略化してくれるものだ。
オープンシーは、問題のヒトラーNFTの出品を取り下げているが、スマートコントラクトはイーサリアムブロックチェーン上で生き続けている。
プラットフォームリスク解消と引き換えに背負うリスク
これが、プラットフォームリスクの問題のもう1つの側面だ。つまり、「検閲不可能な」情報の可能性である。データはオープンシーではなく、ブロックチェーン上にあるため、ヒトラーを敬愛する開発者が、そのようなトークンをサポートするフロントエンドを開発することができるのだ。
ヒトラートークンが、すべての主要マーケットプレースから取り除かれたわけでもない。いまだにRaribleで閲覧可能であり、ヒトラーを「アンチヒーロー」と形容する、元々付随していた説明文もそのままである。
コインベースとFTXという、中央集権型の暗号資産取引所大手2社が先週、独自NFTマーケットプレース立ち上げの計画を発表した。市場にさらなるモデレーション(コンテンツの監視と必要に応じた削除)がもたらされるのは間違いない。
しかし、よりリバタリアンな暗号資産の世界では、トップダウンのモデレーションは議論を呼ぶものだ。ヒトラーを崇めるようなNFTは開かれた市場で売られるべきではないという点で、皆は同意するだろうが、個々のプラットフォームにそのような決定権を与えては、ずるずると悪い方向に事態が進展してしまうだろうか?
現実には、プラットフォームはすでにそのような決定権を持っていると私は考えている。NFTの大半は、そのような決定をする意思を明らかに持っている民間企業のオープンシーを通っている。
開かれた市場は、テックに一極化する傾向にある。アマゾンとマイクロソフトが支配的となったウェブ2ではそうだったし、少なくともこれまでのところ、NFT市場でもそのようになっている。
But if OpenSea *didn’t* disappear, people would probably stick with it. Just because it’s easy to replace if it goes down doesn’t mean it’s easy to displace if it doesn’t.
— David Pfau (@pfau) 2021年10月11日
「Pual.B:大きな違いは、オープンシーが明日なくなったとしても、NFTは存在し続け、人々は新しいマーケットプレースへと移行するということだ。分散化よりも、ロックイン(別のサービスへの移行が困難な状態)の不在の方が重要だ」
「David Pfau:しかし、オープンシーがなくならなかったとしたら、人々はおそらくそれを使い続けるだろう。なくなっても簡単に代わりのものが見つかるということは、なくならなかった場合に取って代わるのが簡単ということを意味しない」
コインベースとFTXが中央集権型システムに多くのトレーダーを引き込み、このトレンドを加速する可能性は大いにあると考えている。
すでに、230万人以上がコインベースのNFTプラットフォームのウェイティングリストに参加している。これが、同社の暗号資産分野における威信のおかげであることは間違いない。
FTXはソラナ(Solana)ブロックチェーンを利用しており、コストがかさむイーサリアムの手数料システムから距離を置いているメリットがある。
コインベース、FTXなどが証明したように、分散型コンピューティングは分散型市場構造を必要とはしない。NFT市場の行く末も、それを証明するのかもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:mundissima / Shutterstock.com
|原文:The NFT Market Is Already Centralized