メインストリームのメディアも、暗号資産(仮想通貨)業界の最新トレンドを報じるようになった。今回ブームになっているのは、新しいノン・ファンジブル・トークン(NFT)でも、犬をモチーフにした新顔トークンでもなく、人間が安全に触ることのできる最も高密度な元素の1つ、タングステンで出来た小さなキューブだ。
CoinCenterのニーラジ・アグラワル(Neeraj Agrawal)氏と投資家のニック・カーター(Nic Carter)氏が先導するこのキューブ・ムーブメントは、ここひと月ほど暗号資産関連のツイッターで話題沸騰となっている。
アメリカで人気のタングステン製品業者、ミッドウエスト・タングステン(Midwest Tungsten)では、売り上げが大幅に増加。ツイッターユーザーたちは、新しいキューブの注文の受け取りまでの時間がひと月以上になっていると報告している。
流行の理由は?
米NBCテレビは3日、「タングステン・キューブ強気相場」について報じ、「なぜタングステンキューブが流行しているのか?」という大きな疑問に、いくつかの仮説で答えた。
投機的熱狂に遠回しに言及するツイッター上のミームとして始まったが、実際に意義のある理由から、人気となっているこのキューブ。不思議なくらいに重く、持ってみると触覚的錯覚のような感じがするのだ。
恥ずかしながら、私はキューブを保有していないが、その謎めいた魅力は体験したことがある。これほど重いのなら、何か言い表せないような形で生きているのではと、人間たちのつまらない関心事の世界を超えた生を感じさせる。超自然的な感覚をもたらすのだ。
デジタル資産関連のニュースやデータ提供を手がけるザ・ブロック(The Block)のティム・コープランド(Tim Copeland)氏が、完璧にまとめている。キューブを手に持つと、「地球と再び1つになりたいと切望している」のを感じることができるのだ。
Okay I am shocked at this cube.
— timcopeland.eth (@Timccopeland) 2021年10月18日
Like honestly I read the reviews and saw the tweets but didn’t realise it was all true.
This cube is otherworldly dense. It yearns to be one again with the earth, with a power I can’t quite explain. It is the ultimate cube. pic.twitter.com/P3Afvc6aon
「このキューブに衝撃を受けている。
レビューやツイートは読んでいたけど、正直言って本当だとは思わなかった。
キューブはこの世のものとは思えないほど重い。地球と、説明できないようなパワーと再び1つになることを切望している。究極のキューブだ」
つまり、タングスタン・キューブは、手のための立体視ポスターのようなものだ。しかし、面白みをすべて取り払ってしまう危険を冒して言えば、キューブ現象は、幾重にも織り重なったもので、暗号資産だけではなく、私たちの社会についても、不思議なほどたくさんのことを語ってくれる。
キューブは、ズームや新型コロナウイルスのパンデミックと関係がある。キューブは市場のバブルと関係がある。キューブはメタバースと関係があり、収入の不均衡とも関係がある。
その重みに隠されているのは
奇妙な重さがもたらす純粋な感動から一歩掘り下げると、キューブは私たちが体であり、その体は本当に大切であることを思い起こさせてくれるデジタル時代の代物。キューブを手に持つことは、デスクから少し離れて散歩をして、さらには森でハイキングすればいつでも手に入る体験の極限バージョンなのだ。
確かにキューブはクールだが、川辺で適当ないい感じの石を拾ったことがあるだろうか?近くのお店まで歩いて行く途中で、すごく興味深い会話を耳にしたことがあるだろうか?キューブの重さは、デジタルの世界から離れる時間をとることで手に入る、豊かな現実の思い出であり、それを思い起こさせてくれるものだ。
キューブは、スクリーンの前で孤立し、もううんざりしている知的職業階級の人たちに受け入れられている疫病の時代の症状なのだ。(そして大いにくだらない贅沢品としては、リモートワークを許されている人たちがアプリのスクリーンの陰で都合よく隠れることのできている、フードデリバリーの配達人や「エッセンシャルワーカー」たちがさらされている身体上のリスクや不安を思い起こさせるべきでもあるのだ)
キューブはまた、旧フェイスブック(現在のメタ)やマイクロソフトなどが猛烈に推しているメタバースの売り込みに対して、中指を突き出して正当に侮辱する手段でもある。
キューブは、バーチャルリアリティが実世界で卓球やフェンシングをするのに取って代わるなどというバカげたアイディアを退ける。卓球とフェンシングは、フェイスブックのメタのプレゼンで取り上げられていたが、仰天するほどバカげた売り込みであった。
このような深い感情に関連する体験に、相応に近似したものをバーチャルの世界で作り上げるために必要な触覚フィードバックや低遅延性の実現には、数世紀とは言わずとも、数十年かかる。それらを例として使ったことはおそらく、マーク・ザッカーバーグ氏の「メタ」は、本当は決して実現しないインチキ話に人々を乗せるための詐欺なのだということの、最も明確な証拠であろう。
政治関連のツイッター界と同じくらい、末期的に脳の中毒となっている人であふれた暗号資産関連のツイッターから登場したこのミームの、修辞学的な重みを主張することも、同じようにバカげているように思えるかもしれない。しかし、暗号資産とブロックチェーンの深遠な目的は、実世界の永続性をデジタルのものに植え付けること、言うなれば、デジタルな密度を与えることなのだ。
カナダのメディア哲学者マーシャル・マクルーハン(Marshall McLuhan)氏は、永続的なコミュニケーションテクノロジー(例えばピラミッド)と、高速コミュニケーションテクノロジー(例えばEメール)とのトレードオフという観点から、メディアの歴史を分析した。
ビットコインや暗号資産は、永続と高速を混合した斬新な形なのだ。暗号資産テクノロジーのコストや不便さ(例えばガス代)はバグではなく、このような野心的な取り組みからは切り離せない特徴なのだ。
確かに結局のところ、タングスタン・キューブのブームも、新たに暗号資産でリッチになった人たちが支えている、一時的な流行に過ぎないことを否定はできない。しかし、持続性のある流行と同じように、奥深く見てみれば、その内側にはどっしりとした真実が隠されている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:The Cube Movement