楽天経済圏でビットコインが循環する:DeFi、ステーブルコインはどうする?

Eコマース、ネット銀行・証券、クレジットカード、モバイル(携帯)……事業のすそ野を広げ、22兆円のグローバル流通総額を記録する楽天グループは、「楽天経済圏」を拡大させている。

グループの中で楽天ウォレットは、ブロックチェーンを基盤技術にする暗号資産(仮想通貨)の取引サービスを運営し、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの主要コインを取り扱う。

北米や欧州では過去2年、企業や機関投資家による暗号資産市場への参入が相次ぎ、世界のクリプトマーケットをけん引する2大市場となった。日本では、暗号資産の取引市場の成長ペースが緩やかなカーブを描いているが、取引サービスを手がける交換業者の数は増え続けてきた。

楽天ウォレットはいかに事業の拡大を図っていくのか?ビットコインや暗号資産取引サービスは、楽天経済圏のエコシステムでどう活かされていくのか?楽天ウォレットの山田達也社長と、同社マーケティング部長の小林勉氏に話を聞いた。


楽天グループの電子マネーと暗号資産との相性

──北米と欧州の企業や機関投資家、金融機関による参入が相次ぎ、暗号資産のグローバル市場は2021年に、大きく成長しました。この市場環境の変化に伴い、楽天ウォレットはどんな取り組みを強化してきたのでしょうか?

山田氏:ビットコイン(BTC)を中心とする暗号資産の価格が2020年の終わり頃から、急激に上昇し、世界各国のニュースメディアにおける暗号資産の露出度は上がりました。

イーロン・マスク氏のような世界的事業家が、暗号資産に対する考えをSNSなどでコメントし、多くの投資家や若い人たちが暗号資産に対する注目を強めてきた1年でした。

暗号資産に限らず、メタバース(仮想空間)などを含めた新たな技術を使った新しい産業が生まれ、我々も楽天経済圏の中でどういうサービスを開発できるかを常に考えてきました。

(ビットコインの価格推移/coindesk JAPAN)

その1つとして、現物取引アプリで運用している暗号資産を、楽天のオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」にチャージできる取り組みを、2021年に始めました。暗号資産の価格ボラティリティは高く、キャピタルゲインを期待する投資家も増えていますが、我々は楽天グループの中で暗号資産をどう決済手段として利用できるかを考えています。

キャッシュレス決済の急速な広がりを考えた時に、デジタル通貨・デジタル資産は今後さらに、重要なカギになってくると思います。保有する暗号資産を原資に、「楽天キャッシュ」にチャージし、楽天市場などでのお買い物や「楽天ペイ」アプリでの決済に利用できるサービスは、2022年以降も継続・拡大していきたいと思っています。

もちろん、経済圏の中で暗号資産と電子マネーをシームレスに動かそうとする際、ハードルはいくつか存在します。一つは税制の問題です。電子マネーと暗号資産とでは、課せられる税の制度が異なり、交換時に損益を出して電子マネーをチャージすれば税計算が複雑になります。二つ目に、暗号資産の著しい価格変動は、決済通貨としては使い難い点です。

ステーブルコインは楽天で流通するか?

──米ドルや日本円などに連動するステーブルコインが、楽天経済圏で利用されることはあり得ませんか?ビットコインやイーサリアムなどのボラティリティの問題が解消されるのではないでしょうか?

山田氏:ステーブルコイン(法定通貨を裏付けとした暗号資産)の活用を検討すべきではないだろうかと、社内で話しています。民間企業が発行するステーブルコインは、CBDC(中央銀行デジタル通貨)に移行するまでの架け橋的な存在になり得るだろうと考えられます。

ボーダレスな決済手段として、ステーブルコインは便利なものであることは事実です。日本国内では、円に連動したステーブルコインは、楽天経済圏においても使いやすいのかもしれません。また、日本に居住する外国人にとっては、ドル連動型ステーブルコインは有効なものになるだろうと思います。

NFTにおいては、日本発のコンテンツが数多く誕生してきています。日本の居住者向けには、日本円ステーブルコインによる決済で十分かもしれません。ただ、日本のNFTコンテンツを海外の多くの人に提供しようと考えると、ドル連動型ステーブルコインや、暗号資産も使いやすいものになるでしょう。価格変動の側面を考えると、イーサリアムよりステーブルコインの方が相応しいのかもしれません。

NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。

楽天グループは、2022年春をめどにNFT事業に参入する計画を発表。NFTの個人間売買ができるマーケットプレイスと、IPコンテンツホルダーがNFTの発行・販売サイトを構築できる独自のプラットフォームをあわせ持つ「Rakuten NFT」の開発を進めている。

投資を牽引する欧米、日本は動き出すか

(イーサリアムの価格推移/coindesk JAPAN)

──スイスやカナダではすでに、ビットコインやイーサリアムの現物価格に連動する投資信託が上場され、取引が始まっています。アメリカでも2021年に初めて、ビットコイン先物に連動するETF(上場投資信託)が承認され、取引が始まりました。

山田氏:スイス証券取引所では上場投資商品(ETP=Exchange-Traded Product)として、カナダのトロント証券取引所では、上場投資信託(ETF=Exchange-Traded Fund)として、暗号資産の投資商品が上場されています。

CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)では、ビットコインとイーサリアムの先物商品が上場され、取引されるようにもなってきました。ビットコインとイーサリアムを中心に、資産クラスとしての投資環境の整備が一気に進んできました。

スイス証券取引所:Swiss Stock ExchangeはSIXと呼ばれ、ビットコインやイーサリアム、ポリゴン、ソラナなどの暗号資産に連動するETPを上場している。同国で暗号資産の投資商品を開発しているのが21Shares社で、SIXに上場されているETPの多くは21Sharesが開発したもの。

北米と欧州では、機関投資家がETFやETPへの投資を行っており、暗号資産の投資市場の厚みが増してきています。同時に、投資活動の裏側を支える、暗号資産のカストディ(保有・管理)サービスも拡大してきています。

──日本国内の機関投資家は今後、拡大する暗号資産市場にどう参入してくると思われますか?

山田氏:欧米でここまで変化、発展してきていますから、日本の機関投資家が海外のETFやETPなどの投資ファンドに対して投資を開始することはあるだろうと思っています。

しかし、日本国内では伝統的な銀行や証券会社、信託銀行などが暗号資産を直接やり取りできる環境にはありません。規制当局は依然として、金融機関に暗号資産との一定の距離を保つよう促していますね。

事実、暗号資産のカストディサービスを積極的に開発していこうとする信託銀行は、国内では1社もないように思います。仮に、金融機関が暗号資産の投資商品を扱うことになれば、海外のカストディサービスと連携することになるのではないでしょうか。

2022年の市場を読む──DeFi規制は?

──暗号資産の投資環境と現在の経済状況を踏まえると、2022年の暗号資産のグローバル市場はどう変化していくと予測していますか?

山田氏:アメリカの年金基金などを含む、一部の機関投資家が市場に参入し、暗号資産の取引参加者は世界的に増加しました。市場の厚みを鑑みると、ビットコインなどの主要の暗号資産市場では、相場の下支え要因がさらに形成されていくことが考えられます。

インフレに対するヘッジ手段として、ビットコインは「デジタルゴールド」としての役割を期待されていくだろうと思います。

──DeFi(分散型金融サービス)の拡大は、その主要なプロトコルであるイーサリアムの役割を強めるかたちとなり、イーサ相場を押し上げ、結果として北米の暗号資産市場の拡大につながりました。

山田氏:DeFi分野では、今後も新たなサービスを開発するプロジェクトが生まれてくるだろうと思います。現在でも、DeFiは多くのスタートアップに支えられているサービスです。

また、大きなリスクが内在しているのもDeFiです。DeFiは現時点では、誰もが簡単に利用できるものではないと思います。2021年には一部のプロジェクトで、システムや仕組みの脆弱性が狙われ、資金の大規模流出も報告されました。

DeFi(分散型金融):銀行や取引所といった伝統的仲介業者を、ブロックチェーン上の自動化されたスマートコントラクトで置き換えることで、金融取引の効率性を高めることを目指す様々なプロジェクトのこと。

大規模流出:DeFiプロジェクトのPoly Networkは8月、ハッキング被害に遭い、約6億ドル(約680億円)の暗号資産が流出したとツイッター上で発表した。

山田氏:DeFiが競う相手はその国の金融機関であり、金融基盤であるわけですから、その既存の基盤を監視・監督する規制当局は、DeFi市場の状況を注視しています。

DeFiが今後さらに拡大していくだろうと、楽観的には考えられないところは多くあると思います。既存の金融システムを刷新する新しい発想が生まれれば、当然、金融規制当局が利用者保護の観点からも相当な注意を払って着目してくるでしょう。

楽天ウォレットが今年注力するレバレッジ取引サービス

──2022年、楽天ウォレットが注力するサービスは何でしょう?

小林氏:楽天ウォレットを利用される多くは30代~40代で、メインユーザーは男性です。2021年の取引状況を見ると、流動性が増した暗号資産はイーサリアムでした。XRPも、楽天ウォレットにおいては証拠金取引で扱っていますが、XRPに対する投資家の注目度も増しました。

我々が2022年に注力するサービスの一つは、証拠金(レバレッジ)取引です。

証拠金を預けて、現物に投資するのではなく、買値と売値の差損益部分を決済する「差金決済」が可能ですから、楽天経済圏のお客様には一定の需要があります。決済は法定通貨で行い、比較的に大きな取引サイズを求める方を対象にしたサービスです。

国内において、暗号資産の証拠金取引市場は今後、大きく成長するだろうと思っています。

|インタビュー・テキスト・構成:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑