ソラナの成功を祝ったリスボンの3日間【密着】

リスボンの空が、花火と揺れ動くスポットライトに照らされた。紫に照らされた大理石の建物からはダンスミュージックが放たれ、世界中からやってきたゲストたちがひしめき合っていた。

地元の人たちは、この謎めいたイベントをぽかんと見つめていた。コメルシオ広場に何が起こったのか、ゲストたちはなぜ、暗号資産(仮想通貨)の話をしているのかと、地元の人たちは不思議がった。彼らの見つめる先には『SOLANA BREAKPOINT(ソラナ・ブレークポイント)』と書かれた横断幕が掲げられていた。

ソラナの贅沢なカンファレンスは10日、華々しく締めくくられた。公式サイトによれば、ソラナネットワークの急速な台頭を「祝う」ため、討論会やパーティーが3日にわたって立て続けに繰り広げられた。

約2000人の参加者が、金融、デジタルオーナーシップ、ガバナンス、トレーディング、ソーシャルメディア、オンラインコミュニティーの未来を話し合うために集まったのだ。

大半の参加者は、ブロックチェーンとトークン、とりわけソラナのものが、それらすべてをディスラプト(創造的に破壊)しようとしていると考えているようであった。討論会やパーティーにおける雑談において彼らは、暗号資産がメインストリームになる日も、すぐ近くに来ていると語り合った。

大いなる成功に向けた競争に参加しているソラナの、社交界デビューパーティーであった。SOLの時価総額が数カ月にわたって高騰した後、高速で安価なDeFi(分散型金融)のハブとなっているソラナでは、ノン・ファンジブル・トークン(NFT)、デリバティブ、レンディング、ステーキング、トレーディングなど多岐に及ぶプロジェクトに人材と資本が流れ込んでいる。

ソラナの幹部は、プロジェクトがあまりに早く誕生しており、数え切れないほどだと冗談を言った。

「@solanaのエコシステムはあまりに速く成長し過ぎて、すべてのロゴを1枚のスライドに収めることができなくなっている @rajgokal

「10億人がソラナネットワークを使うようになって欲しい」と、ソラナ・ラボ(Solama Labs)のCOO、ラージ・ゴカール(Raj Gokal)氏はイベント初日に語った。ソラナの共同創業者、アナトリー・ヤコベンコ(Anatoly Yakovenko)氏は、ソラナのアクティブアカウントが約125万と推計している。

ポルトガルの首都リスボンでは今年の秋、暗号資産の大衆への普及が繰り返し語られた。10月中旬以来リスボンでは、ブロックチェーン週間、イーサリアム集会、ブロックチェーン「NEAR」のイベント、総合的なウェブカンファレンス、分散型ネットワーク「コスモス(Cosmos)」のサミットが開催されており、ソラナのブレークポイントで締めくくりとなった。

ソラナの参加者たちは、根本的に違っている感じがしたと、イベントをはしごした数人の疲労困憊した人たちは語った。初期のコミュニティー主催の暗号資産サミットが、大物のエコシステムの開発者やプログラマーを惹きつけていたとしたら、ソラナ・ファウンデーション(Solana Foundation)主催の今回のブレークポイントは、投資家を呼び込ぶものであった。

コスモスサポーターだが、短期的にはソラナにも強気だというザキ・マニアン(Zaki Manian)氏は、投資家の数が開発者の数を上回っていたと話す。「大幅に値上がりを支えたものが何であったかを理解しようとする人たち向けのイベントだった」

「大幅」というのは控えめな表現だ。1月1日にSOLに1000ドル投資していたとしたら、11月6日には17万2000ドルになっていたのだ。暗号資産エコシステムは、新型コロナウイルス時代に大量の暗号資産リッチを生み出したが、ソラナのエリート上流階級ほどに富をすばやく蓄積した人たちはいない。ベンチャーキャピタル企業がソラナに大きく賭け、勝利を収めたのだ。

ブレークポイントにおいて、そのような人たちの影響力を無視することは不可能であった。彼らは討論会の司会をし、プロジェクトの資本政策表作りに参加し、豪邸やクラブを貸し切った。FTX、マルチコイン(Multicoin)、ソラナ・ベンチャーズ(Solana Ventures)、ジャンプ・キャピタル、アラメダ(Alameda)、レース・キャピタル(Race Capital)がイベントを彩っていた。

このような企業が、150億ドルの驚異的な成長を支える資本の原動力だ。テックやビジネスの世界のベンチャーキャピタルとは違うと、あるチームは語った。小切手を切る前に、デューデリジェンスのために何カ月も費やしたりはしないのだ。

実際の小切手を切る企業もほとんどない。暗号資産企業に選ばれる通貨はステーブルコインであり、ソラナの世界では、ステーブルコインが支払われている。プロジェクトは時に、テレグラムのメッセージ10件未満のやり取りだけで、資本政策表に一流企業の名前を加えることができると、複数の情報筋が証言した。

確かに、お金には現実味がないように感じられた。米人気掲示板サイト「レディット(Reddit)」の共同創業者アレクシス・オハニアン(Alexis Ohanian)氏は、5000万ドルのファンドをサポートする計画でリスボンに到着した。イベント開催時までには、彼とソラナ・ラボは出資金を2倍の1億ドルにしていた。

完売となったカンファレンスでは、排他的で高級な雰囲気が漂っていた。1000ドルという高額のチケットで(倉庫を改良した最先端風の)メインステージ、(おしゃれな川沿いのレストランでの)開発者向けスペース、リスボンの植物園に入場可能。三輪自動車が、必要に応じて参加者を送迎した。

ソラナ流

このような過剰さによって、ブレークポイントは時に、暗号資産カンファレンスというよりは、高級リトリートのような感じがしたが、ステージ上のコンテンツは、確かに中身を伴っていた。

235人のスピーカーが参加した大量の討論会では、ソラナの歴史とこの先の道筋が紹介された。しばしば語られたのは、ソラナの特色であった。

ネタはたくさんある。まずソラナは、EVM(イーサリアム仮想マシン)に対応していない。つまり、DeFiのマーケットリーダーであるイーサリアムで実行されているプロジェクトを、簡単に移行することはできないのだ。しかしこれについてはソリューションを準備しているプロジェクトがあるために、この障壁はなくなるかもしれない。

ソラナには参加するには、多額のコストもかかる。ネットワークバリデーターはノードを最新のものに保つために、何万ドルも費やす必要があると、バリデーター企業のあるエンジニアは語った。参加への障壁が高いということは、ソラナの最も基本的なタスクに参加できる余裕のある参加者がより少なくなるということだ。

しかし、取引手数料の安さと決済時間の短さを売りにするソラナは、分散化に対する実用的なアプローチによって、イーサリアムに対して使い勝手で勝ることを実現している。この点は、パネリストたちもしっかりと認識していた。

「ユーザーエクスペリエンスを高めるために、ある程度の分散化を犠牲にすることも時にはあるかもしれない」と、トークンを橋渡しするプロジェクト「オールブリッジ(Allbridge)」のアンドリー・ベリキー(Andriy Velykyy)氏は述べる。

「場合によっては、分散化の要素をあまりに加え過ぎると、ユーザーに悪影響が及ぶこともある。ビジネスオーナーとして、その点は考えなければならない」(ベリキー氏)

事実、ソラナに向けられる大きな批判の1つは、分散化が十分ではないというものだ。

ソラナのヤコベンコ氏は、分散化について、ネットワークの寿命と絡めて語った。「窮地に陥った場合に、回復して継続できるだろうか?」と同氏は問い、1つのノードがネットワークの歴史を完全に保ったまま生き残る限りは、できると答えた。

暗号資産の「分散化」には様々な形がある。ノードカウントに加えて、アクセシビリティ、ガバナンス、競争などだ。ブレークポイントでは、ソラナの成功のどれほどが、暗号資産の精神を犠牲にして可能になったかが浮き彫りとなった。

例えば、FTXのサム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)氏が支援する流動性プロトコル「セラム(Serum)」が、ソラナベースの分散型取引所の普及に大いに貢献している。

NFTプロトコルのメタプレックス(Metaplex)は、ソラナエコシステムのNFTをしっかりと握っている。超人気ウォレットアプリ「ファントム(Phantom)」はオープンソースではない。

「ソラナは競争力が極めて高い」と、分散型取引所オルカ(Orca)のグレース・クワン(Grace Kwan)氏はDeFiプロトコルに関する討論会で語った。クワン氏は、あまり早期にオープンソース化してしまうことに異議を唱えた。そうすることは、ポーカーで持ち手を見せてしまうようなものだと主張し、他のパネリストたちもそれに同意した。

トレードオフ

大物プレーヤーたちがソラナエコシステムのイメージ形成にどれほど心を砕いているかが分かる出来事があった。

セラムのトップアドバイザーの非公式インタビューが行われた時、彼は2人の人物を伴っていたのだ。1人はアラメダ・リサーチ(Alameda Research)、もう1人はセラムの広報企業の人間であった。

ソラナは機能する。よく機能するのだ。しかもすばやく機能する。ブレークポイントに参加していた、ブロックチェーンの種類にとらわれない向こうみずなトレーダーたちにとっては、それで十分過ぎるほどなのだ。

「私は分散化過激派ではない。正直に言って、そんなことはまったく気にしない」と、イギリスから参加したダニー氏は語った。

ダニー氏は、2016年から暗号資産トレーダーをしていると話した。ソラナとは何かを確かめるために、リスボンにやってきたのだ。彼にとってソラナは、お金儲けのチャンスの1つに過ぎない。お金目当てのトレーダー仲間の多くが、ブレークポイントを活用していることに彼は驚かされた。

「トレーダーの多くが仕事を受けているのを見ることができたのは、本当に新たな発見だった」とダニー氏は語り、自らは仕事としてトレーディングを行う意図はないと述べた。

投資でリッチになった人たちが集まったブレークポイントは、異国の地で贅沢なカンファレンスを開催する暗号資産業界の長い歴史の、最新の一幕であった。このイベントでは、ゴテゴテした資産の見せびらかしが、近寄りやすい洗練された雰囲気に取って代わられていた。資産を自慢するために、タイムズ・スクエアにランボルギーニのレンタカーを駐車していたのは遠い昔のことだ。

それでも、終わることのないパーティー、まばゆい紫の照明、寿司バー、尽きることのないビュッフェ、おしゃれな会場に、レンタルされた乗り物で彩られた3日間のカンファレンスは、どこかに違和感があった。

「私たちは皆、これだけの富に値するのだろうか?」と、香港に住むあるトレーダーがパーティーでつぶやいた通りだ。

この疑問に答えが出されることはなく、きらめくライトに向けられた彼の混乱した表情だけが残された。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Solana Throws a Three-Day Party for Itself
|編集部より:ソラナの価格推移に関する説明の一部を訂正し、記事を更新しました。