エルサルバドルのブケレ大統領は先週末、世界初の「ビットコイン・シティ」構想を発表した。富裕な暗号資産(仮想通貨)投資家のための租税回避地のような位置付けで、所得税や固定資産税、キャピタルゲイン税、給与税は一切かからず、支払う税金は10%の付加価値税(VAT)のみ。
火山による地熱発電を使ったネットゼロ(二酸化炭素排出量正味ゼロ)のビットコイン(BTC)マイニングで、維持費の一部を賄う計画だ。都市の建設費には主に、カナダのブロックチェーン企業ブロックストリームーム(Blockstream)が手がけるビットコインのサイドチェーン「リキッド(Liquid)」ネットワーク上で発行される10億ドルのビットコイン債が使われる。
ビットコイン・シティでの暮らしがどんなものになるか、想像してみよう。
「ビットコイン・シティ」の姿
ぜいたくな集合住宅の一室。東向きの窓から太陽の光が差し込んでいる。この建物は、エルサルバドルの南端フォンセカ湾沿いにあるビットコイン・シティに立てられた他の多くの建物同様、雷光のように地面から突き出している。
この街の主要な後援者の1人、ジャック・マラーズ(Jack Mallers)氏がCEOを務めるビットコイン投資企業ザップ(Zap)をモチーフにした、ギザギザとした建築スタイルだ。
ブラインドを下げるためのリモコンがあるが、電池が切れてしまい、交換するのは難しい。ビットコインが電池となっているのだという話だった。
今日は、ビットコイン開発者で教育家のジミー・ソン(Jimmy Song)氏の名を冠したジミー・ソング・チャペルの落成式。街の中心にあるサトシ広場の上にそそり立つ現代的な教会である。教会の鐘楼からは、約34km沖合に浮かぶ実験的なテクノ王国「ソラナ・シーステッド」がぼんやりと見えると言われている。現在、戦争中だ。
2021年の「スーパーサイクル」のピーク時に発表されたビットコイン・シティが登場してから経過した年数は、ビットコインネットワーク誕生から経過した年数の半分に達するようになった。
初の暗号資産都市であり、最も発展したものだが、それはあまり意味を持たない。建設は場当たり的でゆっくりしたものであったが、それは独自の資金調達方法のせいというよりは、主要後援者たちの利害が衝突した結果であった。
しかし、私たちは、その場その場で学んでいるのだ。発行直後には「ジャンク」との格付けを受けたビットコイン債は実際にはリターンを生み出し、初期の投資家たちはいまだに、配当を受けている。
建設への道のり
何を建設するか?どこに建設するか?分散化と自律という理想を最優先にしたこと、そして地方政府が資源を効果的に分配する能力を欠いていたことから、市場に決断が委ねられた。
しかし、ルールがハードコーディングされていない場合に、希少な資源の使い道をめぐってコンセンサスを見つけることは、困難である。資金は潤沢にあるが、スペースは限られ、区画法は存在しない。
もちろん、大まかな建設計画はあった。巨大な「b」が街を2分する形で配置されるが、建物はそれぞれが独自の領地である。人々はそのような形を好んでいる。ブケレ政権は10億ドルのビットコイン債販売の利益を使って、土地を買い、地熱ビットコインマイニング施設と発電所を建設したが、ビットコイン・シティそのものはおおむね、「分散化して消え」た。国営の動物病院だけは例外だ。
住宅地、ショッピンセンターにレストラン、「すべてがビットコインを中心として作られ」ており、市場が提供するもので私たちは暮らしている。優先される分野もある。
住宅は高級なものか、小さくて六角形の部屋が積み重ねられたものだ。あらゆるエリアにマックカフェがある。食料品よりも2つ目のパスポートを買う方がおそらく簡単だ。デジタルエコノミーが極みに達し、住民の大半が世界を股にかけた人たちであるため、事業継続が前提となっている企業はあまり多くない。
ビットコイン大通りを歩くと、アレクサンドロス大王、自己啓発作家でコーチのトニー・ロビンズ、ブロックストリームのCEOアダム・バックのホログラムが目に入る。この街に資金を提供した人たちは数多くいるのだ。
オレンジと黒の岩から切り出した新古典的建築となっている市役所の外では、ブケレ大統領のバーチャル映像が投影されている。QRコードをスキャンし、1〜2サトシ(ビットコインの最小単位:0.00000001 BTC)を預け入れれば、ブケレ大統領のお馴染みの白い野球帽がもらえる。未来への投資をありがとう。
機関投資家のマネーを取り込もうというアイディアは、格付け会社ムーディーズがエルサルバドルの格付けを下げた後にダメになった。行き詰まった国の公的債務を買いたがる企業は、ビットコインを心から信じる企業だけであったが、ブロックストリームの最高戦略責任者サムソン・モウ(Samson Mow)氏が2021年に述べた通り、大口保有者のくじらはたくさんいる。しかし、税金のかからない投資に対して、くじらたちは皆、リターンを望んでいる。
ブケレ大統領は「ビットコイン・シティはあらゆるものへの無料で平等なアクセスを約束する」と言っていたが、実際にはそうなってはいない。イデオロギー的にリバタリアンな人たちは、公共図書館建設は了承するかもしれないが、公的な医療にはそれほど情熱を注いではいない。
住民は短期的にしか滞在せず、納税される付加価値税は限られ、公的債務の買い手が欠如しているため、緊縮財政が行われている。
私の想像が悲観的に聞こえるとしたら、それはあなたが法定通貨の精神でいまだに生きているからだ。真に公平な経済システムでは、インフレは最大の罪、課税は窃盗、政府とは暴力を独占した快楽主義的なマシーンと考えられる。
過去1世紀のアメリカの覇権とは対照的に、希少な通貨を基盤とした経済は、資源の限られた世界にとって理に適っている。
ここ10年あまりで生まれたスタートアップ都市は、世界を編成する新しい形を提示している。市民を消費者として扱っており、消費者が本当に望んでいるのは租税回避地であると考える。それはゲーム理論的で不可避、太陽が西に沈むのと同じくらい、確かなことなのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:The ‘Bitcoin City’ Fantasy