ビットコイン(BTC) 、イーサ(ETH)、ソル(SOL)、クリプトパンクのNFTに早期に投資した人たちは今年、感謝の気持ちで一杯だろう。
しかしこの記事を準備するにあたり、高騰する暗号資産(仮想通貨)価格を祝うというアイディアは、何だか物足りないものに感じる。
ありがたいことに今年は、経済や社会を変容させる可能性を持つような、暗号資産セクターにおける多くの進展があり、それらは優越感を持った一部の投機家たちの不愉快な考え方とは無関係だ。ここ1年のCoinDeskでの報道を振り返り、その中から、暗号資産コミュニティーが感謝できることのいくつかを紹介しよう。
1. 「レイヤー2」スケーリングの進展
私がこのような専門的なトピックをトップに据えたのは、暗号資産がいつの日か、より広範なグローバル経済において本当に通用する代替オプションとなれるかどうかは、スケーリングできる能力に大いに左右されるからである。ユーザーに負担となるようなコストを課すことなく、大量の取引を高速で決済できる能力が必要なのだ。
ビットコインブロックのデータ保存容量を増やそうとする、おおむね失敗に終わった取り組みを主導したビットコイン・キャッシュの関係者など、一部の人たちは、スケーリングのためには、ベースレイヤーブロックチェーンプロトコルへの変更が必要と考えている。
しかしそうすると、ネットワークセキュリティが犠牲となり、より中央集権化が進む可能性もある。真の可能性が潜むのは、処理能力の「スタックを上げ」る「レイヤー2」ミドルウェアである。レイヤー2を使うと、取引やソフトウェアコマンドは「オフチェーン」で処理される一方、ベースブロックチェーンは二重支払いを防ぐための検証の礎として機能を続ける。
最も知名度の高いレイヤー2プロダクトは、ビットコインのライトニング・ネットワークである。このアイディアが初めて登場したのは2016年1月、タデウス・ドリジャ(Thaddeus Dryja)氏とジョセフ・プーン(Joseph Poon)氏によるホワイトペーパーであった。
2021年になってようやく、エルサルバドルでのビットコイン法定通貨化の基盤として、ライトニングはその真価を発揮するようになった。エルサルバドルの公式ビットコインウォレット「チボ(Chivo)」はバグに悩まされ、ブケレ大統領は、国際社会から愛されているとは言い難い。
それでも、ライトニング・ネットワークによって、高額の取引手数料を発生させることなく、多くの貧しいエルサルバドル国民が小額の支払いをできているという事実は、このテクノロジーの進展において前向きな兆候である。
今年見られたそのほかのレイヤー2関連の進展は、分散型金融(DeFi)においてだ。ポリゴン(Polygon)やアービトラム(Arbitrum)といったプロトコルは、ゼロ知識証明ロールアップやプラズマ(Plasma)といったツールを使って、イーサリアムやその他のスマートコントラクトレイヤー1チェーン上での取引のスループットを増やしつつ、異なるチェーン間での相互運用性のためのチャンスをより多く生み出している。DeFiが、グローバル経済において伝統的金融モデルに真に対抗するためには、このような進展が不可欠である。
2. 発展途上国における暗号資産イノベーション
アメリカをはじめとする先進国においては、暗号資産に機関投資家が殺到したことに大いに関心が寄せられたが、発展途上国においても、同じくらい重要な普及のトレンドが見られた。
ビットコインやステーブルコインベースの国境を超えた送金が、多くの発展途上国で増加しており、トルコやアルゼンチンなど、問題を抱えた経済圏でも暗号資産決済は急速に拡大した。特に興味深いことに、独自のイノベーションの新たな中心地が、発展途上国の世界で出現している。
CoinDeskのポッドキャスト『Money Reimagined』では、3つの事例を取り上げた。ナイジェリアのDeFiプロジェクト、「プレーして稼ぐ型」暗号資産ゲームモデルの国際的進歩におけるフィリピンの大きな役割、そして公式の中央銀行デジタル通貨なしで金融包摂を高めるような、国内決済のためのブロックチェーン利用において第一線を行くカンボジアの姿だ。
3. 機関投資家の到来
今年は、有力ヘッジファンド、レイ・ダリオ(Ray Dalio)氏やジョージ・ソロス(George Soros)氏をはじめとする大物投資家、そして年金基金までもが、ビットコインを筆頭とする暗号資産に投資を始めた1年だった。さらに冒険心旺盛で暗号資産投資に前向きなヘッジファンドのいくつかは、DeFiにも手を伸ばしている。
ひねくれた見方をするなら、これら機関投資家の到来によって暗号資産価格が押し上げられた結果、より小規模なプレイヤーが押し退けられ、アクセスしやすい包摂的な分散型金融システムという夢が台無しになる、と捉えられるかもしれない。
しかし、1番目のトピックで話したようなレイヤー2プロジェクトが、取引を安価で効率的なものにしてくれるならば、このトレンドをよりポジティブに捉えることができる。暗号資産を、2つの理由からより安全なものにしてくれると、考えられるのだ。
まず、DeFiシステムにより多くの資金が預け入れられれば、攻撃をするのがより困難になる。ネットワークを乗っ取るコストがはるかに高くなるからだ。2つ目に、ウォール街や富裕な投資家たちがより多く暗号資産に投資するほど、アメリカの規制当局にとって、暗号資産を禁止するのが一段と困難になるのだ。
4. NFTにおけるクリエイティビティの爆発
NFT(ノン・ファンジブル・トークン)は突如、あらゆるところに広がった。辞書大手コリンズは、今年の言葉に「NFT」を選んだほどだ。
「Bored Ape Yacht Club」シリーズのようなコレクション品のアバターに対する投機的な熱中が、アートの面汚しだと、ひねくれた人(やお高くとまった人たち)は心配するかもしれない。
しかし、無数の営利目的や非営利のNFTアートやエンターテイメントプロジェクトの登場は、マネー、テクノロジー、コミュニティー、そしてアートを、ややこしいが魅力的な力の融合体に転換するクリエイティビティの爆発を象徴している。
NFTブームで経済的に最も大きな勝利を収めているのは、早くに飛びついたコレクターと、3月に競売会社クリスティーズで記録的な6930万ドルという高値で作品が落札されたBeepleをはじめとする話題の大物アーティストなど、一部の限られた人たちであるというのは、紛れもない事実だ。
かつては周縁に追いやられていたデジタルアーティストたちが、クリエイティビティを発揮し、自らの作品を直接販売するための新しい舞台を見つけているというサインも見られる。CoinDeskでは2月、ポットキャスト『Money Reimagined』の中で、南アフリカのアーティスト、Lethabo Humaを取り上げた。
5. プロトコルのアップグレード:ビットコインのタップルート、イーサリアムのロンドンハードフォーク
専門的なトピックから始めたこのシリーズは、別の専門的なトピックで締め括りたいと思う。こちらのトピックは、ベースレイヤーに新しい追加の機能を組み込もうとする代わりに、ベースプロトコルの上にレイヤー2プロダクトを開発した方が良いという考えと矛盾しているように見えるかもしれない。
しかし、プロトコルレイヤーでしか対処できない問題がある、というのが現実だ。そのような変更を分散型システムで行うのは本当に困難だ。それに関してコミュニティー全体のコンセンサスを得るか、さもなければチェーンを分岐するリスクを負うことになる。
そのため、2021年に2大ブロックチェーンにおいて大規模なアップグレードが実行されたことは、心強い展開であった。
1つは、長く待ち望まれたビットコインのアップグレードの「タップルート」。プライバシー、効率性、プログラマビリティ、そしてセキュリティが改善される。
もう1つは、イーサリアムのハードフォーク、「ロンドン」だ。こちらはイーサリアムの取引手数料「ガス代」のボラティリティ緩和に役立ち、市場でのETHの価値を高めるような形で、長期的なETHの流通量を減らす可能性を生み出した。
どちらのアップグレードも、より幅広い暗号資産エコシステムを前進させる、重要で意義のある変更である。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:5 Reasons for Crypto to Be Thankful