ロンドン証券取引所や、ベルギーにある国際証券決済機関ユーロクリア(Euroclear)が、取引・決済対象の資産にNFTを含めることにすると言ったらどうだろう。
それこそが、スイス連邦金融市場監査局(FINMA)からのライセンスを取得した後に運営を開始した、スイスの暗号資産(仮想通貨)取引所のSIXデジタル取引所(SIX Digital Exchange:SDX)が構想していることなのだ。
NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。NFTを利用した事業は世界的に拡大している。
暗号資産の新しい世界と伝統的金融の融合は、SDXが具現化している。SDXの親会社であるSIXグループは、スイスの証券取引所を運営している。
SDXの会長トーマス・ジーブ(Thomas Zeeb)氏は、門戸は開かれていると述べる。NFTへの進出は、既存の金融商品に加えて、不動産やアートなどの従来とは異なる資産をトークン化することを計画してきたSDXにとって、自然の成り行きのようだ。
「しばらくの間は外に出せず、あたためてきたものを加速的に展開していきたい。楽しみにしてほしい」とジーブ氏は語る。「SDXがNFTにとって望ましいインフラでない理由はまったく見当たらない」
グローバルな流動性に目をつけるSDX
短期的には、資産がしっかりとした取引所にあることから生じる流動性や価格発見から恩恵を受けようとする、デジタルに精通した投資家をターゲットとできるような、株式における新しい上場プロダクトを含め、比較的すばやく立ち上げられるトークン化プロダクトが控えていると、ジーブ氏は説明した。
「流動性を持つことができない多くのプライベート市場プロダクトがある」とジーブ氏。「約束手形や、予想できる通り、NFTを備えたアート信託もある」と話す。
グローバルな野心を持った、デジタル資産計画である。
SDXは2020年12月、スイスに拠点のある暗号資産取引所と証券集中保管機関(CSD)をシンガポールで再現するために、日本の銀行・金融サービス大手のSBIグループとのパートナーシップを発表した。
ジーブ氏がアジア・デジタル取引所(Asia Digital Exchange:ADX)と呼ぶこのSBIとの共同事業は、アジアとヨーロッパ間で規制されたグローバルな流動性プールを作るためのものだ。
「それによって、発行者がアジアにいてADXを通じて発行しても、ヨーロッパにいてSDXを通じて発行しても、多くのチャンスが開かれることになる」と、ジーブ氏は述べる。
「おそらくどこかの時点で、アメリカともつながるだろう。そうなれば、そのネットワークにどこでアクセスするかは関係ないような、グローバルな流動性プールが整うことになる。投資家としてはそのようなグローバルのプールにおいて、流動性、価格発見、スプレッド、取引高のメリットを受け取ることができる。それは将来的に、かなり興味深いものとなっていくだろう」(ジーブ氏)
SDXとSBIの共同事業は、シンガポール金融管理局からの承認を待って、2022年に運用開始予定だ。
CBDCとステーブルコイン
SDXが新天地を切り開こうと待ち望んでいるもう1つの分野は、スイス国立銀行との連携を通じた、一種究極のブロックチェーンベースの決済トークンである、ホールセール型中央銀行デジタル通貨(CBDC)だ。
国際決済銀行(BIS)も関与したSDXによるCBDCへの取り組みは、ユーロ建てCBDC決済トークンと連結させるために、フランス銀行が監督するデジタル資産サンドボックスにも取り込まれている。
「まもなく、CBDCについての私たちの現状を示すようなものが出てくることになっている」とジーブ氏は語り、次のように続けた。
「BISが関わっていること、シンガポールでの取り組みとも関連があることを考慮すると、フランス銀行とともに、そして私たち自身がヨーロッパで取り組んでいるものを前進させるという点からも、興味深い展開だ」
一方、SDXのスイスフラン連動型ステーブルコインは、「CBDCへの移行段階」として機能する、とジーブ氏は説明した。SDXとスイス国立銀行との合意では、SDXがスイス国立銀行の口座にあるスイスフランをブロックして、ステーブルコインを発行することになっている。
「新たに通貨供給を生み出す訳ではない。スイス国立銀行は、自らがCBDCをめぐる分析を完了させる間、そのようなやり方に承知した」と、ジーブ氏は話す。「スイス国立銀行がゴーサインを出したらすぐに、ステーブルコインの新たな用途を見つけ、CBDCの方へ直接移行することになるとみている」
ジーブ氏は物事がもう少し迅速に進めばと願っているが、他国の暗号資産ロードマップに比べれば、スイスは比較的すばやく前進していることも認めている。
「おそらくこの点に同意するスイス人はあまり多くないだろうが、かなり初期に『デジタル戦略を持つ必要がある』と決断した見識のある政府を持っているという恩恵を、私たちは受けている。スイスは小さな国だ。だからこそ、要件を決めて、民間に取り組ませることができる」と、ジーブ氏は述べた。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:スイス・ベルンの街並み(Shutterstock)
|原文:A National Stock Exchange That Supports NFTs? Welcome to Switzerland